毒の改良と〝鬼舞辻の呪い〟 | 物語の面白さを考えるブログ

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前回に引き続き、珠世さんについて思ったことを書きます。

 

お館様専属の鎹鴉が、珠世さんのもとを訪れ、鬼舞辻無惨を斃すべく、共闘を提案しました。

その際、次のようなセリフを口にしています。

 

「鬼殺隊にも鬼の体と薬学に精通している子がいるのですよ」

 

これはもちろん、胡蝶しのぶのことですが、注目したいポイントは別にあります。

鬼殺隊に〝も〟――と発言している点です。

これの意味するところは、あなたと同様、鬼殺隊にも、と補うと、わかりやすくなります。

つまり、お館様は、珠世さんが鬼の体と薬学に精通していることを知っていたことになります。

いつ知ったのでしょうか?

 

前回の記事で、お館様は、鬼舞辻抹殺を目論んでいる〝珠世〟という名の鬼がいることを知っていたのではないか、と推察しました。

縁壱さんが鬼舞辻無惨を斬った話は、当時の炎柱によって後世に伝えられています。

その際、無惨と一緒にいた〝珠世〟をわざと見逃した件で、縁壱さんは鬼殺隊の仲間たちから責められました。

この時点で、〝珠世〟の存在が鬼殺隊の知るところとなったのは間違いありません。

ただ、このときは、珠世さんは、まだ鬼の体の研究を始めていなかったはずです。無惨と一緒にいて、そのような研究をすることを許されるわけがありません。思考を読まれてしまうので、隠れて研究することも不可能です。

縁壱さんが無惨に深手を負わせ、弱体化させたことで、〝鬼舞辻の呪い〟が一時的に外れ、珠世さんは自由の身になりました。

この経験から、〝呪い〟を外すことができると知った珠世さんは、永続的に解呪する方法を求めて、研究を始めたと考えるのが自然です。

すると、やはり、お館様が、珠世さんが「研究者」であることを知った時期が謎となります。

 

炭治郎が珠世さんと知り合うこととなったきっかけは、「浅草に鬼が潜んでいるという噂」の調査でした。

この噂の鬼は、珠世さんと愈史郎のことであると、公式ファンブックで明言されています。

噂をしていたのが、一般人であるとするなら、「鬼が潜んでいるようだ」という形で話すのは、不自然に思われます。一般人にとっては、鬼の存在は迷信レベルの不確かさであるからです。鬼殺隊に入る前の炭治郎も、三郎じいさんに鬼が出るぞと言われて、鬼なんていないよと、心の中で否定していました。

だとすると、噂の形は、「不思議な医者がいる。あれは本当に人間なのだろうか」といった、怪談めいた調子を帯びたものとなるでしょう。鬼殺隊の関係者がこれを聞いたら、もしや鬼では? と疑うのは自然な成り行きです。ここから、「浅草に鬼が潜伏している可能性がある。剣士は速やかに調査せよ」という指令が出来上がったと推察します。

この「不思議な医者」の噂は、もしかしたら、以前から聞こえていたのかもしれません。浅草以外の土地でも。耀哉さんより前の時代から。

そして、炭治郎が接触したことで、「医者」が〝珠世〟であることがわかった。

さらに、炭治郎が鬼の血を採取して、奇妙な猫に託すところを、鴉が目撃していたとしたら。

「医者」である〝珠世〟が、鬼の血を調べている――。

お館様の脳裏には、「研究者」としての姿が、次第に鮮明に浮かび上がったことでしょう。

そして、それは、ひとつの推測を呼び起こします。

〝珠世〟の目的が打倒・鬼舞辻であるなら、「研究」の内容も、当然、その目的を達成するためのものであろう。しかし、未だ、鬼舞辻無惨の抹殺は為されていない。それは、「研究」が未完成であることを意味している。

ならば――

鬼殺隊にも、鬼の体と薬学に精通した者がいる、その者と協力すれば、あなたの研究も進捗することでしょう。

このように誘い水を向けるのは、珠世さんの心を動かすのに、有効だったと思われます。

 

珠世さんに共闘を持ちかけたとき、鴉はこうも言っています。

 

「禰豆子の変貌も含めて一緒に調べていただきたい」

 

禰豆子の変貌とは、太陽を克服したことを指していると考えて、間違いないでしょう。

このことから、珠世さんと鬼殺隊との協力関係が成立したのは、「刀鍛冶の里」編以降であることが確定します。よって、しのぶさんが藤の花の毒を摂取し始めた一年前に、すでに協力態勢ができていたと見るのは誤読です。

その毒について、童磨との死後の会話(!)で、しのぶさんはこう発言しています。

 

「あれは鬼の珠世さんが協力して作ってくださったものですから」

 

これが誤読のもとともなったわけですが、時系列を考えれば、すでに毒化していたしのぶさんの身体に、あとから珠世さんが手を加えたと解釈するのが妥当でしょう。

では、どのように手を加えたのか?

 

通常、しのぶさんが日輪刀に仕込んで使用している毒は、即効性のあるものです。

那田蜘蛛山で蜘蛛の鬼(姉)に使ったとき、すぐに効き目が顕れました。

無限城で童磨に射ち込んだときも同じ。

戦場で格闘戦のさなかに使用することを考えれば、これは当然です。あとから効果が顕れても困るわけですから。タイムラグは短いほどいい。

ですが、しのぶさんを喰ったあと、童磨に毒が効き始めるまでは、大分時間がありました。

必要があったから、効き始めを遅らせたと私は考えます。

仮に、即効性のままであったなら、全身を喰わせることが不可能となります。

鬼殺隊との総力戦のさなかであったゆえか、童磨は「吸収」という形でしのぶさんを捕食しましたが、もし、信者を喰うときのように、口で噛んで呑み込んでいたなら、そして、すぐに毒が効き始めたなら、童磨は喰うのを途中でやめたことでしょう。これでは、体重三十七キロ分――致死量の七百倍の毒を摂取させる目論見が果たせません。

だから、毒の効き目を遅らせる必要があった。

童磨は、死後の会話で、「回りきるまで全く気づかなかった」と証言しています。

毒の即効性は抑制されていたと見るべきでしょう。

また、効き目が顕れる前に分解されてもいけないので、鬼の免疫機能を騙す成分が含まれていた可能性も十分あります。

そのため、童磨の肉体は、体内に侵入した毒を、毒と判別できず、栄養と誤認して、吸収してしまった。そのあとで、いよいよ、毒が本性を顕して暴れ出した――。

このような仕掛けは、珠世さんでなければ作れなかったにちがいありません。

なぜなら、彼女は、〝鬼舞辻の呪い〟を研究していたからです。

〝呪い〟となる鬼舞辻無惨の血液には、鬼の細胞を破壊する成分が含まれています。

しかし、それは、普段は効力を発揮しません。と同時に、免疫機能によって異物と判断され、排除されることもありません。

無惨の名を口外するなど、特定の条件が満たされたときに、〝呪い〟は発動する仕組みになっています。

鬼の免疫機能によって排除されず、かつ、任意のタイミングで有害化する――。

この二点の特徴を持った毒を作れるのは、珠世さんならではだと思うのです。

 

 

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