歳とともに歴史への興味が高まる傾向は、多くの人に共通するものかもと自分の回りを見て思います。
その楽しみ方はいろいろだけど、平安でも鎌倉でも戦国でも「その時代の人」が作ったり使ったりした同じ「物(ブツ)」を時空を超えて現代の自分が見たり、触れたりできるのってすごいことです。私の場合、その対象は寺社仏閣と現存天守。仏像は少し興味があるけれど、骨董的な美術品には基本あまり魅かれません。
今まで訪れた寺社で私の1位は奈良の長谷寺。
枕草子、源氏物語、更級日記に登場する国宝寺院です。
現存天守だと松本城がいちばん。
あのタイミングでなぜ家康から秀吉に寝返ったのか謎の多い武将・石川数正が建てた色黒ほそマッチョで端正な国宝城郭です。
そんな私が歳の差で感じる興味の差。
家族旅行で暇な時間に「どこ行きたい?」とガキどもに訊くと「どこでもいいけど、お寺と神社だけは勘弁して」と3人そろって即返されます。笑
そんな私のこのごろの趣味のジレンマ。
中学時代から50年追いかけた国鉄型特急も先月を最後に引退したし、最近の撮り鉄のマナーの悪さには辟易するし、体力的にもそろそろ引退の潮時かもという迷いです。でも写真(というよりカメラ)はまだ好きだし…。
そしてとりあえずたどり着いたフォーミュラが、
(寺社仏閣+現存天守)X フィルム写真=私の新しい被写体と流儀
あくまで、とりあえず、この春ごろからボチボチ始めてみました。
かつては暗さに強く使い勝手の良い ISO400が好きだったけど、スライド用だと今はもう ISO100しか売っていないようです。
今でも信頼して使えるフィルムカメラは、キヤノンNew F-1、ニコンF3、オリンパスOM-4
しばらくこの3機種のローテで使い回すことにしました。
最初に撮った寺院は、桜の勝沼ぶどう郷と旧線跡を撮りに行ったときに現地で偶然知った大善寺。
1286年建立の本堂は、関東周辺で最古の木造建築で国宝だそうです。
この日のカメラは、ニコン F3。
今年は4月にずれた山桜?が満開の大善寺の山門が迎えてくれます。桜のフィルム発色がきれいでした(以下"デジカメ"記載のない写真は全てフィルムです)。
1868年3月、甲州勝沼戦でこの大善寺の前で板垣退助軍と戦う甲陽鎮撫隊の近藤勇。背景に山門が見えます。(デジカメ)
たった2時間の戦闘で敗走した近藤勇を当時の浮世絵師が「甲州勝沼駅於近藤勇驍勇之図」という仰々しい題名で描き、後世に残しました。
確かこの時期、江戸無血開城の交渉が行われ、過激な新選組の残党が江戸で暴発しないように勝海舟が近藤勇をおだてて負け戦のわかっていた「甲陽鎮撫隊」の隊長として江戸の外へ追いやったと、司馬遼太郎の小説で読んだ記憶があります。
さらにその300年前には、武田勝頼が天目山で死ぬ8日前にここに泊ったそうです。なんでも勝頼の乳母がたまたまここの尼さんになっていたんだとか。へぇ~。(デジカメ)
すごい歴史の詰まった国宝寺院ですね。
山門をくぐって参道の階段を上っていくと、頭上に清水寺を思わせる立派な懸造りの建造物が現れます。
1677年に建てられた「楽屋堂」です。
楽屋堂の中は畳敷きの休憩所になっています。涼しくて眺め良し。(デジカメ)
フィルムで撮ると、こんな感じ。
楽屋堂の向かいには、国宝の本堂。
ここはソメイヨシノが散り初めでした。
天気の具合いか、本堂は妙にレトロな色調に。
花の色とフィルムの発色は相性が良いみたいです。
境内はずれの慎ましい庭園。
これはデジカメにはできない発色!
こんな大善寺との出会いは、勝沼の旧線跡のトンネル遊歩道を抜け、来た道を戻るのは芸がないとブドウ畑の農道を地図アプリを頼りにあてもなく徘徊中の全くの偶然でした。この寺は今まで登山のとき車で何度も通ったフルーツラインの勝沼側の入り口からすぐです。
まさに掘り出し物を見つけてラッキーな気分だったけど、さて次はどこへ行こうかとネットで国宝寺院を探してみると実は東日本にはものすごく少ないことを改めて発見。その数、全国152寺院中、関東・甲信越・東北でたったの12(北海道はゼロ)。一方、西日本、特に京都府には29、奈良県は何と59!
