『 山 の 職 人 ( 続 ・ 石 の 花 ) 』



前回までのお話し  「山の職人 1」  「山の職人 2」  「山の職人 3」  「山の職人 4」




 この噂は、カーチャの耳にも届きました。

ですが、そんな噂をカーチャは、悲しんだりはしません。



(ふん、嘘は言わせておけば良いんだわ。

 怖がっているなら、その方が都合が良いわ。

 これでもう、ならず者たちがやって来ることも無いでしょう。)



そうカーチャは考えたのでした。



 近所の人たちは、カーチャが仕事台に座っているのにも、

とても驚きました。

それでカーチャの事を、あざ笑う者までいたのです。



『おいおい、カーチャは、今度は、

 男の仕事なんぞを始めたぞ!

 仕事台に座り込んで、一体、何が出来るって言うんだい?』



 カーチャは、こう言われることが、

何より一番つらかったのです。

そう言われるたびに、



(本当に、私一人で、やっていけるかしら?)



と、心細くなってしまうのです。

それでも気を取り直して、



(どうせ、市場で売るような物ですからね、

 そんなに立派な細工でなくても良いのよ。

 ただ平らであって、綺麗に出来ていればそれで良いの。

 でも、本当に、そんな風に作れるかしら・・・?)



 カーチャは、鋸でひたすら石を切りました。

そして石の断面を見ると、驚いたことに、

それはまるで、前もって、どこで石を切ったら良いのか、

印しを付けてあるかのように、切る位置が解るのです。

何もかも、上手くいくようになっていて、

カーチャは驚いてしまいました。

そこで、そのしるしのような模様の通りに、石を切り、

丁寧に、石を磨きはじめました。

最初は、カーチャはとても苦労していましたが、

徐々に慣れて、やり方を覚えて来ると、

どこに売りに出しても恥ずかしくないような、

立派な飾り石が出来上がり、

石の無駄も、削りくずだけだったのです。



 カーチャは飾り板を沢山作り上げると、

何て良い石を掘り出せたのかと、

改めて、自分の幸運に感心したのです。

それから、これらの品物をどこで売ったら良いかと、

頭をめぐらし始めました。

プロコピッチ親方は、こう言う小物を良く町に持って行き、

決まった店に全部納めていました。

カーチャは親方から、その店の事を何度も聞いていました。

それを思い出したカーチャは、

町に行き、その店に持って行こうと思い立ったのです。



 カーチャは、小屋の戸締りをすると、歩いて出かけました。

村の衆たちは、カーチャが街へ出かけていくのに

全く、気づきませんでした。

やがて町に着いたカーチャは、

プロコピッチ親方の品物を買い取っていた店が、

どこにあるのかと、道行く人々に尋ねました。

何人かに聞いて、その店が解ると、

カーチャは、真っ直ぐその店に向いました。

その店には、色んな宝石が沢山飾られていました。

そして、クジャク石の飾り板も、

ガラスのショーケースの中に、沢山飾られていました。

お店の中には、お客も、そして品物を売りに来た職人も、

沢山おり、ごった返していました。

店の主人は、怖そうな、威張った感じの男です。

カーチャは初め、主人の前に行くのが怖くてたまりませんでした。

しかし、思いきって主人に声をかけ、



『あの・・・クジャク石の飾り板を買ってくれませんか?』



と言ってみたのです。



 すると主人は指で、ガラスの棚を指さして、



『クジャク石の飾り板なら、あそこに山の様にあるのが、

 お前の目には、入らないのか?』



と、言いました。

自分の品物を引き取って貰いたいと思っている職人たちも、

主人に調子を合わせて、カーチャ



『近ごろ、この仕事をする職人が増えたもんだぜ。

 ただ、みんな、石をひねくり回してダメにしているだけだ。

 そんな奴にゃ、飾り板には綺麗な模様が大切だってことが、

 全く理解できないのさ。』



と、カーチャを小馬鹿にしたように言いました。



~本日は、これにて~




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

おしまいっ。
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