進撃の巨人TheFainalSeason完結編〈前編〉の放送が終わりようやくネタバレ気にせず書けます
別マガの連載でフロックがハンジさんと同じ話数で退場してからずっと書きたかったのです。
でもフロックの事を書こうとするとどうしてもハンジさんの最期に触れる可能性が大なので大っぴらに書けないでいました

別マガの連載最終話から今月4月9日で2年経ったようです。ついにアニメでも3月についにハンジさんと並んでフロックも最期の時を迎えました。
メインキャラクター達と対立する形のキャラクターなので、つい冷たく捨て置かれてしまわれがちですが、フロックの言動に注目してみると彼の事をもう少し好きになれるかもしれません。
フロックは、ウォール・マリア奪還戦を経て以後、アニメですとファイナルシーズン、原作ですと24巻以降から非情な冷徹さが目立ち、脅威を感じさせる姿が目立ちました。
自らをエレンの代弁者と語り、イェーガー派兵士を束ね、指揮を執っていました。
そのフロックの心の変遷をウォール・マリア奪還戦の頃まで振り返って考えてみました。
フロックの上官である、エルヴィン、リヴァイ、ハンジがフロックに与えた影響を考えていきたいと思います。
<エルヴィン>
フロックは、途中編入の調査兵だったこともあり、巨人との闘いが常に死と隣り合わせだという事への覚悟が乏しかったことがその後のフロックの歩む道を決定づけてしまいました。
すぐ隣の人間が振り向いたら屍になっている恐怖体験は深く心を抉ったと思います。それをフロックは特攻を命じたエルヴィン団長への怒りに転換してしまいました。
フロックがエルヴィンのことを蘇生するべきだと主張していたのは、兵団の序列重視という事よりも、「この人にはまだ地獄が必要だ」と言っていたように、巨人を倒すには、兵士を駒の様に扱うような悪魔のごとき非情な決断を命令できる者(エルヴィン)が蘇ってくれないと、自分たち新米兵士の命の意味が証明できないですし、この結果の落とし前をエルヴィン団長はつける為に生きるべきだと考え、ただ一人生き残った自分の意味をそこに見出そうとしたのは周知のとおりです。
フロックは耳障りの良い勧誘ワードに誘われて入団した自覚もありますが、自分以外の大人に責任取ってほしいというような幼い部分があったように思います。精神的な未熟さとも言えます。
<リヴァイ>
フロックから見れば、自分達の命を糧にすることを容易く受け入れたように、巨人をなぎ倒すリヴァイもエルヴィン同様の悪魔に見えたと思います。リヴァイがどういう思考をしているかフロックは理解するほど接触していませんから、リヴァイが新兵に詫びながら巨人をなぎ倒しているなんて知る由もありません。
とは言えリヴァイもエルヴィンの統率力は今後も必要だと思っていたわけですから、アルミンとエルヴィンの命を比べた時に、調査兵団兵長としてはエルヴィンを選択することは順当な判断ですし、その姿をみてフロックとして上官は正しい判断をしてくれているし、自分が正しく、エレンとミカサが間違っていると感じていたはずです。
それなのに、リヴァイがエルヴィンを捨てアルミンに注射を射ったことはフロックにとって相当の混乱と絶望を与えたのではないでしょうか。
フロックの問いに
「もう休ませてやらねぇと」
というリヴァイの回答は意味不明です。
「何を休ませるだよ!地獄に呼び戻したら何がダメなんだ?!」
と普通なら思うことでしょう。
そんな意味不明な理由で悪魔を取り上げられてしまったわけです。
その反動でリヴァイに対しての印象は急降下して最悪になったのではないでしょうか。
そしてその気持ちは継続してフロックの心の中に燻っていたように感じます。それが如実に出ていたのが雷槍で瀕死になっていたリヴァイを見つけた時です。
「何があったか知らねぇが運がいい。一番の脅威が血塗れだ」
蔑んだ笑いを含みながらの小野賢章くんのセリフの言い方はとても肝が冷えました。こういうところはアニメならではの表現です。
<ハンジ>
ハンジもエルヴィンの必要性を理解して、刃傷沙汰に及んだミカサを宥めてくれた人なので、フロックの理解者となり得たはずの人です。ですがアルミンに注射を射つリヴァイを制止してくれるわけでもなく、リヴァイの判断をすんなりと受け入れてしまった(フロックにはそう見える)時点でハンジの事もそこで理解不能対象者になってしまいます。
ハンジとしてはエルヴィンが信頼したリヴァイの判断はエルヴィンの判断と同等だと理解すべき、と一兵士としての序列を重んじた考え方だと思います。
私情で判断するリヴァイを咎めることをしない人が次の団長に既に指名されていたということに不信感をもった事象なのではないでしょうか。それがさきに続く旧態依然を保つ調査兵団への不信感の種になっていたように思います。
アニメ#73「暴悪」でフロックがシャーディス教官を109期訓練兵達にリンチさせるのをハンジに見せつけたのは、新しい兵団組織を作るうえで、それを強くハンジに当てつけたかったのだと思います。
こう見ていくと、フロックにしてみればエルヴィン団長を蘇生する為に生き残ったと思った自分の存在意義、マルロ達が命を落とした意味を、まるで上官から突然梯子を外されるように蔑ろにされたように感じ、ポツンと悲しみの中に一人取り残されてしまった感覚になったはずです。その心の傷は深く治癒する機会を失い膿みぐちゅぐちゅといつも血をながしていたはずです。それがリヴァイとハンジに対してそのような言葉や行為につながったのかもしれません。
こう考えるとフロックの孤独と海の向こう側への恨みと恐怖は根深いものになっていくのもわかるような気がします。
