おだんご日和 -8ページ目

おだんご日和

Dango茶屋・いちのせの徒然記

 

 

昼ごろになると、賢者がオニギリを差し入れしてくれたり、スピードワゴンが手伝いに来てくれたりした。しかし、何より助かったのは、ダンボール箱の差し入れだった。
あまりに物が多すぎて、すぐにダンボール箱が足りなくなるのだ。その結果、手伝いに来る者は、ホームセンターでダンボール箱を買って持ってくるようになった。ダンボール箱は買うと結構な値段がする。1個300円くらいでも、5個なら1500円、10個なら3000円である。
無償労働なのに、みんな3000円くらいの手土産を持ってやってくるのだ。災害ボランティアならともかく、何なんだこれは一体!

 

スピードワゴンが「落ち着いたら、手伝ってくれたみんなを新居に呼んで、焼き肉パーティでも開かないといけないぜ」と言ったら、トンヌラは「そうですねぇ、片付いたらですね、へへへ」と笑っていた。
こいつは絶対にそんなことしないと、私は直感した。

 

それでも、夕方になる頃にはラストダンジョンの荷物も半分以上が片付き、他の部屋をホウキで掃いたり、アパートの横に溜まった大量の「捨てる分のゴミ」を整理したりする余裕ができてきた。
ちなみに、部屋をホウキで掃くとホコリや砂と一緒に、フィギュアやプラモデルの部品がコロコロと集まってくる。
どういう家だよ。それはともかく明日が最後の決戦だ。

 

日曜日の朝。

 

プリキュアが終わる頃には、トンヌラの家で最後の戦いが始まっていた。
終わりが見えてきて気分が軽くなったことと、片付けのノウハウが身についてきたこと、そしてスピードワゴンの応援もあり、作業は思っていた以上に早く進んでいた。

昼にはラーメンを食べ、16時近くになるとラストダンジョンもほぼ攻略という雰囲気になってきた。

 

その時、戦士が気付いた。

「あれ?こんなところに押入れがあるの?」

今まで荷物に隠れて見えていなかったが、ラストダンジョンには押入れがあったのだ。
さっきまでの明るい雰囲気が一変し、全員の表情が固まった。
皆がトンヌラの顔を見ると、彼は「こんなところに押入れあったっけかな?」と言った。ラストダンジョンには、家主も知らないエクストラダンジョンがあったのだ。

 

張りつめた緊張感の中、戦士がゆっくりと押入れの戸を開ける。

そこには何も入っていなかった。
緊張が緩み、みんなが笑顔になる。きっと、荷物が増える過程で押入れの戸をふさいでしまい、そのまま忘れ去られてしまったのだろう。

 

やがて作業は終了した。

 

見回すと、本当に広い部屋だ。この部屋全てに腰までモノが積み重なっていたのだと思うと、何かとんでもないことが、世界の誰にも知られずに起こり、そして誰にも知られることなく片付けられたのだとしみじみ思う。
きっと今まで何度も、こうやって世界の危機は起こり、誰にも知られずに解決されていったのだろう。これこそヒーローの仕事で、今日私たちはヒーローの一員になったのだ。

 

スピードワゴンが口を開いた。
「あーあ、すっかりホコリだらけになっちまったな。ぽかぽか温泉にでも行くか?」
私たちは賛成し、玄関へ歩いて行く。

 

戦士がふと、玄関横のドアに目をやった。
「あのドア、何ですか?」
「ああ、トイレとお風呂だけど・・・」
トンヌラの答えを最後まで聞かずに、戦士はそのドアを開けた。

戦士の動きが一瞬止まり、そして、さっとドアを閉じた。
「さ、行こう、行こう!」戦士はさっさと玄関から出て行く。
トンヌラは「あとで自分がやりますから・・・」と言っている。

 

??

