マイナーメタルを聴くにあたって避けることができないこと。それは音質の悪さ。自主制作、あるいは世界各国のマイナーレーベルから発売していたバンドは皆、基本的に音質が悪いと思っておいたほうがいい、もちろん例外的にマイナーでも音質の良いバンドやアルバムはあったし、マイナーに堕ちた元メジャーバンドなどはメジャー時代と同様の高音質を保っていたような場合もあったが、ほとんどのマイナーバンドやクサレメタルのたぐいは、劣悪な音質が標準装備の付き物であると言える。金をかけられないからだ。
長年クサレメタルを聴いている者にとって、音質の悪さで特に有名なレーベルがある。それは世界各国マイナーレーベルであれば大概そうなのだが、例えばMETAL BLADEであれSHRAPNELであれNOISEであれDEVIL'SであれMAUSOLEUMであれ、メジャーレーベルに比べてやっぱり音は悪い。中でもEBONYとNEATの音質の悪さは特筆もの、まだEBONYは音の悪さのなかにもEBONY独自の音の悪さというか、そのEBONYらしさがマニアを喜ばせていたようなところもあったが、同じイギリスのNEAT RECORDSの音の悪さは失神寸前の強烈さ。
数多くのメタル系アルバムを出していたNEATには結構な有名バンドも所属していて、稀に良い音質のアルバムや、そこまで酷くないのが多くあったのも確かなのだが、悪いほうは「これマジ?」って顔が引きつるぐらい酷いのがあった。
これはすごいと思った。内容的には最高だっただけに余計にそう思った覚えがある。ただし、まだ辺境のもっと音の悪いのを知る前のことだ。
AVENGER
ニューカッスル出身の4人組。後期NWOBHM期において異常に複雑な人脈を誇るSATANファミリー、これもその中心に来るバンドのひとつ、SATAN、BLITZKRIEG、そしてこのAVENGER。元BLITZKRIEGのVo、ブライアン・ロスが82年に結成。同年にデモを制作、NEAT RECORDSから発売された1発録りスタジオライブオムニバスアルバムに “Hot ’n’ Heavy Express” で参加、
ONE TAKE NO DUBS
83年7インチシングルの発表を経て、
TOO WILD TO TAME
アルバムデビューを果たすのだが、シングル発売前に(レコーディングには参加)中心のブライアンが脱退、バンドは元SATANのイアン・スイフトを迎える。
84年の1st。
BLOOD SPORTS
恐ろしいまでにイギリスの音。ポップ系でもパワーメタルでも英国のバンドに多く感じることができるそれを、NWOBHM時代をやや過ぎたこのバンドにも強く感じる。湿っている。音質の悪さも含めてもやっとしている。
同じ音が悪くてもアメリカの場合、もっと乾いている。
レーベルメイトでもあるRAVENは同系のパワーメタルでもハチャメチャなク◯ガキパワーだが、このAVENGERは落ち着きがあるというか、イギリス紳士的なジェントルマンな印象がある。実直でどこか寂しさや優しさを感じるのだ。
かといって音楽的に弱いとか退屈とか、そういう訳ではもちろんない。NWOBHMや正統派HR/HMを基本にしたパワーメタルを披露、ブリティッシュの気品や重厚感を好む人はたまらないだろう。
そう思って聴けば、またそういうのが好きな者が聴けば正しくこれは絶品。ガキの馬鹿騒ぎスラッシュや安っぽいメロスピなどとは違う、ちょっとしたギターフレーズや歌メロが胸を打つ、泣かせるパワーメタル。
激しめなのに、イギリス独特の影のある寂しさや憂いを感じさせてくれる。それはイアンの優しい声によるところも大きい、ブライアンもそうだが、アメリカにはいないこのタイプのVoがイギリスらしさを一層強くしている。
全9曲、全曲最高、30分ほどで終わるのも潔くていい。
A-3の “Matriarch” はMONTROSEのカバーだそう、ずっとAVENGERのオリジナル曲だと思っていた。今回調べるまで知らなかったよ。30年間も。
85年の2nd。同じくNEAT RECORDSから。
KILLER ELITE
これだ。前作の音の悪さはまだマシだった。このアルバムの音の悪さは一瞬、自分の耳を疑ったほど。それまでこんな音質の悪いレコードを聴いたことがなかったから。隣の部屋か水中で聴いてるような感覚に陥った。なんか耳に膜が張ってるような感じ。メンバーはこれで納得したのだろうかと、いらん心配するほどだった。
