『 山 の 職 人 ( 続 ・ 石 の 花 ) 』



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『私は、盲目じゃないわ。

 その位、知っているわよ!

 あなたの事なんて、怖くないだけ。

 あなたは、人の仲を裂く、意地悪な女よ!

 あなたなんか、ちっとも怖くなんてないわ!

 あなたがどんなに、ずる賢い考えをしたって、

 ダニーロは、私の所に帰りたがっているんだわ!

 私、この目で見たのよ。』



そうカーチャが言うと、女王様はまた静かにこう言いました。



『そうですか。

 では、ダニーロ自身が何と言うか、

 直接、本人に聞いてみるとしましょうね。』



 するとそれまで森の中が、うす暗かったのですが、

急に、森中が明るくなったのです。

まるで、森が生き返ったかのようです。

足元の草が、色んな色で輝きだし、

木々も、負けじと美しく輝き出しました。

木々の間を通して、その先に草地が見えます。

そこには大きな「石の花」が咲いていました。

花の上を、まるで火花が飛び散る様に、

金色のミツバチが飛び回っています。

カーチャが、石の花の向こう側を見ると、

その森の中をダニーロが駆けてきます。

真っ直ぐ、カーチャの方に走って来るのです。

カーチャも、ダニーロに向って走り出しました。



ダニーロ!』



カーチャは叫びました。

すると女王様は、



『お待ちなさい。』



と言い、ダニーロに質問を始めたのです。



ダニーロ、これからどうするか決めなさい。

 この娘と共に村へ帰るのなら、

 ここの世界の事は、もう忘れなければなりませんよ。

 しかしここに残るというのならば、

 この娘の事も、村の事も全て忘れなければなりません。』



『僕は、村の事を忘れるなんて出来まないよ。

 それにカーチャの事は、今までだって、

 一度も、忘れた事なんてないさ!』



それを聞いた女王様は、微笑みながら、



『わかりました。

 カーチャ、あなたの勝ちですよ。

 あなたの花婿さんを連れて、ここからお帰りなさい。

 あなたの勇気と、意志の強さのご褒美に、

 この私の石の世界の事も皆、

 ダニーロの思い出に残してあげましょうね。

 ただこの「石の花」のことだけは、

 すっかり忘れなければなりませんよ。』



そう言うと、あっという間に、

あの大きく美しい石の花が咲いた草地は、消えてしまいました。



『さあ、あちらに向って歩きなさい。』



と、女王様が言うと、もう一度念を押しました。



ダニーロ、山の事は決して他の人に話してはなりませんよ。

 遠くの職人の親方の元に、修行に行っていたと、

 そう皆には、答えるのですよ。

 それからカーチャ

 あなたは、私があなたの花婿を取り上げただなんて、

 決して、考えてはいけませんよ。

 今、忘れたばかりの石の花を求めて、

 ダニーロ自身が、私の元を訪ねて来たのですからね。』



 それを聞いたカーチャは、深々と頭を下げ、



『酷い事を言って、ごめんなさい。』



と、謝罪したのです。



『いいえ、良いのです。

 そんな事、石の私には、何でもない事ですから。

 あなたたちの間に、私の事で喧嘩が起きないように、

 言っただけの事ですからね。』



女王様は、そう言いました。



~本日は、これにて~




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

おしまいっ。
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