『 山 の 職 人 ( 続 ・ 石 の 花 ) 』




 ダニーロの許婚のカーチャは、

その後、誰とも結婚をせずに1人で居りました。

ダニーロが居なくなってから、2~3年が過ぎ、

カーチャは、嫁入りの年ごろを過ぎてしまったのです。

その頃の二十歳を過ぎた娘は、

もう年を取り過ぎてしまったと考えられており、

なかなか求婚されなくなってしまうのでした。

若者は、もうその年齢の娘にはもう興味を持たず、

言い寄って来るのは、男寡(おとこやもめ)位のものでした。



 しかしカーチャは、器量良しの上に働き者だったので、

若者たちも、結婚して欲しいと言い寄って来るのでした。

けれどもカーチャは、若者たちに、



『私は、ダニーロと約束しているから駄目よ。』



と、言うばかりでした。



 それでも皆、カーチャを別の誰かと結婚させようと、

色々と、説き伏せるのです。



『何を言っているんだい!

 約束したって、結婚しなかったじゃないか。

 今、そんな事を思い出したって、何の役にも立ちやしないよ。

 お前さんの相手は、もうとっくに死んじまっているさ。』



 しかし、そんな事を言われても、

カーチャは頑として、聞き入れません。



ダニーロと約束をしたの。

 あの人、きっと帰ってくるわ。』



すると皆も、しつこく言うのです。



『もうアイツは、生きちゃいないさ!』



 何と言われても、カーチャは自分の考えを変えません。



『じゃあ、誰か、ダニーロの死体を見たの?

 私には、どうしても彼が生きているとしか思えないのよ!』



 この娘はどうかしているよ・・・

と、皆は、引き下がるしかないのです。

ある者たちは、カーチャ

『死人の花嫁さん』と、呼んで笑いものにしました。

するとその呼び名が、

すっかりカーチャに付きまとうようになり、

誰も彼もが、カーチャを『死人の花嫁さん』

と呼ぶようになってしまったのです。



 ある時、この地方に悪い病気が流行り、

カーチャの年とった両親も、この病の為に死んでしまいました。

カーチャには、結婚している3人の兄たちと、

嫁に行った姉が何人もいました。

両親が死んだあと、誰が父親の跡を継ぐのかで、

諍いが起きてしまったのです。

カーチャは、諍いを見ると兄姉達に



『私、ダニーロの小屋に行って住むから。

 プロコピッチ親方もすっかり年をとってしまったからね。

 だから私は、ダニーロの代わりに

 親方の面倒を見てあげたいの。』



と、皆に向って言いました。



 それを聞いた兄姉たちは、皆でカーチャを止めました。



『お前、それは感心できないよ。

 たしかにプロコピッチ親方は高齢だが、

 村のみんなが、それを見て何て噂をするか、

 考えた事があるか?』



『それが、どうしたっていうの?

 誰が何て言ったって、良いじゃない。

 考えても見てちょうだい。

 プロコピッチ親方は、私にとっては他人じゃないのよ。

 ダニーロのお父さんなのよ。

 それから私は、今から親方を「お父さん」って呼ぶわ。』



 そう言うと、カーチャは家から出て行きました。

実を言うと、この家の兄姉たちとカーチャ

仲良くは、無かったのです。

カーチャが出て行って、



(余計者が出て行って、もめ事が少なくなって良かった)



と、兄姉たちは皆、心の中で考えていたのです。



 プロコピッチ親方は、カーチャが来た事を、

とても喜んでくれました。



『ありがとう、ありがとう、カーチャ

 わしを、忘れずに居てくれたんだな。』



こうして親方とカーチャは、2人で暮らす様になりました。



~今日は、ここまで~




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

つづくですっ。
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