『 山 の 職 人 ( 続 ・ 石 の 花 ) 』



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ダニーロに会いにだわ。』



と、カーチャが言った事を聞いた親方は、驚いてしまいました。

次の日には、この事が村中の噂になっていました。



『死人の花嫁さんは、本当に気が狂ってしまったぞ。

 毎晩、蛇山に出かけて行って、

 死人を待っているんだそうだぞ。

 気が変だから、村に火でも付けかねんぞ!』



 そんな噂を聞いた、カーチャの兄姉たちは、

また駆けつけて来て、カーチャを見張ったり、

言いきかせたりし始めたのです。

しかし、カーチャは、誰の言うことも、

聞き入れようとはしませんでした。

そして、自分で稼いだお金を見せてこう言ったのです。



『これ、どうやって私の手に入ったと思うの?

 立派な職人の品物だって、受け取ってくれない店の主人が、

 私が初めて作った品物に、

 こんなにお金を払ってくれたのよ!』



 カーチャの成功した話しを聞いて、兄姉たちは、



『運が良かっただけさ。

 ただ、それだけのこと!』



と、言い放ちました。

しかしカーチャは、



『違うわ。ダニーロ自身が私の為に、

 素晴らしい模様の石を置いて、

 私に、掘り当てさせてくれたのよ!』



と、言ったのです。

これを聞いた兄姉たちは、笑いだし、



『本当に、こりゃ、気が狂ったようだぞ。

 管理人に知らせなければならないな。

 本当に、コイツ、村に火を点けなければ良いけどな。』



と、呆れて、出て行きました。

勿論、兄姉たちは、どんなにカーチャと仲が悪くても、

管理人に、カーチャの事を告げ口などしませんでしたが、

皆で申し合わせて、



カーチャをいつも交代で見張ろう。

 カーチャが出かけたら、

 必ず、その後を追うんだ。』



と、話しを決めると、1人の姉がその場に残ったのです。



 カーチャは、兄姉たちを送り出すと、

ドアを閉めて、すぐ新しい石を鋸で切り出しました。

鋸で、石を挽きながら、



(もし前と同じような、綺麗な模様が出たら、

 私、夢を見ていたんでは無いわ。

 本当に、ダニーロに会ったんだわ。)



と、考えました。



 そこで、カーチャは、鋸を挽く手を早めました。

カーチャは、どんな模様が出て来るか、

早く、見てみたかったのです。

とっくに夜は更けていましたが、

カーチャは、ずっと仕事台に着いたままでした。

この頃、庭に残っていた姉が目を覚ましました。

カーチャの家に明かりが灯っているのを見て、

窓に近づきました。



(まあ、あの子ったら、眠ることも出来ないのだわ。)



と、隙間から覗いて驚いてしまったのです。



 しかしそんな事を知らないカーチャは、

仕事を続けていました。

やがて石を切り落とすと、模様が出て来たのです。

それは前の石よりも、もっと素晴しい模様です。

木から鳥が羽根を大きく広げ、パッと飛び立っている部分と、

もう一羽が下の方で、羽根を羽ばたかせているようです。

一枚の石に、この模様が沢山ついているのです。

そして今度の石も、どこで切ったら良いか、

また、印がついていました。

これを見ると、カーチャはもう考えることもしませんでした。

スッと立ちあがり、ドアの外に駈けだしました。

見張りをしていた姉も、カーチャの後を追いかけます。

後を付けながら、この姉は、道々、兄たちの家の戸を叩き、



『急いで、追いかけるのよ!』



と、叫んだのです。

兄たちも、次々と飛び出してきて、

村の人々の事も、集めだしました。

辺りは、徐々に明るくなりかけていました。

見ると、カーチャグミョーシキ銅山の傍を走っています。

皆も、後を追って駆け出しました。

カーチャは、大勢の人が追って来ているなんて、

全く思ってもみていません。

銅山を駆け抜けると、今度はすこしゆっくりと、

蛇山を回っていきました。

カーチャが、何をするのか見てやろうと、

皆も、歩みを緩めます。



~本日は、これにて~




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

おしまいっ。
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