それは哀しい夢だった。
イメージは白い海で、
海と私の間にはあなたが立っているの。と彼女は言う。

海は幾度となく打ち寄せるけれど、
あなたの足を濡らすことはないの。
あなたは小さな蟹を見付けて、
それをつまみあげようとするんだけど、
それはあまりに可哀想だから、
私はあなたを止めるしかない。

段々と海の向こうが見えてくるの。
船や、ヨットや、民家があって、
だけどそこにはだぁれもいない。
だから私はそこに行くんだけど、
君が来るとそれらに近付くことができないから、
私は一人で海にいかなきゃいけないの。

…彼女は歌うようにそんなことを言う。
哀しい笑顔で彼女は語り、
僕は静かに、笑ってそれを聞いている。

座っていた彼女が立ち上がる。
もう行くの?と聞こうとして、
声が出ないことに気付く。
彼女は笑って、
慌てない、慌てない。
それだけを言って笑顔になる。

最後に一度握手をした。

そして彼女は店を出ていく。
彼女は僕の夢を見て、
僕は彼女の夢を見れない。
そして僕はぬるくなったコーラをすすって、

そこで、今日は目が覚めた。

彼女がどんな人だったのか、
僕とどんな関係にあったのか、
現実の僕には、検討も付かなくて、
もう一度会いたいと願っても、
それはきっと、叶わぬ夢で。

ただ一つ、
最後の手のぬくもりだけを忘れずに。
今日は今日を歩いていく。
そんな今日の、夢物語。

僕のギターケースの中には、

実は大きな銃が入っているんだ。

黒い無骨なスナイパーライフル。

スコープの照準も、少しだって狂っていない。


外見からは誰も気付かない。

派手な色のギターケースに入れてあるから、

ただギターを担いでいるだけだと思うはず。

もっとも、実際これはベース用のケースだから、

そもそもギターが入っているはずは無いんだけど。


ただの楽器弾きのような顔をして、

皆に合わせて笑顔を作って、

けれども僕は狙っているんだ。

10km離れた的を。


遠く離れたあなたを探して、

そっと照準を胸に合わせる。

引金を引けばいつでも終りにできるのに、

いつも躊躇い、無限に続く。


僕の銃は実は弱くて、ホントは誰も殺せない。

僕の銃はあまりに強くて、怖くて誰も殺せない。

伸びた黒い髪。

重くて、暑くて鬱陶しい。


だけど、


今はまだ切れない。


貴方への気持ちに整理をつけるのは、

まだ季節一つ分早いからね。

散歩。


紐で繋いで。


散歩。


家の周りをグルグル回る。


散歩。


一体、


誰が、


誰を、


歩かせてるの?


散歩。


散って歩け。

喰え。

喰え。

喰い尽くせ。


お前が誰かは知らないが。

目の前の馳走を先ずは喰え。


私が誰かは知らないが。

頭蓋の中身を抉り出そうぞ。


怒りを

怒りを

怒りを

怒りを。


兎にも角にも喰ってくれ。

溢れる溢れる溢れる前に。


最早猶予は露ほども無く。

これより以上の声など無いのだ。

もはや残ってはおりませぬのでしょう?


ならば塵芥へ還ることと致しましょう。


貴方様が心から死を求めるのでありますなれば、


信徒たるこの私めが、何もせずにはおれますまい?

怖かった。
失いたくなかった。
だから、今でもまだ怖くなる。

もう、関係ない。
頭では分かっているけど、すぐに受け入れられるわけじゃない。
現実にこうして、目の前には「それ」があるんだし。

掻き乱さないで欲しい。そっとしておいて欲しい。
もう、嫌だ。
何もせずにおびえていることも、
何もせずに待っていることも。

もう疲れた。

失いたくない。

それとももう、無理なのか。。。


解決策を考えてみる。
なるべく早く、対処しないと。

全てが手遅れになる前に。

低音、鳴り響き。

箱の側面、揺さぶり震え。


低音、鳴り響き。

箱の天井、罅入り割れて。


低音、鳴り響き。

叱れど何とも共鳴はせず。


低音、鳴り響き。

底を掬うものはなく。


低音、鳴り響き。

其処を救うものもなく。


低音、鳴り響き。

祈るのみ。


低音、鳴り響き。

叫ぶのみ。


低音、鳴り響き。

響くのみ。


低音、鳴り響き。

小さき世界の、大きく育つのみを待つ。

重い荷物を肩に担いで
帽子を深く被って歩き出す。

私には歩く理由も、
目的も、
目標すらもないけれど、
ただただ荷物が重たくて
ふらふらするから止まれなかった。
留まれなかった。

肩の荷物は段々と、
大きく、重たくなっていった。
人と出会い、そして別れたその時に、
荷物の重さを意識した。

時に潰されそうになる。
時に投げ捨てたくもなる。

同時にこの重さを愛しく思い、
この重さを嬉しく思う。

重い荷物に動かされ、
重い荷物に生かされる。

きっと人生ってそんなもの。
煩わしくて、捨てたくて、
それでもきっと大切なもの。
服を選ぶ。

あぁでもないこうでもない。

服を選ぶ。

これをこういう風に着て、
これをこう合わせたならば、

きっとそれは綺麗な調和になるだろう。

選んだ服を着て、鏡の前に立つ。
頭のなかの映像と、鏡のなかの映像は、
完璧なほどにオンナジで、
笑いたくなるほどそっくりで。

自分のなかの、素敵な色彩感覚。
自分のなかの、完璧な色彩感覚。

だからこそ、
君が選んだ服が、
僕は嫌いだ。