明らかに音質は1stより悪くなっている、なのに最初のギターリフだけで心を掴まれた。悲しみに満ちたメロディが重厚なパワー感と融合した “Revenge Attack” は名曲。各ギターソロも無機質な速弾きとは違う、味わい深いソロを聴かせてくれる。曲の良さやフックの充実度が大きく上がっていて、これで音質がメジャーバンド並みに良かったらメタル史に残る名盤として広く知られていただろう。
ただ、今思う。これをレコーディングし直して良い音になったらもっと良くなるか?と。
ならないと思う。このアルバムはこれが完成形なのだ。音の悪さ、時代の空気、そして初めて聴いた若かった自分自身も含めて。今聴いてもあの頃と同じぐらい興奮できる。いろんな思い入れがあるから。当時聴きまくった。
ギターフレーズと歌メロが最高すぎる。特にそこらにある安っぽいバラードなどと一緒にして欲しくない、切なすぎる “Yesterday’s Heroes” は泣ける。
1st、2nd共に、NWOBHM好きは死ぬまでに絶対聴かなくてはならない至高のバンド、AVENGERを含めたSATANファミリー3バンドは、ブリティッシュパワーメタルの最高峰であると言っても過言ではない。
裏にドイツの同名バンドに対しての警告文が書かれている。ドイツの偽物に注意しろと。
ジャーマンイミテーションとは同時期に存在したドイツの、ピーヴィ率いるAVENGERのこと。警告した本家AVENGERはこのまま消滅、偽物はRAGEと名を変え、世界的大成功を収めることになる。
音源をまとめて2枚組CD化したのが2004年に出ている。
TOO WILD TO TAME - THE ANTHOLOGY
DrとBは初期から固定だが、Gは流動的で作品発表ごとに替わっている。Voのイアンは解散後ATOMKRAFTに加入、2枚のEPで歌っていた。SATANファミリーの相関は複雑すぎて書き出すときりがない。あらゆるメンバーがあっち行ったりこっち行ったりしてるから。
2007年ごろ再結成したようで、2014年に「THE SLAUGHTER NEVER STOPS」という新作を出している。
“Enforcer”
“You’ll Never Take Me (Alive)”
“Revenge Attack”
“Run For Your Life”
“Yesterday’s Heroes”
Too Wild to Tame: Anthology/AVENGER
¥2,426
Amazon.co.jp
The Slaughter Never Stops/Avenger
¥2,465
Amazon.co.jp
長年クサレメタルを聴いている者にとって、音質の悪さで特に有名なレーベルがある。それは世界各国マイナーレーベルであれば大概そうなのだが、例えばMETAL BLADEであれSHRAPNELであれNOISEであれDEVIL'SであれMAUSOLEUMであれ、メジャーレーベルに比べてやっぱり音は悪い。中でもEBONYとNEATの音質の悪さは特筆もの、まだEBONYは音の悪さのなかにもEBONY独自の音の悪さというか、そのEBONYらしさがマニアを喜ばせていたようなところもあったが、同じイギリスのNEAT RECORDSの音の悪さは失神寸前の強烈さ。
数多くのメタル系アルバムを出していたNEATには結構な有名バンドも所属していて、稀に良い音質のアルバムや、そこまで酷くないのが多くあったのも確かなのだが、悪いほうは「これマジ?」って顔が引きつるぐらい酷いのがあった。
これはすごいと思った。内容的には最高だっただけに余計にそう思った覚えがある。ただし、まだ辺境のもっと音の悪いのを知る前のことだ。
AVENGER
ニューカッスル出身の4人組。後期NWOBHM期において異常に複雑な人脈を誇るSATANファミリー、これもその中心に来るバンドのひとつ、SATAN、BLITZKRIEG、そしてこのAVENGER。元BLITZKRIEGのVo、ブライアン・ロスが82年に結成。同年にデモを制作、NEAT RECORDSから発売された1発録りスタジオライブオムニバスアルバムに “Hot ’n’ Heavy Express” で参加、
ONE TAKE NO DUBS
83年7インチシングルの発表を経て、
TOO WILD TO TAME
アルバムデビューを果たすのだが、シングル発売前に(レコーディングには参加)中心のブライアンが脱退、バンドは元SATANのイアン・スイフトを迎える。
84年の1st。
