やはり典膳(山本耕史)が千春(柴本幸)を離縁した理由がいまひとつわからない。たしかに千春は長馴染みと心ならずも不義を働いてしまった。丹下家を守る身としては落ち度があった。だが典膳の母・ぬい(檀ふみ)の葬式で“キツネ封じ”の一計を使って千春が心無い噂にさらされることを救ったはずなのに。
この理由がわからないのは私の不徳の致すところ、とかっこつけたくなる。だが制作側の意図としてどうもここをわざと不透明なものにしている気がしてならない。事実、千春の親許である長尾家の面々は離縁の理由がはっきりわかっていないし、そこで千春の兄が激昂して典膳の左腕を切りつけていまう。
ここから、典膳の転落が始まる。
お家の家禄召し上げ。つまり武士の身分をはく奪され浪人になる。
しかも、刃傷沙汰の理由を上杉家の家老・千坂兵部(草刈正雄)から口外することをきつく止められる。長尾家が千坂家と同じ上杉家の家来であるために、お咎めをうけることを避けるため。典膳にとっては踏んだり蹴ったりだ。現代の人間なら
「バカヤロー!!」
とか毒づくか、ミステリー仕立てなら復讐を考えるところでしょうか。ここを淡々と受け入れるさまを山本はさわやかに演じている。理不尽な上意を心中ではこらえつつもそこを表情に見せないすがすがしさ、そこをうまく演じられるのが時代劇の良さであり醍醐味である。NHKが山本を使いたくなるのはわかる気がする。
でも、家禄召し上げはあまりにも理不尽だ。江戸時代ではこうしたことに対し、異議申し立てとか裁判に持ち込めなかったのだろうか?この描いている時代からずっと下って『遠山の金さん』といった勧善懲悪ものの印象が強いだけに、江戸時代だって裁判はできないのでしょうかね。それとも、武士は刃傷沙汰を起こした時点で有無を言わさず沙汰をうけいれることだったのかもしれない。そして不義密通も。つくづく対面が大事にされる時代だ。今の私が江戸にタイムスリップしたらとてもやっていけないだろうが、時代劇を見る上では理不尽さを受け入れてこそ楽しめるってことでしょうか。
そして、もうじき江戸を揺るがす刃傷沙汰がこの時代劇に登場する。典膳が時代に飲み込まれていく過程がおそらく描かれる。次回は中山安兵衛(高橋昌也)に活躍してもらいましょう。