小説「ダンジョンに挑むこと自体がまちがっていたのだろうか」① | おだんご日和

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Dango茶屋・いちのせの徒然記

 

 

3月も終わろうという今日この頃、私は時々あの冒険を思い出す。

あれから、もう1年が経とうとしているのだ。

友人の引越しを手伝いに行っただけなのに、まさかあんなファンタジックな冒険をすることになるなんて思いもしなかった。

 

この記事に記録されていることは全て、確かに1年前に実際に起こったできごとなのです。

これから書くことは、文字では意味が解らない部分もあるかもしれませんが、それは私の文章力がアレだとか、あなたの読解力が足りないとか、そういうことではなく、人間の理解を超えるものをできるだけ正確に記録しようとすることで起こる、表現の齟齬とでも言うべきものではないかと思います。

 

その日、私は「とある人物」の引っ越しを手伝うために彼の住むアパートに初めて行きました。

午前中に用事があった私が、昼食の後に自転車でアパートに近付いて行くと、遠目からもすでにアパートの階段下に1メートル程度の高さに重なった荷物の山が見えました。

「ちょっと遅かったかな」と思いました。その荷物はアパートの側面をすでに埋め尽くして壁のようになっており、引っ越しは、おそらくほぼ完了しているだろうと思ったからです。

あとは、あの荷物を新居に運ぶだけだろうと・・・。

 

それから5分くらい、私は混乱し続けました。

 

まず「とある人物」は、独り暮らしなのに3K(6畳2間、4畳半1間、キッチンの4部屋)で暮らしていました。

私が、妻と子どもと3人で暮らしていたアパートと同じ広さです。

「ちょっと贅沢な暮らしをしているなぁ」と思いました。

2階にある彼の部屋に入ると、まだキッチンの半分くらいしか片付いていません。

「あれ?外の荷物は何だったんだろう?」

「そうか、残りの6畳と4畳半の荷物か!」

しかし、残りの部屋は全くの手つかずでした。よくわからないな。キッチンだけに、あれだけの荷物が入るはずがないじゃないか。

ちなみに、手つかずの部屋には、腰の高さまでCD、DVD、本がみっちりと積み上げられています。

比喩表現ではなく、本当に、レンガのように「みっちり」と積み上げられているのです。

 

私は、だんだん不安になり、「とある人物」と、手伝いに来ている男性(1名、人格者なので以下、賢者と呼びます)に尋ねました。

「外の荷物は、この部屋の?」

賢者が次のように答えました。

 

「そうです。朝から片づけ続けて、今やっと通路が確保できたところです。そして私は、仕事の都合でどうしても15時に帰らなければいけません。後はがんばってください」

 

私は心の中で「無理です」と即答しつつ、別の疑問が次々と思い浮かび、1秒ほど黙ってしまいました。

「これをたった二人でやってたの?」

「彼は普段、どこで寝ているの?」

「案外、床って抜けないものなんだなぁ」

「なんで、アパートの他の部屋は、すべて無人なんだろう」

1秒後、混乱しながらも私の口は勝手に答えていました。

 

「あはは、こりゃ大変だ。ま、何とかしますよ」

何とかなるワケない。

 

この後、友人に電話をして応援をお願いしました。

「荷物の量がすごいんだけど、もしも時間あったら手伝ってくれない?」

「こんな時だけ呼びやがって(苦笑)、でもいいよ。終わったら、ひさしぶりにメシ食いに行こうぜ」

たぶん終わらないよ。

(この男気あふれる友人を以下、戦士と呼びます)

戦士は、明日(日曜日)の朝から来てくれると言います。ありがたい。

 

こんな大変な仕事に戦士を巻き込んでしまい(そして、そのことに戦士が気付いてもいないことに)心苦しさはあったけれど、この時はまだ「大変だけれど、まぁ何とかなるだろう」という、甘い見通しも持っていました。

 

 

 

※これはフィクションであり、登場人物も出来事もすべて架空のものです。