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石ノ森章太郎 『龍神沼』

今回はこういうお題でいきます。オカルト論で民俗学的な
内容なんですが、これについてのまとまった研究ってほとんど
ないんですよね。Wikiにも本項で取り上げる意味での項目は
ありませんでした。ですから、どんなことが書けるか、
いまいち不安です。

さて、「ヌシ 主」ですが、もともとは「大人 うし」という
言葉で、それが短縮されたもののようです。日本の神の名前には、
この主がつくものが多いです。例えば「大国主命」、
この場合の主は「ある領域を支配する者」という意味で、
大国主は、広い領域の支配者、王であったことがわかります。

で、今回取り上げるのは神様の話ではなく、「池のヌシ」
などと呼ばれるものについてです。例えば、ある池で巨大な鯉が
釣れた場合、「これはこの池のヌシだな。祟りがあるかもしれない
から逃してやれ」などと言われたりします。

仏教の善女龍王
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自分が考えるヌシの特徴ですが、まず一つめは、水との関係が
深いことです。もちろん、山のヌシの大百足とか大猪といった
話もないわけではないんですが、自分が見聞きしたところでは、
やはり、湖、池、沼、淵、井戸など、水域にヌシがいる場合が多い。

これはどうしてなんでしょうかね。やはり山だと、岸に囲まれている
水域よりも、境界がはっきりしにくいということが
あるかもしれません。山の場合、ヌシというより神が支配している
場合が多いでしょう。倭健命は、白い大猪の姿をとった伊吹山の
神と戦って敗れ、それがもとで亡くなります。

伊吹山の神と倭健命
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で、その水域の広さによって、ヌシのグレードも違ってきます。
大きな湖だと、ヌシは龍や大蛇などの大物になります。
それに対し、沼や井戸のヌシは蛙なんかの小物の場合が多い
ようです。後で実例をあげてみます。

二つめの特徴としては、ヌシは女性の場合も多いということです。
有名なのが、秋田県に伝わる「辰子姫伝説」ですね。日本一
水深があるカルデラ湖、田沢湖がまだ田沢潟と呼ばれていたころ、
近くの村に、まれにみる美しい娘、辰子がいました。

田沢湖と辰子像
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辰子はその美しさと若さを永久にたもちたいと考え、ひそかに
大蔵観音に百日百夜の願いをかけます。満願の夜、「北に湧く泉の
水を飲めば願いがかなうであろう」とお告げがあり、辰子は、
わらびを摘むと言ってひとりで家を出て、峠を越え、

深い森の道をたどって行くと、岩の間に清い泉がわいているのを
見つけます。喜び、手にすくい飲むと、なぜかますます喉が渇き、
ついに腹ばいになり泉が枯れるほど飲み続け、
ふと気がつくと、辰子は大きな龍になっていました。龍になった
辰子は、田沢潟の主となって湖底深くに沈んだ・・・

ヌシは亀やカニなどの場合も
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だいたいこんな話です。ちなみに、干拓された八郎潟のヌシは
八郎太郎という男です。龍(蛇)の場合、人間が見ても
齢をとってるかどうかはよくわからないので、辰子の
永遠の若さをたもちたいという願いはかなったことになります。

あと、サムネイルになっている画像は、漫画家の石ノ森章太郎氏、
初期の代表作『龍神沼』からのもので、龍神沼は森の中の
小さな沼ですが、少女の姿をとる龍が棲んでいて、
悪巧みをした村長らに罰を与えようとします。

大鳥池で捕獲された岩魚?の魚拓 70cm
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さて、次に井戸のヌシの話。江戸時代のこと、ある旗本が、
屋敷の敷地にあった、さわってはいけないと昔から封印されている
井戸を、禁を破って用人に水を浚わせました。すると、
泥に混じって幼児ほどもある蛙と、それより小さい蛙3匹が
出てきたので、旗本は用人に殺させます。

すると、その晩のうちに、用人は自分の舌を噛み切って死亡。
また次の夜、旗本は布団の中で短刀で喉を突いて死亡。
どちらも自害に見えましたが、死ぬ理由がないので、これは
井戸のヌシの蛙の祟りだろうと人々が噂した・・・
こういう内容が『藤岡屋日記』という商人の日記に出てきます。

さて、最後に、実際にいるかもしれないヌシの話。先日、漫画家の
矢口高雄氏の訃報が入ってきましたが、氏の『釣りキチ三平』には、
夜泣谷の怪物、 O池の滝太郎、古沼の大怪魚などの巨大魚、
怪魚が登場します。O池というのは山形県鶴岡市の大鳥池のことで、
タキタロウはイワナの仲間と推測されています。

巨大両生類 オオサンショウウオ
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自分は以前は渓流釣りをやってましたが、今は忙しくて
ほとんど行けません。その前、中学校のときは鮒釣りなどをしてて、
家の近くの三日月湖に行くと、大きな鯉の回りに小魚が集まって
群れのようになり、回遊してるんですね。そういうのが
ヌシ伝説につながっているのかもしれません。

さてさて、ということで、ヌシについて見てきました。これは
UMAとも関係がある内容で、富士五湖のうち河口湖、本栖湖には
数mにもなる巨大魚がいるとも、魚ではなくオオサンショウウオ
だという話もあります。では、今回はこのへんで。

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