雨降る土地にうたが生きる -20ページ目

沖縄から大阪へ来た


並ぶごちゃごちゃした小さな塊の集まり
聴きなれぬ言葉づかい
早足で歩きゆく人々
慣れない道
言うなりに後をついて歩く
荷物はより重くなったように感じる
電車のうるさい音
迷路のような街
見慣れぬ長屋の並び
空っぽの部屋

卒業



いつまでも続くフェンスの横の小道を
二人並んで歩いてた
幼稚園から僕は君にいじめられてた
弱虫で泣き虫な僕のこと

身長は君をとうに追い越して
季節が幾度か廻った
卒業式の夜に
僕はそっと第二ボタンを君に差し出し
逃げるように家に帰った


あれからの僕は
仕事を転々とし
そして今日も
夏の日差しの下で
重いカバンとハンカチ持って
見知らぬ事務所のドアをたたく

そんないくつものドアの向こうに
もし君がいたならなんて
いつまでたっても僕は卒業できていないや

帰ってこない あほ息子



俺は日本一になって母ちゃんに
楽させてやるんだ
そう言って島を出て行ったあの子は
手紙すらよこさない

歯が生え始めるまで乳を吸ってたお前が
夫の葬式でじっとうつむいて立っていたお前が
ある日小包を送ってくる

中には妙な小さな機械が入っている
これはテレビで見たことある 携帯電話だ
使い方もよくわからんうちに電源だけ入れておいたら
ある夜、その電話が鳴りだす

なあ、俺だよ俺
すまんけど今運営資金がちょっと足りなくてな
年金貰ってるだろ
20万くらいどうにかならんかな

息子は何の日本一を目指しているのか
皆目見当つかないが
まあいい もとからあほだったから

翌日 母はATMの操作方法を銀行員に説明されていた

日常


重たくて薄い鞄を左手に
汚れたメガネのまま高架下を歩く
立ち飲み屋で一杯ひっかけて
コンビニで弁当を買いアパートへ帰る

 今はまだ寒いから
 こいつらが匂ってきたりはしない
 奥の間にはクーラーをつけっぱなしだ
 こいつらは妙な姿勢で固く強ばっている
 春になる頃には
 どこかに処分しに行かなければ

朝がカーテンの隙間から
毛布と掛け布団の上に光の線を引く
シャツとスーツとネクタイ
薄いくせにやけに重たい鞄を持ち部屋を出る
満員電車にもまれて今日が始まる

哲学思想


暗殺によってその人は死に
眠る様にその人は死に
磔にされてその人は死に
毒を仰いでその人は死に
死人に口なしと弟子が語り始め
この世のなんたるかから
人とは何ぞやまで語り始め
現代にいたるまでの思想抗争があり
自滅と破壊を繰り返す
中途半端な限られた生の中で
産まれては死に産まれては死に
受け継がれたものを改築しながら
我々はここまで組み立てたのだ
それが哲学思想の全て

運び去られた経験


産婦人科の窓辺で海を眺めながら妻の出産を待っている
3人目だ 付き添わなくてもうまく産んでくれるだろう
長男と二男は妻の傍でその時を待っている


 海を見ているとあの日の事がよみがえる
 職場の女に手を出して
 ほどなく彼女は妊娠して退社した

 その彼女は
 旦那となかなか子供が作れずに困っている
 多分私は不妊症なんだ
 と俺にうちあけた

 俺は若く彼女は美しかった
 酒の勢いもありおれは過ちを犯した
 その子供はおそらく俺の子だ
 それを隠したまま彼女は
 何も知らないその旦那とどこかへ行ってしまった


俺はほどなくして見合い結婚し
長男と二男をもうけた
そして次は長女だ
俺のみしらぬ俺の子供がどこかで幸せに暮らしているのか
そんなことすら忘れたふりをして生きてきた

