今回はこういうお題でいきます。『グリム童話』に出てくる話は
近代に採取されたものですが、その起源は古いことが多いんですね。
例えば「シンデレラ」の話は、なんと紀元前のエジプトにまで
さかのぼるんです。

「昔、エジプトにロードピスという名前の美しい女奴隷がいた。主人は
優しい人だったが多くの召使いにじゅうぶん目が届かず、肌が白く外国人の
ロードピスはまわりの女召使いからよくいじめられていた。
あるとき、ロードピスが上手に踊るのを見た主人は、ロードピスに美しいバラの
飾りのついたサンダルを贈った。するとほかの女召使いたちは、ロードピスに

嫉妬して、いっそう彼女につらくあたるようになった。その後、エジプトの
王(ファラオ)が民衆を都に招き、大きなお祭りを催した。女召使いたちは
そのお祭りに出掛けていったが、ロードピスにはそのお祭りに行けないように
たくさんの仕事を言いつけた。仕方なく言いつけどおり川で服を洗っていると、

バラのサンダルを誤って濡らしてしまう。そこでそれを岩の上で
乾かしていると隼(はやぶさ)が持っていってしまい、それをメンフィスに
いる王様の足元に落とした。その隼がホルス神の使いだと考えた王様は、
国中からそのサンダルに合う足の娘を探し、見つかったら結婚すると宣言した。

 



王様の船がロドピスの住むお屋敷にやってくると、ロードピスは、
はじめ身を隠してしまったが、サンダルを履かせるとぴったり合った。
またロードピスが残していたサンダルの片割れも見つかり、
王は宣言どおり、ロードピスと結婚した」

こういうお話があったんです。それが代々伝えられてヨーロッパの民話の
一つになっていったんです。このように、貧しい境遇の娘が王様(王子様)に
見初められて幸せになるというのは、話の筋としては典型的です。
民衆の希望を表しているんだと思います。

ただ、グリム兄弟が採取した民話とはやや内容が違います。まずガラスの靴が
サンダルになっているし、真夜中を告げるお城の時計は出てきません。
ガラスの靴も、機械仕掛けの時計も、それができたのは13、14世紀ころの
ことで、それ以降にお話につけ加えられたんですね。

ですから、つじつまが合わない部分があります。午前0時になると魔法が
解けてしまうのに、なぜガラスの靴だけはそのままなのか?
これ、みなさんも不思議に感じなかったでしょうか?
そう考えた人は世界中に多く、ディズニーは、魔法の馬車などはもともと
かぼちゃを、ドレスはボロ服を変えたものだったが、シンデレラが
裸足だったため、ガラスの靴は新しく魔法でつくったからという
苦しい言いわけをしています。

 



このように、民話にはその時代時代に新しく発明されたもののことが
取り入れられているんですね。で、ここまでのことを考えると、魔法と
いうのは、ある物を別のものに変化させることができるし、
またゼロから新しくつくり出すこともできるということになります。

次、『白雪姫』に出てくる魔法の鏡です。もともとヨーロッパには
ステンドグラスの伝統があり、板ガラスは古くからつくられていましたが、
その裏に水銀をはって鏡にしたのは、やはり14世紀ころだと
考えられます。

で、この鏡、聞いた者には真実を告げるようになっていたんですが、
魔女が「鏡よ鏡、この世で一番美しいものは誰?」と聞いたとき、
ある時点までは「それはあなたです」と答えが帰ってきましたが、
子供だった白雪姫が成長すると、あるときから
「それは白雪姫です」と答えるようになり、魔女は嫉妬にかられます。

 



しかしこの鏡、現在の生成AIみたいですね。何でも答えてくれる。でも、
美の基準というのは決まっているわけじゃなくて、見る人の好みに
よるんじゃないかと自分は思うんですが、これは魔女が齢をとってしまい、
容貌が衰えたということなんでしょうね。

それはともかく、鏡に自分の顔が映るのは不思議で、魔法と考えられる
ことが多かったんです。『鏡の国のアリス』『雪の女王』『ハリー・ポッター』
など現代の作品でも、不思議な鏡をあつかったものは多いですよね。
日本だと、明治になるまでガラスの鏡はなかったので、あまり民話には
出てきません。

金属の鏡ならお岩さんの話があるかな。でも、これは怪談だし、
金属の鏡はしょっちゅう磨いてないと写りが悪くなる めんどくさいもの
だったんです。それに高額で、庶民はなかなか持てませんでした。

 



あとは「眠れる森の美女」。筋はおわかりと思いますが、王女の誕生日に
招かれなかった魔女が「王女は15歳になると、紡ぎ車の錘が指に
刺さって死ぬ」と呪いをかけ、その呪いは別の魔女によって
「死ぬのではなく眠りにつく」とやわらげられます。そして年月がたち、
森に立ち寄った王子様が眠り姫を見つけて・・・

この3つの話に、魔法の重要な3つの要素が出てきています。
「呪文」「魔法のアイテム」「呪い」ですね。ほとんどの民話は、
この3つの組み合わせによって成り立っているんですが、それ以外の
感情、人の心というのは、現代とあまり変わらないんですね。
では、今回はこのへんで。