雨降る土地にうたが生きる -17ページ目


何度も見上げた空なのに
何度も歩いた道なのに
まるで記憶を失ったような
そんな忙しい日々ばかりが続き

杖をついたじいちゃんが
散歩に行こうと唐突に言う
ああ
たまにはいいかなと素直に応じる

入ったことのない裏山を抜けて
子供の頃よく遊んだ道へ出ると
風に揺られはなびらを散らす満開の桜
ひらひらと

戦争の頃は花のように散ろうと
同友と語り合ったものだ
じいちゃんは呟きながら空を見てる
でも多分空じゃない場所を探っているのだと思った

三線


お爺が
床の間から持ち出して弾いてた
三線には
綻びと共に
魂がある

そこに座って弾いてた三線
誰もがうれしそうに手拍子し
笑いながら踊っていた

そこには魂がある

yahooチャット

日々夜な夜な繰り広げられる
HNに隠れた舞踏会
たまには他人の足も踏み
時には華麗なダンスを披露し

日常が非日常の世界と交錯する
僕の招待はIDで
僕の心を開くのがパスワード

チャットの世界で
囁き合う人々の合間に
自分の居場所を探して
今日も彷徨う

失望


失望に溺れ 希望にしがみ付き
大海原で真水も飲めず
浮かんでいると太陽が責める
その強烈な輝きで

魚たちが手足をつついている
そろそろ彼らの食料と化すだろう
思い出のかけらも鬱陶しく

運がよいのか悪いのか
砂浜にたどり着けば
金も何もなく
遠い道のりを
懺悔と後悔をつぶやきながら歩くのだ

鎮魂歌


交わしてきた盃を今宵も交わそう
月も見えない夜空だが街灯りが見える

お前が選んだ道や やってしまったこと
この一杯一杯の許しの酒で飲み干そう

雲の切れ間から幽かに月灯りが見えて
夜桜舞う空の下 俺はお前の笑顔を想う

チキンカレー大辛

額の汗が目の中に入る
骨を外しながら肉をルーにからめる
ライスは大盛
冷たい水をごくごくと飲む

ごちそうさまでした
そう言うと主人は
ありがとうございました
と頭を下げる

また来ます
そして僕の地図にお気に入りが増えた

桃屋のラー油


豆腐にはこだわりがある
木綿豆腐を水きりし
固い具合で包丁を入れる

挽肉を炒め
そこで何かが足りないことに気づく

「おーい」
呼べども妻からの返事はない
台所の下奥底に
忘れられた記憶のように
桃屋のラー油が転がっていた

「なーにー?」
めんどくさそうに妻は言う
「いや、なんでもない。なんでもないさ」
今日の昼食はマーボ豆腐だ

「さあ、できたぞ」
妻にふるまう
「これ桃屋のラー油使ったやろ
引っ越してきた頃の味や」
やはり妻にはかなわない

長い道 ~若かりし頃~


この手のひらと遠い空と朝焼けに舞い飛ぶ鳥たち
指になじんだ銀の指輪は外すことができない
人生を縛る手錠のように
これまで逃げるように生きてきた

あんな綺麗な海があるんだねと
君は無邪気に笑う
海はどこまでも続いているのさ
僕がそう言うと君は涙を流した

もう長くないって
お医者さんがそう言ったんだって
君は絞り出すように涙を流す
君の嗚咽はとめどなく

その言葉を聞いて
君を支え君の家族のもとに行った
結婚させてください
絞り出した言葉に彼女の両親は
「だめだ」
と一言

君とせめて繋がっているようにと願い
おそろいの指輪を買った
君の分はおそらく今頃左手の薬指の骨にへばりついてる

いつになれば忘れられるのだろう
いつになれば忘れる勇気を持てるのだろう
この手のひらと遠い空と朝焼けに舞い飛ぶ鳥たち
そして左手の指になじんだ銀の指輪

冬祭り


君は行ってみたことがあるだろう
あの冬祭り
提灯と松明と褌姿の男たちと
薄柄の着物を着てほほ紅を付けた女性たち
桜の蕾も膨らんで
そろそろ春がやってくる
何度も何度も春を見つめた ばあば は微笑する

祭りの夜の灯りに濡れ飛ぶ虫たち
成人していく子供たちは
この日の夜空を忘れないだろう
この夜空をいつまでも

飛び交う虫と炎の傍で
ただひたすら決められた所作は続く

君は行ってみたことがあるだろう
あの冬祭り
提灯と松明と褌姿の男たちと
薄柄の着物を着てほほ紅を付けた女性たち
桜の蕾も膨らんで
そろそろ春がやってくる
何度も何度も春を見つめた ばあば は微笑する

希望のうた


どこまでも続く祈りのように
果てのない希望を掲げ
わたしたちは命を繋げて行く

限りない宇宙の向こうまで
届くようにと願いを掲げ
わたしたちは明日を歩いて行く

つまづいた時は
その痛みを知り
つまづかなくなれる
それが真実

いつまでも伸びる時間は
鳴りやまぬ讃美歌のように
わたしたちのこころを癒して行く