でもフロックは理解者らしい理解者を得ることなく4年間、調査兵団を退くことなく在籍していました。外の世界と友好関係を築こうとするハンジ達の考えには反発していたでしょうし、当初それに従うエレンとも距離を置いていたようです。
そして、自分だけでは海の向こう側を滅ぼす力がないことも自覚していて燻りを抱えながらも諦めの気持ちから惰性で調査兵団に所属していたかもしれません。
それを感じるのは
エレンから
「ジークに従うフリをしろ」
と持ち掛けられた時の
「従ったフリをしてどうするんだ?」
の言い方が無気力で思考能力を停止した人そのもののようだったからです。
それに、そもそもジーク=獣の巨人=投擲で全滅を企てたヤツに従うということはフロックにとっては最も解せないはずです。兵団上層部もジークに従うことについては不服そうでしたから、フロックもご多分に漏れないと思います。
ですが、
「世界を滅ぼす。すべての敵を一匹残らず駆逐する。」
とエレンから話を聞いた時のフロックの目が見開いたのを見ているとようやく自分の生きる意味を見出したという歓喜にも見えました。
ではここでフロックとエレンは理解し合えたのでしょうか。
これは違うと私は思います。
エレンの事は勲章授与式の時に言い争いして以来、和解はしていないと思います。アルミンを蘇生したことを肯定している時点でエレンとは永遠に和解しえないはずです。
「世界を滅ぼす」
という点ではエレンとフロックの間で共通認識ですが、二人には明らかに違う点があります。
エレンはこの地鳴らしによって世界を滅ぼすことについて「ごめんなさい」でも「仕方がない」と言う葛藤がありました。
対するフロックには「ごめんなさい」という意識は皆無です。レベリオ強襲時に執拗に官民の見境なく襲っていたところからもわかるように、その行為は過去の遺恨を晴らそうとしていて、その中には、気を緩めればまた島が襲われる恐怖が根底に流れていることを表しています。
エレンはそのフロックの外への恐怖心をわかっていて利用していますし、フロックも利用されているのはわかっていたと思います。
ただフロックにとって大きな誤算だったのは、アルミンとミカサが地鳴らしをするエレンに従うだろうと予測したことです。
そう思えるのは、アニメ#83「矜持」、原作126話「矜持」で車力がジャン、オニャンコポン、イェレナをさらった時、ミカサに車力を討たせようと探している様子と、姿が消えたことを認識した時「裏切り」を理解した瞬間だからです。
そのフロックの怒りが爆発していたのが港での攻防です。
アニメになってフロックの表情が原作以上に鬼の形相で描かれていましたし、ファルコの顎がこれでもかと登場した時の唸り声のような「くっそ~」。ここも小野賢章くんの凄まじい気迫(鬼迫?)の演技が素晴らしいと思いました。
エレンは自分で地鳴らしを止める気はないですが、アルミン達が必ずこれを止めてくれるはずだと信じています。矛盾していますが、「ごめんなさい」と言いながら地鳴らししている時点で矛盾なのです。
反対にフロックは絶対地鳴らしを止めてほしくない。
アニメ#82「夕焼け」原作ですと125話「夕焼け」で
「誇りに死ぬことはない。良いじゃないか屈したって。こんな死にかたをするより生きてた方が」
とフロックが言ったこの言葉は悲痛です。
フロックにっては大義名分を掲げて命を切り捨てるような争いを二度としなくてもいいように、島の外の敵をエレンに一匹残らず駆逐してもらわなくてはいけなかったのです。
このように一見とても豹変したように映るフロックですが、最期に涙を溜めて懇願するように息絶えた姿をみると、心の根底にあるものはウォール・マリア奪還戦で特攻に怯えていたフロックと少しも変わりがないようにも感じます。そして、代弁していたと言うエレンとも心が通っていなかったと感じとれます。
私には最後の最期までフロックの心は孤独で救われていなかった人に感じてしまって、誰か寄り添ってくれる人がフロックにもいてくれたらな、と思わすにはいられないのです。
それなのに、2023年の別マガ3月号表紙でも原作者に描くのを忘れられてしまったフロック…切ない…
でもアニメでは少しだけフロックにとって救いがあったように感じました。
港でガビがフロックを撃ち落としたとき、原作ではハンジさんが「よくやった」と言うんです。でもアニメではカットされていました。皆仕方なく「仲間」を葬っているわけですし、ハンジさんにとっても命のやり取りをしている相手だとしても部下には変わりなかったわけです。
また、フロックが絶命した時にハンジさんは見開いたフロックの目を閉じさせてくれて、
「確かに君の言うとおりだよ」
と優しく語り掛けてくれてよかったなと思います。ここは朴璐美さんやはりさすがです
フロックは聞こえなかったかもしれないですが…。
フロックは自分が味わった恐怖をもう誰にも味わってほしくないという想いで必死になっていたのかと思うと、ハンジさんを死に追い詰めた張本人には変わりないですが
「苦しかったよね、お疲れ様。マルロたちと会えていますように」
と思わずにはいられませんでした。
そして、フロック役に小野賢章くんが起用された理由がわかるような気がします。一見優し目の声色なのにその中に狂気を込められる演技力。人間性が途中から変化するキャラクターを担当されるととてもいいですね。一つのターニングポイントの前後の演じ分けがとても好きです
というわけで、フロックが私の推しであるハンジさん達に最期まで抗った心の底をもっと慮りたいな、と思って書きました。
フロックの目線から物語を見つめるのも面白いものですよ。