 

私が戦士を追いかけて、何を見たのかと聞くと
「あれは自分でやってもらわないと・・・他人がすることじゃない」と答えた。

きっと戦士は、トンヌラひとりで戦うべき「真のラスボス」の断片を見たのだろう。

 

こうして冒険は、ぽかぽか温泉で汗と疲れと汚れを洗い流して終わった。

 

それから一年の月日がたった。

 

私はトンヌラに、アニメーションで使う重要な模型の色塗りを依頼し、仕上がったものを受け取るためにトンヌラの新居に再びやって来た。
トンヌラは新居の中に絶対に入れてくれなかったけれど、玄関から見える範囲だけでも、一年前と同じ場所に同じダンボール箱が置かれていた。
(こいつ、絶対に片付けてないな)と確信した。

 

まあ、それはともかく、玄関口に立ったまま、模型の仕上がりを確認させてもらった。
私が作った大雑把な模型に、市販のプラモデルなどの部品を貼り付けてディティールを加えてから色を塗っている。素晴らしい仕上がりだった。
「いやあ、良いですね!ディティールアップまでしてもらって、ありがとうございます」
私が言うと、トンヌラは少しはにかんだ様子で答えた。
「うん、プラモデルとかいろいろ捨てられちゃってたから、ディティールアップはちょっと大変だったけどね」
最初、私はトンヌラが言っている意味が良くわからなかった。捨てられちゃってたって・・・何?
そして、ゆっくりと「トンヌラは、引越しの時にオレらにいろいろ捨てられちゃったと思っている」と理解した。

 

「いやいや、あの状況でしたし、その言い方はないんじゃないっすか?」
「うーん、でもあの後、どこいっちゃったのか見つかんないCDとかあるんだよね」

 

え?なにそれ?オレに謝ってほしいってこと?

ここで私はやっと気づいた「トンヌラって勇者じゃなくて、魔王だったんじゃね?」

 

「あー、そーなんですか、すみませんね。
 とにかく色塗りありがとうございました。仕上がりも良くて、すごい助かりました。
 あと、もし次に引越しする時があったら、ご迷惑かけたらいけないんで、絶対に手伝いませんから。
 じゃっ!」

 

(完)

 

 

※これはフィクションであり、登場人物も出来事もすべて架空のものです。ホントにもう・・・ね、何というか、フィクションなワケですよ。ホント。

 

 

 

 

すると、ずっと黙って聞いていた戦士が決意を込めた声で言い始めた。
「わかりました。とりあえず、出来るところまでやってみましょう。でも18時までです。それまでやってみて、見通しが立ちそうになかったら、あきらめてください」

 

戦士はそう言うと、次々にダンボール箱を組み立てはじめ、大量の空箱を作り出した。
そして、CD、DVD、本をまったく分類せずに、ザラザラと箱の中に放り込み始めた。箱の中から「ガシャ」とか「バキ」とか異音がしているけれど、まったく意に介さずに放り込み続け、箱はあっという間にいっぱいになった。
トンヌラは「えー!?」という顔をしているけれど、何も言えないでいる。

 

戦士が箱を少し持ち上げたので、「ああ、部屋から運び出すのかな?」と思った瞬間、箱を細かく左右に揺らし始めた。
「???」
箱を下ろすと、中に空間が出来ていたので、戦士は再び荷物を放り込む。

子どもの頃に砂場で、バケツに砂を入れて遊んだことがないだろうか。
一見、バケツいっぱいに砂が入っているように見えても、バケツの横を数回叩くと、砂がならされて、もっと砂を入れることができるようになる。あの要領だ。

 

ダンボール箱がいっぱいになると、戦士はトンヌラに「これ、運んでください」と言って、次の空箱に荷物を放り込み始めた。
トンヌラは黙って箱を1階へ降ろした。
ああ、最初からこうすれば良かったんだ。私も戦士に倣って、空箱にザラザラと荷物を放り込む。
CDやら本やらの擬音に「ザラザラ」を使うのは適切でないように感じられるかもしれないが、確かにそんな音がしたのだ。

 

それから18時まで、今までの何倍ものペースでダンボール箱が運ばれて行った。

 

しかし、それでも焼け石に水という感じで、ラストダンジョンは畳1枚分を攻略できたか、できていないか・・・そもそも、ラストダンジョンが1日で攻略できると考えていた私たちが「坊や」だったのだ。

 

トンヌラは大家さんに電話して激ギレされ、引っ越しは来週へ持ち越しとなった。私と戦士は敗北感と解放感に包まれながら家路につく。

 

「オレは見届けるよ」と戦士はつぶやいた。
戦士のカッコよさに私はちょっと感動していた。

 

一週間は、瞬く間に過ぎ去った。

 

