ビバップトニックスケールの生成について考えてみた。
いわゆるビバップトニックスケールというのがあります(バリー.ハリスはこの言葉を嫌ってた)。なんでこれが生成されたのかということについてぼんやりと考えていたのですが、なんとなくこれではないかというひらめきがあったので備忘録として書いておきます。西洋音楽はダイアトニックスケール、すなわちピアノの白鍵で構成されるスケールについての理論です。で、西洋音楽には暗黙のルールとして「拍のアタマにコードノートを弾く」というルールがあります。ダイアトニックは7音スケールなので、8分音符で上昇で弾くと最初の1小節目ではC, E, G, Bが鳴りますが、2小節目ではD, F, A, Cとなり、ナチュラルテンションの9th,11th,13th,が鳴ってしまいます。2小節目はコード記号で書くとDm7であるべきです。まだこれは許容できる気がします。では下降で弾いてみましょう。そうすると、Cのコードが想定されているのですが、ダイアトニックを8分音符で下降で弾くと拍のアタマはC, A, F, Dになります。Cにならないんです。Dm7になっちゃう。
これを解消するためにはどこかに経過音を挟まないといけなくなるわけですが、挟めるポイントは唯一G#だけです。CDEFGG#ABの8音にすることによって上昇でも下降でも拍のアタマの音がC.E, G, Aになります。8音スケールにすることで4拍子であれば常に小説のアタマが主音になります。このスケールがいわゆるビバップトニックスケールになるわけです。マイナーにしたかったらEをEbに置き換えれば良いのです。メロディックマイナースケールに経過音を挟んだスケールが出来上がります。このスケールを8分音符で弾くと、拍アタマはCEGAでC6コードが鳴り、拍ウラはDFG#Bのディミニッシュになります。バリー.ハリスが6th diminishと言っているのはこのことであると思われるのです。
ディミニッシュのDFG#Bは、見方を変えるとF,BとD,G#の2つのトライトーンが組み合わさっていることがわかります。つまりこのディミニッシュにはG7(裏のC#7も)が暗示されているわけです。これに気がつくと(主にコード楽器の方向けですが)、コードヴォイシングに極めて柔軟に対応することができるように見えます。
ちなみにビバップドミナントではCDEFGABbBの8音にすることでドミナントコードの構成音であるBbを拍のアタマに置くわけです。シチュエーションに応じて経過音を置くポイントは柔軟に変更できるわけだからこそ、バリー御大は「ビバップスケール」という言葉を嫌ったのだとも思えます。彼はこの6th diminishはピアノのコースでしか使わず、管楽器のクラスではメジャー、マイナーとしか言いませんでした。何れにしてもこれはクラシカルな西洋音楽の理論を軸にして考えられているので、ビバップ云々以前の問題としてダイアトニックスケールから派生する和声の機能性を理解した上での話、ということになるのでしょうが、ジャズをやりたいと思っていらっしゃる方のかなり多くがこの「ダイアトニックスケールから派生する和声の機能性」というとことをお留守にしてジャズの理論を学ぼうとしているように見えます。そこに大きな壁があるのではないかと思われるのです。
ジャズの和声の理論が難しく見える理由
ジャズの和声の理論には常にいかめしいというか難解なイメージがつきまとっています。やれコードだモードだ何やらかにやらのややこしい用語がたくさんありすぎて手に負えないという人も多いのではないでしょうか?
私は独学で、しかもコードネームを覚えるとかいう以前に耳で全部判断していたのですが(いまだにコードネームを読み書きするのは苦手です)、よほどの難曲でない限りあまり困ることもなく、30過ぎてから本を読んで大枠は理解した、という感じです。アヴェイラブルノートスケールみたいな用語の意味は知りませんが困りません。
今ある結論はジャズのアドリブは「シンプルだけど奥が際限なく深い」ということです。決して難解だとは思わないのです。なぜ世間の人には「難しい」と見えてしまうんだろうかと考えつつ、自分が教えるときにシンプルで説得力のある説明をするにはどうしたら良いかをあれこれ考えてきました。
世界中の様々な民族音楽などを聞いていて気がついたのですが、ユーラシア大陸の民族音楽はスケールに縛られているんです。つまりモードミュージックなんです。ざっくり言うとヒマラヤから東は5音音階が主流で、中近東やインドでは微分音を含む多くのスケールがあり、ヨーロッパに入ると7-8音スケールが主流になります。スケールは厳格に指定されていて、そこからの逸脱は許されないのです。私たちが学校で学ぶ音楽、すなわち西洋音楽の理論はイタリアからドイツあたりにかけての民族音楽がアカデミックに発展したものだと思われるので、中学校くらいで学ぶ長音階と短音階の成り立ちや機能性を理解する必要があります。が、ジャズの理論を勉強しようと言う人の大半がここがお留守なのです。しかも困ったことにジャズの理論では西洋音楽の基礎になっているスケールを土台にしながら「スケールに存在していない音を使うことができる方便」を書いているので、土台になっているスケールの知識が不十分だともうそこで路頭に迷います。ジャズの話声の理論が複雑化するのは1940年代、すなわちビバップ以降です。それまでのジャズの和声はクラシックのものに忠実なものが多いのです。ソロのスタイルを見ていてもビバップ前から活躍しているいわゆる「中間派」の人たちのフレージングとビバップ以降の人にははっきり違いがあります。知識の土台がしっかりしていないのにいきなりビバップから入ると混乱するのではないかと思えます。アドリブの習得プロセスは外国語会話のそれと同じなので、間違えようが何をしようが実際に音を出さないと上達しません。その間違え方さえその人の個性なのに、恥ずかしがったり躊躇したりして練習しないからいつになっても上手くならないんです。草スポーツや囲碁将棋などのゲームではどんなにヘボでも人前でやれるのに音楽や言語などの自己表現メディアで躊躇しちゃうと言うのが多くの日本人に有り勝ちな現象です。そんな意識は捨ててしまった方が良いです。それができた人ほど上達が早いです。
まずはピアノの白鍵のスケールでできること、スケールから派生する和音の機能性を確認することから始めると良いと思います。私がジャズのあれこれを学ぶ過程で非常に強く印象に残っている言葉を3つ並べておきます。
Think key, not chords. : Mark Levine
Every chord comes from scale. : Barry Harris
Musical universe is in inside. : Carl Saunders
インサイドを理解しないでスケールアウトしたいとか本末転倒なんですよ。
音量と音質
個人的な感覚として、日本の非クラシックな音楽の現場の音量のデフォルトは欧米に比較して大きすぎるという印象を持っています。
アコースティックな楽器にはダイナミクスによって様々な音色があることが忘れられているような気がするし、ラウドに吹くとフレーズがガサツに聞こえてしまうんです。ライブの現場に行けばPAで音が作られていることが多いし、家で聴く分には自分の好きな音量で聞けるわけですが、それがために「どれくらいの音量で演奏されているか」を聞き落としてしまうのではないかと思えるのです。幸にして何人かの巨匠とお手合わせさせてもらいましたが、実に抑制の聴いた音で、「あ、これでいいんだ」と感じることが多かったです。mpくらいをデフォルトにしておけば十分ではないかと思います。