雨降る土地にうたが生きる -16ページ目

風が吹いている


落下地点から、膜のようなものが広がってゆく
この膜のようなものはとてつもなく薄いので
見ることも触ることも、感じることもできないだろう
誰にも

羽をなくして
全部のロープが切れて
僕は落ちてゆく
深い、深い
あの場所に


とうとうと流れてゆく うた の ひとつの言葉になれればいい
壮大なハーモニーの ひとつ の 音になれればいい
穏やかに広がる海の ひとつの 輝きになればいい



膜のようなものが広がり
全部を、みんなを包めばいい


畳に落書きしたり
壁にクレヨンでドラえもんの絵を書いたりして
いつも頭をゴツンと叩かれていた
悪いことするから殴るんだ
殴る拳も痛いんだぞと
親父はそう言って静かに酒を飲んでいた
阪神タイガースの中継をそして
夕暮れの窓を見つめながら

夕焼け空にカラスやスズメが
寝床を求めて飛びゆく

ある時には地震があって窓のガラスが細かく割れた
左手の薬指の先を少し怪我した

雪降る夜には不思議な光が
そこにあるような気がしてわくわくした


父がそこから外を見れなくなった時には
俺も窓の外なんて天気の確認くらいだったさ
お棺についてる窓の中で親父はもう何も見ていない

春 京都


おいでやす
言われても金もなく
桜吹雪舞い散る川沿いの
哲学の道を歩きながら
来月の生活プランを考えている
収入と支出
そんなことを考えあぐねている

そうか、暖房はもういらない
そんなろくでもないことを考えている

宇宙がその物理的な質量で
保たれているバランスを考えるのと同じだ
私は私の生き方を考えながら
桜舞い散る哲学の道を歩く

心の中のラブレター ~伝えられない想い~


いつも枯れた花を取っては新しく美しい花を花瓶にさすあなた
コンビニのバイトでは普通は見せないような笑顔を見せるあなた

私の前ではいつもクールな顔を見せるあなた
時折眉をしかめ落ちているゴミをゴミ箱に投げ込むあなた

愛はどこまでもはてしなく 空を飛ぶ鳥もかなわないという
私の胸の中でどくどくと心臓が波打つのがわかる

あなたを見ているだけで あなたのすべてが欲しくなる
でもあなたはあなたでしかない
私のものではない

言えないフレーズをこころに浮かべては
破り捨てる
寝転がってあなたの透き通った瞳を夢想する

わくわく

背中から
わくわくが
どんどん ぞぞぞと
わいてきたらええねん

まるで今まで見えなかった
夕焼けが見えるで

きれいなことを好きになれる
そんな素直な気持ちがあるのがいい

挿入


誰かが入れてしまった
入れてしまった
そして入れた人はいなくなって
別の人を入れさせてしまった
それでがっかりして
誰かが入れた
入れて欲しかったのはいつものこと
入れられたが
それが全てだと思うのは全く違うってこと
わからないようだから
また入れてもらった
ばからしいけどそれを求めてしまった

入れられることしか
ないのかもしれない私が
入れられることでしか
得られない気持ちを

誰かが入れてしまった

金持ちより気持ち


どこかで金庫をこじ開けるよりも
一円玉を募金箱に入れたほうがいいの?

株で数千万儲けるよりも
困ってる人に献血したほうがいいの?

何が間違っているのか
何が正しいのか
その結果がどうなるのかさえ見越して
意見すればいい
それが本当の気持ち

戯れ


農作業も終わり
手伝いの若者に礼を言って
少しばかりの日当金を支払う
家に帰ると囲炉裏ばたに
桃が三つ置いてある

飯の支度をしてる様子もない
どの部屋にも誰もいない
仕方がないので桃を食う
三つの桃を

「おどろかせてすまん」
息子の声が聴こえる
「今朝三つ子が生まれたんだ
良子がよくがんばってくれてな」

裏にあった息子の車に
無理やりのように乗せられて
村立病院へ行くと
そこには大勢の笑顔がある
みんなでわしを出迎える

「父さん、時間かかったけど、
ようやく孫の顔を見せることができるよ」
息子は笑顔で言うが
わしにはどれがわしの孫かわからない
新生児室の中で何人もの赤子が寝ている

「どの子が孫かあてたら
父さんにちなんだ名前を一人につけるよ」
そんな戯れ言、言うもんじゃない
真剣に怒るとみんながみんな大笑いした

悪戯


ためらわないで笑ってね
ただの遊びよわかるでしょう
闇の中に指を入れ
嘘をつかなければいいだけよ
あなたのこころはどんな形をしているの?
恥ずかしくて言えないか
そんなことはどうでもいいの
これはただの遊びなんだから

そこでこそこそ隠れてる連中もここにおいで
面白いものを見せてあげるわ

そう
やさしく闇の中に指をそっと入れて
自分の罪を告白しなさい

まるまるん


なあ、父ちゃん、父ちゃん
朝からうるさい声出しよる
なあったら、父ちゃん、
じゃかあしいわ、去ねや

父ちゃんに届けものやて
なんやこんな時分にかいな
しゃあないなあ、なんや
これや「まるまるん」やて
それは正方形のバスマットのように見えた

説明書がついてるで
妻が言うから
眼鏡取り出してそれを読んでみた

なになに
両端を2秒間隔で同時にとんとんと
微妙なタッチで押すと
自然に丸まって収納に便利です

なんやこれ
誰からや?
何かの懸賞のやつちゃうの、あんたたまにやるやんか
そか
なんや知らんけどそこらに入れとき
俺が言うが
父ちゃん、これ仕組みがわからへん、と妻
しょうがないなあ、と両端をとんとんすると
くるくるっと丸まった
これすごいなあ
二人で嬉々として「まるまるん」と遊んだ