桜
ひらひらと散る花弁を
手の平ですくい
それをあなたに見せると
何か不思議なものでも見るように
じっとみつめている
車椅子の生活になってから
あなたは
すっかり元気をなくしたかのように見える
運動会で大声あげて応援してくれた
あのころのあなたはもういない
季節がめぐるたびに
わたしは大人になり
あなたは年老いていった
樹齢の長さに比べると
人の命は儚いかもしれない
しかし今年も
命を輝かせるかのように
美しい花を咲かせ
そこにある
離婚
紙切れが目の前にあって
二人してにこにこしていた
妻のお腹は少し膨らんでいて
昇進の時期も近づいていた
役所の係りの方が
おめでとうございます
と言う
二人は人目もはばからずハグをした
昇進が決まり時間の余裕がなくても
休日には息子と妻と出かけた
近くの浜辺で石を投げては遊んだ
幸せだった
幸せだったんだ
僕は病室のベッドに妻を呼び出し
紙切れを一枚置いた
友人に頼んで持ってきてもらったのだ
頼むからそこにハンコを押してくれ
妻は当たり前じゃない、みたいな表情で
ためらいもなくハンコを押す
これで俺の財産の全てが彼女のものになる
俺の命はもう燃え尽きそうな蝋燭のよう
こころが揺らぐように命の炎も揺れている
天井を見上げ
ありし日を思い出す
幸せだった
幸せだったんだ
GLAY
熱気の中であの日見たライブ
体に響く爆音と天を貫く声
君は汗だくでノリノリだ
僕はそんな君の方が気になって
ろくに歌詞が耳に入ってこない
また来年も行こうね
君は帰り道で楽しそうに微笑む
そうだね
僕は灰色の空を見上げ
いつまでもこの幸せが続けばいいのにと思った
興奮の冷めない僕らは
GLAYの歌を大声で歌いながら
緩やかな坂道を降りて行く
空には刃物のような三日月
眠い
眠い
わたしはひたすら眠い
眠りの谷底はすぐそこ
傘を広げてもパラシュートの代わりにはならないし
どこを見回しても真っ暗だ
黒いロングコートの裾が夜風に揺れる
眠い
わたしはとめどなく眠い
ベッドのひとつでもあれば
それが救いにでもなるだろう
悪魔のささやきが聞こえる
「眠ればいい 谷底へ飛び込め」
眠い
わたしはひたすら眠い
眠りの谷底はすぐそこに
春
起きているのか寝ているのか
ぼんやりした頭
ほんわかした空気の中で
少し伸びをしてみる
鳥達が鳴いている
彼らの恋の季節がやってきたのだ
そして私は携帯電話の着信を確認する
寝ぐせだらけの頭で
暖かい光の中
着信履歴の中にあなたの名前を見つける
私にも春が来ますように
観光
いつもは違う部署で
会話を交わしたこともない
そろそろ肩をたたかれる身分なのは一緒だ
安い社員旅行でバスに乗り込む
俺は窓際に座る
俺の横に座ろうとする者はいない
あいつもそうだった
あいつが「ここいいですか」と座った
俺はひたすらデジカメで写真を撮った
いろんな風景
景色
あいつは黙って目を閉じている
しかたないや
俺はあいつに声をかける
観光で来たんじゃないか
写るんですでも買って
思い出残して帰りゃいい
二人で特に会話もなく写真をひたすら撮った
定年を迎えて孫の世話に明け暮れてたある日
何かしらの郵便物が届く
封を開けると写真が100枚ほど入っている
あの景色
あの光景
あいつはどこかでこの写真の事を大切に思っているのだ
そう思うと少しあの堅苦しかった仕事も
無駄ではなかったのだお互いに と思えた
NTT
工事のおっちゃんが電信柱で
ボルトやらナットでぐいぐいなにかを設置している
レンチが落ちてきて私の頭に当たりそうになって
びくびくしてると
電信柱からおっちゃんが下りてきて
ヘルメットを脱ぎ「申し訳ございません」と頭を下げる
「光の工事中でして」
さっぱりわからない
翌日友人が
NTTの下請けは雑だよな
と言う
タバコの煙だらけの六畳半で
組み立てたPCで30分ごとにブレーカー落とす友人は
僕よりは物事を知ってるらしい
携帯電話はNTTはあかん
と父は言う
家族でAUや
なんのことやら
そういえば
電電公社のころ
台風の最中にずぶぬれになって工事していた人がいたな
家の窓から子供の頃の僕がそれを見ていたのを
少しだけうっすらと思い出した
ちょり男
小さいころから落ちているビンを集めては
売店に持ち込み小銭稼ぎをしてた
セコいやつだと誰もが言ったけど
それで手に入れたお金は僕のもの
チョコを買って帰る道すがら
憧れのあの子が他の女の子2人と歩いてくる
少しうつむき加減で通り過ぎたら
「ほら、あいつ、空きビン集めてるんだってさ」