誰かがいった。
人生の悲劇はふたつしかない。
ひとつは金のない悲劇。
そしてもうひとつは、金のある悲劇。
世の中は金だ。
金が悲劇を産む。
玩具メーカー・サンデートイズの再建は、三葉銀行の芝野健夫(柴田恭兵)がホライズンの鷲津政彦(大森南朋)を出し抜く形で収束した。はずだった。
会社を私物化していた大河内瑞恵(富士真奈美)を解任、息子の伸彰(小林正寛)を新社長に据えた再建案、つまり鷲津が考えたプランを芝野が出し抜いてサンデーの実権を掌握した。普通ならここで三葉銀行が経営を助けて一件落着となりますが、そこは鷲津が黙っちゃいない。
「我々もスポンサーに名乗りを挙げる。われわれは最大債権者だ。正当な権利を奪われたまま黙っているわけにはいかない」
つまりサンデートイズの財務状況は、
最大株主 →三葉銀行(芝野)
最大債権者 (債務超過した会社に支配権を強める) →ホライズン(鷲津)
という構図になり、どちらも正当な発言権をもっている。そこでどちらがサンデーの独占経営権を持つかを決めるために入札を行う、というのが第3話のあらすじ。
しかし、経営権取得に没頭しているはずの鷲津も芝野も、一方は隠していた人生の傷をあぶりだされ、もう一方は組織の一員であることに絶望を感じ始めている。お金を思うがままに操る魔術師のようなふたりの主人公も、自分の人生まではうまく操ることはなかなか難しい。
この、ドラマ『ハゲタカ』は、2007年2月17日から3月24日にNHKで放映されたものですが、もともとは2006年9月から10月を予定していたドラマでした。柴田恭兵が肺癌手術・療養のために延期されました。さらに、もともとは中村獅堂が出演予定だったが不祥事のために本人が出演を辞退、松田龍平に変更される出来事もありました。放映にたどりつくまでは難産だった、との印象をもっていますが、得てしてトラブルがあるものは望外に出来がいいもの。密かに気にしていたドラマでした。
また『ハゲタカ』が流れた2007年1月期は、山崎豊子原作の『華麗なる一族』、『花より男子2(リターンズ)』、『ハケンの品格』と、最終回の平均視聴率が20%をこえたドラマが3本も登場、また『ヒミツの花園』、『拝啓、父上様』、など内容も充実したドラマが放映されたクールでした。これ以後、数字でも内容でもここまで本数が揃ったクールはありません。11年4月期は、この期と似てくるような気がしますがどうなりますか。
『ハゲタカ』は平均視聴率が7.17%、民放なら間違いなく打ち切りがささやかれるものでしたが、いわゆる“録画率”が高い、という特筆すべき傾向をもっていました。つまり、放映時間帯には見れないが、録画して後日たのしむサラリーマンが多いということ。『華麗なる一族』は昭和の関西財閥(都市銀行の合併)を扱う歴史ものでしたが、『ハゲタカ』で平成の金融と企業再生を扱っており、ふたつのドラマを見比べて楽しんだ方も多かったのでしょう。
わたしは『華麗~』を楽しんだクチですが、こちらが放送終了し、再放送される(今回で8回目)たびに何度でも楽しみたい、はいつくばって生きる男たちに画面で会いたい(DVDを持っているにもかかわらず)、そんな強烈な磁力をもつドラマです。すこしは他人より多めにドラマを見ていますが、再放送のたびに気になり5年たっても見るドラマはこれだけです。息苦しさを覚えるような生き様に感情移入できたことが、その原因ということでしょうか。
サンデートイズの入札は120億円からスタートし、ホライズンと三葉銀行(投資ファンドアイアン・オックスを含む)が入札額を提示し相手がギブアップするまで続くサドンデス方式。
121億、126億、127億、……、165億、166億、
どんどん金額が跳ね上がり、午後5時からはじめた入札は日付が変わるころまで続く。
鷲津は記者会見で三島由香(栗山千明)の上司・野中(小市慢太郎)に「早い話乗っ取りじゃないですか?」
と詰め寄られたときに苛立ちを見せる。
「お金を稼ぐことがいけないことでしょうか? いけないことでしょうか? わたしがやろうとしていることはルールにのっとった企業再生です。 その結果えられる報酬に、なにか問題があるんですか? 日本は資本主義社会でしょう? そこに何か問題があるんですか! 問題があるんですか!!」
由香に執拗に取材されるうち、銀行時代の心の傷を思い出す。また正当な企業買収と投資が理解されないことに、気がつかないうちに疑問が膨れ上がっていく。これが最終回につながる。
一方、芝野は社長に担いだ伸彰がサンデーの金を私用に横領している疑いがあることを知らされながら、三葉銀行を守るために不正はないと由香にシラを切りとおす。
「仕事? これが俺の仕事なのか!? 」
会社を守るために純粋な企業再生がままならない。こんなの俺の生きかたじゃない。
「自己嫌悪でひりひりするようなその胸の疼きを、場末の居酒屋のビールで流し込んで忘れたふりするのが仕事ってことじゃないか」
同僚の沼田(佐戸井けん太)がサラリーマンの生きる極意を話すが、それはむなしい遠吠えにしか聞こえない。後輩の鷲津はこんな世界からとっくに足をあらっている。
「あなたたち、何をやってるんですか? 芝野さん、それでいいんですか? それで、いいんですか?」
由香の叫びがむなしくビル街に響く。彼女は伸彰の関係者から聴きだそうと取材をするが裏が取れず、夜のニュース原稿差し替えの不手際を起こす。由香、憔悴。
ところが、入札を繰り広げる芝野の胸にこの言葉がよみがえっていた。
三葉 189億
ホライズン 190億
サンデーの再建プランに出せる上限額に届くころ、由香の携帯に連絡が入る。そして、サンデー不正のニュースが流れる。入札はストップ。三葉が降りたことでホライズンの勝ちとなる。
しかし、由香に連絡をした芝野はもちろん、勝った鷲津にも笑顔はなかった。ふたりの戦いに終わりは見えない。
結局、瑞恵(富士真奈美)と伸彰の親子の戦いは
「親子でも伝わらない愛情がある」
という鷲津のことばにも気がつかないふたりがともに会社を去る結果になる。そして芝野は入札に負けた責任を取って銀行を辞職する。
お金の争いは醜い。家族であろうとも会社を経営することは血縁関係より優先される。金を稼ぐことだけに執着すれば、必ずそこには敗者だけが生まれる。どこまでも続く金融地獄、金に踊らされたものが負け。
そして失意のうちに銀行を去る芝野に鷲津がいい放つ。
「あなたは、わたしなんだ」
地獄のむこうにみたふたりだけの真実、それは次章で明かされることになります。
長々とまとまりがないものになりましたが、今日はこの辺で。