雨降る土地にうたが生きる -19ページ目


ひらひらと散る花弁を
手の平ですくい
それをあなたに見せると
何か不思議なものでも見るように
じっとみつめている

車椅子の生活になってから
あなたは
すっかり元気をなくしたかのように見える
運動会で大声あげて応援してくれた
あのころのあなたはもういない

季節がめぐるたびに
わたしは大人になり
あなたは年老いていった

樹齢の長さに比べると
人の命は儚いかもしれない
しかし今年も
命を輝かせるかのように
美しい花を咲かせ
そこにある

離婚


紙切れが目の前にあって
二人してにこにこしていた
妻のお腹は少し膨らんでいて
昇進の時期も近づいていた

役所の係りの方が
おめでとうございます
と言う
二人は人目もはばからずハグをした

昇進が決まり時間の余裕がなくても
休日には息子と妻と出かけた
近くの浜辺で石を投げては遊んだ

幸せだった
幸せだったんだ

僕は病室のベッドに妻を呼び出し
紙切れを一枚置いた
友人に頼んで持ってきてもらったのだ
頼むからそこにハンコを押してくれ
妻は当たり前じゃない、みたいな表情で
ためらいもなくハンコを押す

これで俺の財産の全てが彼女のものになる
俺の命はもう燃え尽きそうな蝋燭のよう
こころが揺らぐように命の炎も揺れている

天井を見上げ
ありし日を思い出す
幸せだった
幸せだったんだ

GLAY


熱気の中であの日見たライブ
体に響く爆音と天を貫く声
君は汗だくでノリノリだ
僕はそんな君の方が気になって
ろくに歌詞が耳に入ってこない

また来年も行こうね
君は帰り道で楽しそうに微笑む
そうだね
僕は灰色の空を見上げ
いつまでもこの幸せが続けばいいのにと思った

興奮の冷めない僕らは
GLAYの歌を大声で歌いながら
緩やかな坂道を降りて行く

空には刃物のような三日月

眠い


眠い
わたしはひたすら眠い
眠りの谷底はすぐそこ

傘を広げてもパラシュートの代わりにはならないし
どこを見回しても真っ暗だ
黒いロングコートの裾が夜風に揺れる

眠い
わたしはとめどなく眠い
ベッドのひとつでもあれば
それが救いにでもなるだろう

悪魔のささやきが聞こえる
「眠ればいい 谷底へ飛び込め」

眠い
わたしはひたすら眠い
眠りの谷底はすぐそこに


起きているのか寝ているのか
ぼんやりした頭
ほんわかした空気の中で
少し伸びをしてみる

鳥達が鳴いている
彼らの恋の季節がやってきたのだ

そして私は携帯電話の着信を確認する
寝ぐせだらけの頭で
暖かい光の中
着信履歴の中にあなたの名前を見つける

私にも春が来ますように

観光


いつもは違う部署で
会話を交わしたこともない
そろそろ肩をたたかれる身分なのは一緒だ

安い社員旅行でバスに乗り込む
俺は窓際に座る
俺の横に座ろうとする者はいない
あいつもそうだった
あいつが「ここいいですか」と座った

俺はひたすらデジカメで写真を撮った
いろんな風景
景色
あいつは黙って目を閉じている
しかたないや
俺はあいつに声をかける

観光で来たんじゃないか
写るんですでも買って
思い出残して帰りゃいい

二人で特に会話もなく写真をひたすら撮った


定年を迎えて孫の世話に明け暮れてたある日
何かしらの郵便物が届く
封を開けると写真が100枚ほど入っている
あの景色
あの光景
あいつはどこかでこの写真の事を大切に思っているのだ
そう思うと少しあの堅苦しかった仕事も
無駄ではなかったのだお互いに と思えた

NTT



工事のおっちゃんが電信柱で
ボルトやらナットでぐいぐいなにかを設置している
レンチが落ちてきて私の頭に当たりそうになって
びくびくしてると
電信柱からおっちゃんが下りてきて
ヘルメットを脱ぎ「申し訳ございません」と頭を下げる

「光の工事中でして」
さっぱりわからない

翌日友人が
NTTの下請けは雑だよな
と言う
タバコの煙だらけの六畳半で
組み立てたPCで30分ごとにブレーカー落とす友人は
僕よりは物事を知ってるらしい

携帯電話はNTTはあかん
と父は言う
家族でAUや
なんのことやら

そういえば
電電公社のころ
台風の最中にずぶぬれになって工事していた人がいたな
家の窓から子供の頃の僕がそれを見ていたのを
少しだけうっすらと思い出した

ちょり男



小さいころから落ちているビンを集めては
売店に持ち込み小銭稼ぎをしてた
セコいやつだと誰もが言ったけど
それで手に入れたお金は僕のもの

チョコを買って帰る道すがら
憧れのあの子が他の女の子2人と歩いてくる
少しうつむき加減で通り過ぎたら
「ほら、あいつ、空きビン集めてるんだってさ」
って声が聞こえてくる

学校も高校まで行き
途中でやめた
妙な仲間とつるみ
チャットで女に声をかけて
ひっかけては
ホテルに連れ込む
そんな日の繰り返し

ある日コンビニの前でタバコ吸ってたら
後ろから女に声をかけられた
振り向いたら大人びたあの子だった
「ひさしぶり」
と微笑みながら見つめられる
「もう空きビンは集めてないのね」
と言われ
その後何も言えずにたじろいでいた
「じゃあね」とあの子はどこかに行ってしまい
これが現実なんだと思うと
とても自分が恥ずかしくなった

無題


額縁のない絵に数万ポンドも出す輩
うずくまるように眠り涙を流し続ける児
意味も知らずボールを壁に蹴り続ける子供
吐く物もなくなりだらしなく小便を垂らす青年

いくらかの幸せが誰にもあってもいいだろう
それくらいの権利は生きる者にはある

額縁のない絵を買った紳士は家へと帰り
それを何のためらいもなく暖炉にくべた
金を稼いだ絵描きはその金のほとんどを
必ずしもやさしくはなかった両親に送った

ピーマン


中身が空っぽだと上司に言われた終業前
お前の頭はピーマンみたいなもんや
でもさ、上司はそう言うけど
こんな頭の中にも種はいっぱいいっぱいあるんやで

帰路に就く
空き缶蹴飛ばしたら野良犬に吠えられ
家にたどり着き一日限定1本と決められてるビールを飲む
妻はたくましい背中で夜食を作る

ほら、今日はチンジャオロースーや
残さず食べ
妻はとっととTVの前に陣取りけたけた笑い始める
共食いかいな と多少焦げ付いたピーマンに呟く
まあおまえも切り刻まれて炒められたが
俺もまた明日も頑張っていかなあかんねん

妻がテレビに夢中になっている間に
明日の分のビールにも手をかけたくなって
冷蔵庫の扉を開けてみると
中には
特売で大量に買われたピーマンがごろごろ転がっていた