BLOOD SPORTS
恐ろしいまでにイギリスの音。ポップ系でもパワーメタルでも英国のバンドに多く感じることができるそれを、NWOBHM時代をやや過ぎたこのバンドにも強く感じる。湿っている。音質の悪さも含めてもやっとしている。
同じ音が悪くてもアメリカの場合、もっと乾いている。
レーベルメイトでもあるRAVENは同系のパワーメタルでもハチャメチャなク◯ガキパワーだが、このAVENGERは落ち着きがあるというか、イギリス紳士的なジェントルマンな印象がある。実直でどこか寂しさや優しさを感じるのだ。
かといって音楽的に弱いとか退屈とか、そういう訳ではもちろんない。NWOBHMや正統派HR/HMを基本にしたパワーメタルを披露、ブリティッシュの気品や重厚感を好む人はたまらないだろう。
そう思って聴けば、またそういうのが好きな者が聴けば正しくこれは絶品。ガキの馬鹿騒ぎスラッシュや安っぽいメロスピなどとは違う、ちょっとしたギターフレーズや歌メロが胸を打つ、泣かせるパワーメタル。
激しめなのに、イギリス独特の影のある寂しさや憂いを感じさせてくれる。それはイアンの優しい声によるところも大きい、ブライアンもそうだが、アメリカにはいないこのタイプのVoがイギリスらしさを一層強くしている。
全9曲、全曲最高、30分ほどで終わるのも潔くていい。
A-3の “Matriarch” はMONTROSEのカバーだそう、ずっとAVENGERのオリジナル曲だと思っていた。今回調べるまで知らなかったよ。30年間も。
85年の2nd。同じくNEAT RECORDSから。
KILLER ELITE
これだ。前作の音の悪さはまだマシだった。このアルバムの音の悪さは一瞬、自分の耳を疑ったほど。それまでこんな音質の悪いレコードを聴いたことがなかったから。隣の部屋か水中で聴いてるような感覚に陥った。なんか耳に膜が張ってるような感じ。メンバーはこれで納得したのだろうかと、いらん心配するほどだった。
明らかに音質は1stより悪くなっている、なのに最初のギターリフだけで心を掴まれた。悲しみに満ちたメロディが重厚なパワー感と融合した “Revenge Attack” は名曲。各ギターソロも無機質な速弾きとは違う、味わい深いソロを聴かせてくれる。曲の良さやフックの充実度が大きく上がっていて、これで音質がメジャーバンド並みに良かったらメタル史に残る名盤として広く知られていただろう。
ただ、今思う。これをレコーディングし直して良い音になったらもっと良くなるか?と。
ならないと思う。このアルバムはこれが完成形なのだ。音の悪さ、時代の空気、そして初めて聴いた若かった自分自身も含めて。今聴いてもあの頃と同じぐらい興奮できる。いろんな思い入れがあるから。当時聴きまくった。
ギターフレーズと歌メロが最高すぎる。特にそこらにある安っぽいバラードなどと一緒にして欲しくない、切なすぎる “Yesterday’s Heroes” は泣ける。
1st、2nd共に、NWOBHM好きは死ぬまでに絶対聴かなくてはならない至高のバンド、AVENGERを含めたSATANファミリー3バンドは、ブリティッシュパワーメタルの最高峰であると言っても過言ではない。
裏にドイツの同名バンドに対しての警告文が書かれている。ドイツの偽物に注意しろと。
ジャーマンイミテーションとは同時期に存在したドイツの、ピーヴィ率いるAVENGERのこと。警告した本家AVENGERはこのまま消滅、偽物はRAGEと名を変え、世界的大成功を収めることになる。
音源をまとめて2枚組CD化したのが2004年に出ている。
TOO WILD TO TAME - THE ANTHOLOGY
DrとBは初期から固定だが、Gは流動的で作品発表ごとに替わっている。Voのイアンは解散後ATOMKRAFTに加入、2枚のEPで歌っていた。SATANファミリーの相関は複雑すぎて書き出すときりがない。あらゆるメンバーがあっち行ったりこっち行ったりしてるから。
2007年ごろ再結成したようで、2014年に「THE SLAUGHTER NEVER STOPS」という新作を出している。
“Enforcer”
“You’ll Never Take Me (Alive)”
“Revenge Attack”
“Run For Your Life”
“Yesterday’s Heroes”
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