しばらくすると看護師が走ってくる
来てください、危険な状態です

長男と二男がベンチで泣いている
なにがあったのですか?
看護師は 赤ちゃんの呼吸が止まったままですと言う
血相を変えて分娩室に入る

ごめんね
妻が泣いている
俺はまともに妻の顔も見ることができない
しかし、ただ妻の手を握り
がんばったな おまえはよくがんばった
それ以上の言葉が出てこなかった

赤子は息を引き取り
小さな入れ物に入れられてどこかへ運ばれていく
俺の知らないどこかへ運ばれていく

people on streets



道端で転がる路上生活者は
毛布の隙間から自動車のホイールが回転するのを見ている
どこへともなく急ぐ人々
そのなかではあなたの影すら誰かの影と見分けがつかない

声高に政治を語る駅前の街宣車
軽やかな音で客を呼ぶ量販店
人の流れはスクランブルで
互い違いにすれ違う

新聞片手に缶コーヒーを飲んでいる
明日には全てが終わってしまうかもしれないのに
のんきにじゃれあうカップルが黄色い声をあげて歩く
 
 どこにでもありそうな風景の
 どこにでもあるこの通りを抜けて
 過去の過ちや未来への希望が交錯する
 不確かな現実を紛らせるために
 街路樹が見下ろすアスファルトの道はどこまでも続く

200メーター先右折です
カーナビが教えてくれる
200メーターの間に人々はそれぞれの生活を抱えて歩く

アキレス腱



今度の仕事のために
3か月ほど出張があるんだ
そう言うと
あなたは嫌だ と言う
なぜかもみあいになり
足首を痛めてしまった

いつも一緒にいると約束したじゃない
あなたはそう言って
多分だけど
泣くふりをしている

辞令には逆らえないんだ
そう説明し
少し高級なホテルで一夜を過ごし
スーツにスーツケースで岩手へ向かう

毎日電話をかけたが
あなたは電話に出てくれない
留守番電話の催促の音声が
虚しく聴こえてくる


3か月が過ぎ
地元へ戻ると
空港で彼女がなぜか僕の到着を待っていた
電話すら取ってくれなかったのに

ねえ
とあなたは言う
あなたと同じ飛行機に誰が乗っていたと思う?
さっぱりわけがわからない

どんなにおいかけても追いつけない謎のような
うっすらとした微笑みを浮かべるあなたのことを少し
少しだけ恐ろしく感じた

アルミホイル



僕の彼女は
ラップをかけた食物をオーブンで焼く

僕の彼女は
アルミホイルをかぶせた食物を電子レンジに入れる

頼むから
こんな単純な事だけは覚えてくれよ
彼女は耳かきで耳を掻いている

僕の彼女は
燃えないゴミを燃えるゴミの日に出す

僕の彼女は
卵焼きを真っ黒焦げにして仕上げる

でも
僕の彼女は市役所への書類の提出を期日内に行い
そして
僕の彼女は新品のように服を洗濯し綺麗にたたむ


僕の彼女は
アルミホイルをかぶせた食物を電子レンジに入れる
二つの電子レンジが彼女の魔の手にかかって使用不能になった

こぶし



師匠は教えてくれた
殴る方も痛いということを

道場の脇にある岩を
利き腕で100回全力で殴ってみろと

僕は全力で殴り
20回を超えるころには肉が裂け
血が岩を赤黒く濡らした
師匠は「次」と言う

僕は40回過ぎまで全力で殴った
骨が見えそうになるまで殴った

師匠は言った
殴るということはこういうことだ
お前が学ぶべきことはこぶしの強さではない
そのこぶしがどういう痛みを
互いにもたらすのか
こぶしはたんなる武器にすぎない
武器ならだれでも持てる
こころをまっすぐに学べ
おまえはそのこぶしを
本当の大切な人を
暴力から守るためだけに持っていろ
そのこぶしには意味がある

僕は病院に行き
ぐるぐると包帯を巻かれて
師匠の言った言葉をじっくりと噛みしめた