とりあえず、私はその辺にあるCDをダンボール箱に詰めながら「とある人物」へ疑問をぶつけました。
Q「どうして引越し屋さんに頼まなかったの?」
A「見積もりがすごい金額になったから・・・」
Q「ブックオフに売れば?」
A「残したいのと売りたいのが混ざってる状態では、買い取れないって・・・」
Q「何で、もっと早くから取り掛からなかったの?」
A「1週間前から取り掛かってはいたんだよ・・・」
そう言いながら、彼はCD「と、そのジャケットが入った冊子状のクリアファイルを見せてくれた。ケースを捨てて、ファイリングするということだろう。
繰り返しになるけれど、この家は腰の高さまでCD、DVD、本が積み重なっている。それらを分類し、ケースから出して、ジャケットをクリアファイルに入れるのか。
たぶん、10年前から取り掛かってないと終わらないと思う。
っていうか、CDは1枚たりとも捨てたくないってことか。
CDのジャケットを取り出すのって、けっこう時間かかるよね。
ツッコミどころが多すぎて言葉が出ないでいると、私が納得したと思ったのか、彼は作業に戻って行った。
それにしても、これだけの荷物をたった数人で片付けるのはいくらなんでも大変すぎる。私は思い切って聞いてみた。
「あの・・・もう少し人を呼びません?」
「うん、そう思って1週間くらい前にフェースブックで呼びかけたんだけどね」
「あー、みんなに断られたんですか・・・」
「いや、断られたっていうか・・・みんなノーコメントで、それ以来、何を投稿しても『いいね』してもらえないんだよね」
ごめん、やっぱ聞いちゃいけないヤツだった。
それから延々とCD、DVD、本、マンガ、雑誌に分類して、ダンボール箱に詰め込み続けました。
ある程度、箱がたまったら、新居へワゴン車で運ぶのですが、夕方までやっても全然、減った気がしない。
きっと、この部屋はダンジョンだったのだ。倒しても倒しても、モンスターがわき出てくる地獄のダンジョンだったのだ。
新居は大きな道路から曲がりくねった住宅街に入り、その先の細い路地の向こうにあるので、途中でワゴン車を止めて家まで台車で荷物を運ばなければならない。ここでもむやみに体力を奪われる。
ちなみに、なんと2階建ての一軒家だった。
古そうではあるけれど、なかなか立派な家だ。2階に2部屋、1階は2部屋、広い台所とトイレ、風呂などの水回りは新しくリフォームされている。以前のボロアパートとは雲泥の差だ。
「すごい良い物件ですね。家賃いくらなんですか?」
「2万9千円」
「は?・・・前のボロアパートは?」
「3万2千円」
・・・新居、安すぎる。100%事故物件の予感がするけれど、さすがにそれは黙っていた。
やがて18時になり、私は言った。
「勇者よ。私は家に帰らなければならない。なぜなら、丸一日子どもと過ごして疲れ切った妻から『ホカ弁を買ってこい』というメールが来たからだ」
勇者は悲しそうな目で答える。
「・・・そうか、オマエもボクを見捨てるのか」
「おいおい勇者よ、手伝いに来た人間に対して、なんて言い草だ」
※これはフィクションであり、登場人物も出来事もすべて架空のものです(笑)