土曜日の朝から、戦士と私はトンヌラのもとに集まり、再びラストダンジョンの攻略に旅立つのだった。
戦士は、先週と比べると格段に動きやすい服装で、軍手の他にマスクとタオルを装備しており、瞳はキラキラと輝いている。
(こいつ・・・楽しんでいやがる)と私は思った。

 

ところで、トンヌラの咳は先週よりひどくなっており、目ヤニも出ている。
ハウスダストの影響かもしれないということになり、まだ少し肌寒い季節だったが窓を開け放して作業することにした。
トンヌラもマスクをしているが、あまりに咳が出過ぎて呼吸困難になるとマスクを外し、ゼエゼエ言いながら酸素を補給している。しかし、マスクを外すたびに更にひどい咳が出ていた。その姿は痛々しく、かわいそうに思えた。
あまりにゼエゼエしているので、私が不謹慎にも「大相撲の優勝インタビューかよ」とつぶやくと、それが戦士のツボに入ってしまったらしく、トンヌラが呼吸困難で苦しむたびに戦士は笑いをかみ殺していた。
笑っては申し訳ないと思いつつ、横綱の顔を思い出してしまうのだろう。私が変なことを言ったせいだ。

後日、病院で検査してわかったことだが、トンヌラは花粉アレルギーを発症していたらしい。窓を開け放したのも、呼吸をするためにマスクを外したのも、逆効果だったのだ。
トンヌラには申し訳なかったと今でも思っている。

 

 

※これはフィクションであり、登場人物も出来事もすべて架空のものです。でもまぁ、去年の3月に友達の引っ越しを手伝ったのは事実です。

 

 

 

 

この部屋を片付けながら、1つの謎が解けた。
トンヌラがどこで寝ているのか、ずっと不思議に思っていたのだが、この部屋が寝室なのだ。
部屋の一番奥(窓に近いところ)に、荷物に囲まれた細長い空間があり、そこに寝袋と毛布があった。その空間に横になると、ちょうど頭の上にCDプレイヤーがあり、左を向くとテレビとDVDプレイヤーがある。まわりの荷物の上には、いつもトンヌラが着ている数種類の洋服が畳んでおいてあった。

 

トンヌラにとって、本当の意味で休息できるのは、この細長い空間だけなのだ。
それは安息の地というより、ドラキュラが眠る棺桶のようだった。いや、ドラキュラというより、ピラミッドに眠るミイラだ。
ああ、それにしても・・・あの熊本地震の時は、佐賀市も震度5で揺れたはずだ。よく荷物が崩れなかったものだと思う。この部屋の荷物は熊本城の石垣より丈夫だということだろうか。

 

16時になり、賢者は申し訳なさそうに帰って行った。仕事があるからなのだけれど、ちょっとうらやましい。
同じ頃に引越し屋さんがやってきて、冷蔵庫と洗濯機を新居に運んで行った。トンヌラは、なぜか冷蔵庫と洗濯機の移動だけを引越し屋さんに依頼していたのだ。
「一番、大変なモノだけは引越し屋さんに頼むことにしてたんです」とトンヌラは言った。
じゃあ、その一番大変なモノを運ぶから、大変じゃない方を引越し屋さんが運んでくれないだろうか、と私は思った。
引越し屋さんは、部屋の状況を見て苦笑しながら、冷蔵庫と洗濯機を毛布に包んで手際よく運んで行く。やはり引っ越しはプロに頼むべきだと感心した。

 

バタバタとした時間が過ぎ去り、トンヌラと戦士と私はこれからどうするかを考えなければいけなくなった。

 

まだ、部屋の片づけは入口周辺からまったく進んでいない。
私は中指を切ってズキズキしており、戦士は人差し指のツメが割れている。(二人とも、ちゃんと軍手を付けていたのにケガをした。素手のトンヌラは、なぜか無傷だった)正直に言って、長時間の作業は無理です。

 

「このまま月曜の朝まで続けても、引っ越しは終わらないと思います」私は率直に言った。「大切なモノだけを救出して、後は大家さんに処分をお願いするか・・・来週まで引っ越しを延期するかだと思います。どうします?」
トンヌラは沈思黙考し、やがて口を開いた。
「・・・とりあえず、やれるところまでやって・・・」
「何時までですか?みんな明日は仕事ですから、そんなに遅くまではできませんよ」
私は間髪入れずに続ける。
「二択ですよ・・・物をあきらめるか、引っ越しをあきらめるか」
(私の職場は月曜休みなのだけれど、あえてそこには触れなかった)

