『 山 の 職 人 ( 続 ・ 石 の 花 ) 』



前回までのお話し  「山の職人 1」  「山の職人 2」  「山の職人 3」  「山の職人 4」
「山の職人 5」  「山の職人 6」  「山の職人 7」





 カーチャは、後ろを付けられていたなんて、

夢にも思ってはいませんでした。

初めて、あのクジャク石を見つけた、

あの場所にやっと辿り着きました。

穴は、少し大きくなったのか、

脇の方にまた、前と同じような石が見えました。

カーチャが、少し揺り動かしてみると直ぐに掘れたのです。

今度もまた、小枝がピシッと折れるような音がしました。

カーチャは、その石を拾い上げると、

大粒の涙を流しながら、声をあげて泣き出してしまいました。

それから、



ダニーロダニーロ

 私をおいて、どこに行ってしまったの?』



と、叫んだのです。



 泣きたいだけ泣いてしまうと、

カーチャは、心の重荷が少し楽になった気がしました。

少しの間、そこに立ち止ったまま考え込み、

銅山の方を見つめていました。

目の先には、森の中なのに空き地なような所があり、

周りを高い木が囲んでおりました。

銅山に近づくにつれて、森の木は段々疎らになりました。

日が暮れかかっています。

森から下の方は、だんだん暗くなり始めており、

カーチャの所から向かい側の銅山の方へと、

夕日が光を投げかけています。

そこは夕日が赤々と照らしているので、

その上の石は、皆、キラキラと輝いて見えます。



 カーチャは、それを興味深げに見つめていました。

輝いている石を、もう少し近くに行って見てみようと、

カーチャが、一歩、足を踏み出すと、

突然、足元で地面が音を立てて割れたのです。

カーチャは、足を引っ込めました。

みると、足元の地面が消えているのです。

そして何故か高い木の天辺に、カーチャは立っていました。

周りにも同じように木の頂が、同じ高さで見えるのです。

木の枝の間から、下を眺めて見ると、

草や花が咲いていました。

ただ元々、ここいらに咲いている物とは、

まるで似ても似つかぬ、草花なのです。



 これがカーチャでなく、他の娘だったなら、

びっくりして、奇声をあげていたでしょう。

ところがカーチャは、違う事を考えたのです。



(ほら山だわ。 山が開いたのだわ。

 ひと目で良いから、ダニーロに会いたい!)



 そう思って、木の間を通して下を見ると、

向こうから、1人、誰かが歩いてきます。

ダニーロにも似ています。

何か言いたそうに、両手を上に伸ばしています。

カーチャは、ボーっとして、

そのままその人の所へ、木の天辺から飛び降りました。

驚いたことに、飛び降りた所は、

木の頂に居る前に、カーチャが元々いた場所だったのです。

カーチャは、思わず独り言をつぶやいてしまいました。



『きっと、夢でも見たんだわ。

 早く家に帰らなくちゃ。』



 カーチャは、帰らなきゃいけないのは、解っているのですが、

もう一度、地面が割れて、ダニーロが見えないか?

と、しばらくしゃがみ込んでおりました。

やがて辺りが、とうとう暗くなってしまい、

家路につくことにしたのです。



(でもやっぱり、あれはダニーロだったのよ。

 ダニーロに会えたんだわ。)



 カーチャの後を付けていた、

あの石細工の職人の親方は、

その頃には、村に戻っておりました。

その途中、カーチャの家を覗いてみましたが、

まだ家はしまったままです。

そこで、



カーチャの奴め、何を持って帰って来るか、

 見届けてやろう。)



と、カーチャの家の物陰に隠れて、

ひっそりと待ち受けていました。

そんな時、カーチャがやってきました。

親方は、カーチャの行く手を遮り、



『お前、どこに行っていたんだい?』



とききました。



蛇山よ。』



『こんな夜中にかい?何しに行ったんだい?』



ダニーロに会いにだわ。』



~本日は、これにて~




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

おしまいっ。
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