学会初日です。午前中の2つのワークショップを聞きました。
ひとつは『DHEAとアンチエイジング医学』。この7月から順天堂大学大学院医学研究科に新しく出来たアンチエイジング医学の講座である加齢制御医学講座の教授になられた白澤卓二先生と九州大学内科の柳瀬敏彦教授が座長。血清DHEA-sのアンチエイジングにおける老化のバイオマーカーとしての意義は、男性においてはかなりあるのではないかという結論でした。一方、アンチエイジング外来では比較的広く行われているDHEA補充療法の有効性に関しては、まだまだ臨床的検討を有する段階に留まっているようです。
ワークショップの2つめは『成長ホルモン』。成長ホルモンの補充療法に関しては、以前、このブログ でも紹介しています。今回はその時に紹介した島津章先生や、保険診療下での成人成長ホルモン分泌不全症(AGHD)に対する成長ホルモン補充療法の第一人者でもある神戸大学医学部の置村康彦先生らの話が直接聞けるということで楽しみにしていました。内分泌内科の専門家がどういうスタンスでアンチエイジング医療におけるヒト成長ホルモン補充療法を考えていらっしゃるのか、まさに聞き所のセッションです。
島津先生のご発表は実に的を得てわかりやすいものでした。加齢によって確かに成長ホルモンの産生・分泌は低下します。今現在、一部の美容外科系クリニックなどで安易に行われている抗老化目的の成長ホルモン補充療法は、対象者のある時点における成長ホルモンレベルを測定(IGF‐I測定にて)し、その値がある基準値(海外のデータを参考にして臨床医が個々の判断で決めていることが多い)以下であると、ヒト成長ホルモンの補充療法を開始するわけですが、ここに問題があると。
AGHDという疾患レベルでのGHレベルの低下は絶対的なものであり、これにはホルモン補充療法が効果的であるばかりか必要な治療といえます。しかし、加齢によるGH低下は同一個人における縦断的な調査の上でのものではなく、あくまで相対的にGH分泌が低いレベルにあると仮定されたに過ぎないわけです。加齢によるGH分泌低下は相対的な機能障害であり、AGHDとは根本的に病態の背景が違うのです。健常人におけるGH投与においては、GHの非生理的な血中動態が見られることや副作用も看過出来ないレベルであることもお示しになっていました。
1990年のかのRudman Study が十分な科学的根拠がないままに、「GH投与が老化を防ぐ」かのように宣伝されてしまい、それが商業ベースにまんまと乗ってしまった経緯を嘆いておられたのが印象的でした。島津先生はやんわりとですが、医学的には抗老化目的でのヒト成長ホルモンの補充療法はNGであることを明言されていました。
続いての置村先生のお話でも、健常中高年者に対するGH補充療法については、現在のところ、その有用性を積極的に示す臨床成績が十分ではなく、AGHDに対するGH補償療法とは、明確に分けて考える必要があることが強調されていました。また、日本内分泌学会、日本小児内分泌学会では、特にこういった健常人における安易な適応外でのGH補充療法の増加を危惧していて、つい最近、「成長ホルモンの適正使用に関する見解」を発表しています。
これに対して、3人目の演者として、都内にあるアンチエイジングクリニックで数年前からGHの補充療法をアンチエイジング目的で行っている先生が「抗加齢医療を目的としたヒト成長ホルモン補充療法の展望」というタイトルで講演。
しかし、残念なことにそこでの具体的な症例の提示や、臨床データなどは一切紹介されず、『欧米(特にアメリカにおいて)においては日本よりももっと広く行われていて、それは取りも直さず、この療法が患者(受診者、対象者)の満足度の高いものであるからである』という抽象的で主観的な話に終始したものでした。まるで説得力がなく、始めから逃げに回った答弁のようで、決して後味の良いものではありませんでした。もしも、成長ホルモン補充療法が手ごたえのある皆に推薦しうる療法であるならば、自験例を症例発表の形でも良いので発表するべきでしょう。実際、これまでの導入症例数や継続している症例数、脱落数やその分析などを堂々と発表することこそが、この場における彼のなすべきことであったはずです。
何より私にとって違和感があったのは、『日本のアンチエイジング医療は「アンチエイジングドック+サプリメント」を中心にした日本特有のもので、これは現状において患者の高い満足度を得られるものではない。ビジネス的にも限界に来ている。それ故、患者自身が高い治療効果を実感できる抗加齢医療を構築する必要があり、これらの構築なくして患者のQOLの向上はない。成長ホルモン補充療法はQOL改善の効果を体感しやすい点で、もっと現場に導入されて良い方法である』という発言をしていたことです。
これは真のアンチエイジング医療をまるで理解していない誠に残念な発言です。患者(クライアント)の満足度を上げることは確かに重要です。しかし、それと医学・医療の本質ははっきりと異なります。アンチエイジング医療は基本的に健康のQOLをアップさせる医療であり、病気に対してのアプローチとは異なりますので、副作用や合併症があってはなりません。その点でもエビデンス不足の成長ホルモン補充療法を選択肢の上の方に持っていくことは否といえます。また、美容医療のように比較的短時間で結果が出やすいものがビジネス的に成功しやすい(クライアントの治療結果に対する満足度が高いので)ことを短絡的に結びつけているのは大きな間違いです。
正しいスタンスでの抗加齢医療の普及に努めることもこの学会の責務であります。