 

トンヌラは再び黙り込み、観念したように説明し始めた。
「このアパートは解体する予定です。もう何カ月も解体を待ってもらっているので、引っ越しを来週に延ばすと言えば、大家さんは激ギレするだろう・・・っていうか、すでに何度も激ギレされている。しかし、この部屋の荷物は他の部屋とは比べものにならないくらい大切なものなので、あきらめることもできない」

 

「・・・」長い沈黙。

 

しかし、心の中では様々な思いが渦巻いていた。
「だったら、この部屋の荷物から片付けろよ」
「トンヌラ1人のために解体を始められないなんて、大家さんは大損害だろうなぁ」
「そもそも、二択に答えていないじゃないか」

 

 

※これはフィクションであり、登場人物も出来事もすべて架空のものです。いやいや、ホントに実体験なんて、ひとっかけらも入っていませんから。

 

 

 

 

話しは変わるけれど、作業中、勇者はよく咳をしていた。
私が「風邪ですか?」と聞くと、「いや、最近咳が止まらなくて」と答えて、さらに咳き込んでいる。
「ハウスダストのせいかなぁ」と勇者が言うので、私と戦士は「アンタの家だよ」と心の中で突っ込んでいた。
階段を上り下りすると、ひどく咳き込んでいたので、おそらく寝不足と普段の運動不足のせいだと思う。

 

勇者だけど体が弱い。

 

どうやら私たちの勇者はローレシアではなく、サマルトリアの王子だったらしい。
以下、勇者のことを「トンヌラ」と呼ぶことにする。

 

戦士の活躍もあり、昼頃には一番奥の六畳間以外は、何とか目途が立った。
しかし、その六畳間には、まだまったく手を付けておらず、他の部屋よりも明らかに物が多い。
まさに「ラストダンジョン」といった貫禄がみなぎっている。
私たちは、近所の牛丼屋で並盛をかき込みながら、ラストダンジョン攻略の作戦を練った。

 

今日は13時から16時まで、賢者が手伝いに来てくれる。賢者は車の運転がうまく、パーティーの中で唯一、路地を通ってワゴン車を新居の前まで移動させることができる。賢者がいる間に、どれだけの荷物を運び出せるかで勝負が決まると言えるだろう。
私と戦士は気合を入れ直した。
トンヌラは、どういうワケか悲しい目をして黙っている。今日中に引っ越しが終わらないという恐怖にさいなまれているのかもしれないが、どこか引っ越しが終わってしまうのを悲しんでいるようにも見えた。
いや、疲れ切って呆然としているだけかもしれない。

 

13時に賢者が再加入すると作業は加速した。
六畳間から、荷物がいっぱいに詰まったダンボール箱が次々に運び出され、ワゴン車は新居との間を往復した。
「このぺ-スなら、今日中に何とかなるかもしれない」かすかな希望が見えてきた。

 

しかし1時間くらい経つと、おかしなことに気付いた。
ものすごい勢いで荷物を運び出しているのに、ちっとも荷物が減らないのだ。
15時半頃になっても、やっと入り口の周辺が空いてきたくらいで、畳1枚分も片付いていない。荷物を運び出しても、その場所へ別の荷物が崩れてくるので片付いている面積が広がらないのだ。いや、むしろ崩れがひどくなって散らかっている面積が広がっているような気さえする。
私は、段々悲しくなってきた。引っ越しが終わらないとか、作業がつらいとか、そういうことではなく、もっと根源的な悲しみだ。

 

「この部屋には、人類の罪深さが詰まっているね」と私は言った。
戦士は私の言葉を無視して作業を続けている。かまわず私は続ける。
「たまたま、この部屋にこれだけの物が集まってしまっただけで、仮に部屋が片付いたとしても、人類がこれだけの物を生産したという事実は変わらないわけだ。
これだけの資源を使って、地球を汚して、その上、物を奪い合って争うんだよ。物なんて実際は邪魔なだけなのに。
そういう人間の罪深さの象徴としてこの部屋はあって、私たちは自分自身の罪深さを償うために、こうやって引っ越しを手伝っているんじゃないだろうか?」
戦士は手を止めずに言った。
「どう考えても罪深いのは人類じゃなくて、トンヌラだろう」
そりゃそうだ。

 

ちなみに、戦士は私の友人ではあるもののトンヌラとは今日が初対面である。
初対面でこの言われ様のトンヌラっていったい・・・。

 

 

※これはフィクションであり、登場人物も出来事もすべて架空のものです。ホントなんだってば!

 

 

 

 

私は束の間の休息の後、家族の冷たい視線に耐えながら再びダンジョンへ向かった。もう20時だ。

 

勇者は懸命に「いる本と、いらない本」を分けていた。きっと2時間、同じことを繰り返していたのだろうが、見た目に荷物が減ったような感じはしなかった。勇者が悪いのではない。荷物があまりに多すぎるのだ。
いや、それは結局、勇者が悪いってことなのか?

 

しかし、「いらない本」が案外少なくてびっくりする。全部捨ててしまいたい衝動に駆られるが、そんな事を考えている時間がもったいない。今はとにかくCDを箱詰めするのだ。

 

私は作業をしながら、ちょっと気になっていることを聞いてみた。
「ところで、引越し屋さんの見積もりっていくらだったんですか?」
「基本30万だけど、追加料金があるかもしれないって」
うーん、確かに高いけれど、普通の引っ越しと比較して考えると、意外と良心的な値段のような気もする。

 

しばらくすると、勇者にワゴン車を貸してくれた紳士が様子を見にやって来た。紳士は音楽に造詣が深く、勇者のコレクションにも価値を認め、敬意を払っているのだ。以下、ワゴン車を貸してくれた紳士のことを「スピードワゴン」と呼ぶ。

 

スピードワゴンはこう言った。
「円盤(CDのこと)っていうのはさ、整理分類されて、いつでも好きな曲を聞けるから価値があるんだよね。今、この円盤たちは死んでるよ」
前言撤回。まったく価値を認めていないし、少なくとも敬意は払っていません。

 

それでもスピードワゴンは22時まで手伝ってくれて、解散の際には「勇者よ、とにかく今日は寝ろ」と言ってくれた。この時、私は勇者が一昨日から一睡もせずに荷物を片付けていることを知った。

 

翌日、私は朝の9時からダンジョンの前に立っていた。

 

日曜日の朝に、「『 』題名のない音楽会」が終わる前から出かけるなんて、これじゃあ遠足みたいじゃないか。しかし、これは遠足ではなく、遠足みたいに楽しくもない。ただ、ただ、薄暗いダンジョンでモンスター(※荷物)と戦い続けるだけなのです。

 

しかも、近所まで来たら連絡する約束の戦士から、なかなか電話がこない。
戦士には遠慮して「無理しなくていいよ。9時から10時の間くらいに来てくれれば」と言ってあったのだけれど、いざ当日になると1秒でも早く来てほしい。

しかし、来ないものは仕方がないので、私は作業に本腰を入れ始めた。

 

「・・・」

 

しまった、気付いたらもう10時半だ。携帯電話を見ると、9時55分に着信が入っている。作業に一生懸命になりすぎて、着信に気付かなかったのだ。(私、最低)
「もう帰っていたらどうしよう」私は恐怖におののきながら電話しました。

戦士は約束の場所で待っていてくれたが、明らかに声がふて腐れている。完全に私のミスなので、平謝りに謝って急いで迎えに行った。(アパートの場所がわかりにくいので案内がいるのです)

 

結論から言うと、戦士は頼りになった。

 

最初こそドン引きしていたけれど、ものすごい勢いで片付けを始め、物をどんどん運び出してくれた。
それに戦士はB級邦画が大好きなので、「映画 変態仮面」(※私が子どもの頃、少年ジャンプに載っていたギャグマンガが原作で、なぜか最近実写映画化された)での清水富美加の演技の素晴らしさを語り出したりする。くだらないことだけれど、少し場が明るくなり、つらい作業も少しだけ楽しくなる。

 

作業の最中、戦士はポツリとつぶやいた。
「これは黄金伝説とかで、タレントが取り組む案件だよね」
いわゆるゴミ屋敷番組のことを言っているのだろう。

なるほど、勇者は私たちに声をかけるのではなく、ナイトスクープにでも手紙を出せばよかったのだ。

 

 

※これはフィクションであり、登場人物も出来事もすべて架空のものです。ホントよ?