どうも国宝狙いというのは完全に西日本の趣味のようです。ならば国宝縛りでない寺巡りでも良しとするか? いや自分の興味は仏教でなく、歴史なのだから、やはり国宝にこだわった方が面白いエピソードに出会えそうです。
では国宝寺院巡りは粛々と続けるとして、東日本、または東京だからこその歴史探訪の被写体って他に何があるだろうと考えてみると、そうだ、江戸屋敷の大名庭園なんておもしろいかもしれない!と思い立ちます。
で、大善寺の数日後、むかし夜桜のライトアップを見に行ったことのある都内の六義園に足を向けました。都内の桜の花もまだ元気な春の日。
この日は、オリンパス OM-4を使用。ちょうど40年前、社会人になって最初のボーナスでローンを組んで買った思い出の機です。
駒込にある六義園は、柳沢吉保が 1695年に造成を開始。
柳沢吉保といえば、元禄ど真ん中の幕閣。江戸時代でいちばん華やかだった元禄年間は、戦国時代の戦争と外交を通して劇的に発達した商工業や芸術が様々な形で平和変換して一気に花開いた特別な時期だったと読んだことがあります。
そしてその贅沢のツケが後の時代に回ってきて、幕府と多くの藩が慢性的な財政難に襲われます。ちなみに庭園の造成バブルがはじけたあとに造園師たちが生き残りをかけて業態変化して生まれたのが「盆栽」だったそうです。
江戸時代の大名屋敷には、同じ藩でも上屋敷、中屋敷、下屋敷などランクがあり、それぞれに個性的な庭園が造られたようです。
大名庭園は、幕府や他の藩との外交・社交の場であると同時に、(参勤交代で旅ができる藩主と違って)人質として一生江戸から出られない妻子たちが、旅行の疑似体験をするテーマパークでもあったという時代背景がとても興味深いです。
それが、庭園内の池、小川、樹木、枯山水などで表現された日本三景や琵琶湖だったりしたとか。
きっかけは唐突だったけど、興味を持って日本庭園をにわかかじりするだけで今まで知らなかった新しい世界にどんどん出会えました。これはおもろい!
この日は風がつよく、散り初めの桜からは盛大な花吹雪。(写真にするのはむずかしい)
園内を散策中に立ち寄った東屋。明暗の差が激しいこの構図はフィルムでは多分無理だけど、スマホだと無造作にバッチリ撮れます。(デジカメ)
これもスマホの標準モードで明暗の差をカバー。(デジカメ)
ちなみにフィルムだと同じアングルでも、こうです。
フィルム、特にスライド用は、露出感度の許容誤差が極端に小さいため、こうなります。
スキャンデータをアプリで画像処理しても、これが限界。
全体を明るく写せるスマホ(デジカメ)が良いか、このようなフィルムのアナログな味付けが良いかは、好みの違い。個人的にはフィルムの方が人の肉眼に近いように感じます。
これもデジタル(スマホ)とフィルムの比較です。これはデジタル。
構図全体をくまなく明るくクッキリとらえているように感じます。
これは同じカットのフィルム写真です。画像処理はほぼなし。
デジタルより低い解像度。露光の許容誤差が少ないためデジタルより黒つぶれする暗部。結果として得られるちょっとボヤッとした感じの温もりと見た目に近い発色 (?)。いずれも好みが分かれるフィルムの特徴です。
かつてデジタル化以前は、撮り終えたフィルムをヨドバシなど店頭へ持って行くと、現像されたスライドが3~4日後に1カットずつプラスチックの枠に事前にマウントされて戻ってきました。
それが今は、スライドが6カットずつの帯のまま現像所から戻ってきて、マウントに入れたい人は、追加料金でプラスチックの枠を購入して自分でDIYしてね…、となります。
なのに現像代は昔のマウント込みの料金より2倍以上になっていると感じます。ま、フィルムが20年越しでここまで衰退して絶雌危惧種になれば、コストアップもしかたないのでしょう。
そして、このスライドを枠にマウントするDIY作業って、けっこう面倒くさいのです。
まずスライドの帯から1カットずつ慎重にペーパーカッターで切り離し…
プラスチック枠に正確な位置決めを行い…
枠の折り目に合わせて、スライドを挟み込んで凹凸のスナップにプチッとはめ込みます。
写真には、1カットずつしっかり記録したいシャッターや絞りのデータがあります。デジタル写真の場合、そのデータは撮影と同時にJPGやPNGなどのファイルに自動で記録され、いつでもアプリで呼び出せますが、フィルムだと、撮影する度に1カットずつ手書きでメモしなければなりません。
これがまた面倒くさい。
現場でメモッたこのデータは、さらにDIYで作った各スライドのマウントに間違えないよう照合しながら手書きで書き込まなければなりません。
4月に撮りに行った大善寺と六義園の記事を今ごろブログアップする一因がここにあります。ちょっと気を抜くと整理前のスライドがすぐに溜まってしまい、そのうち手書きした撮影記録を紛失したりしたら最悪!
そんな面倒な手間をかけて、スライド・マウントを作る理由。
それは、スライド・プロジェクターを使った大画面での投射です。
これは入社してすぐのころ、自社の(医療)業務用を自分宛てに伝票切って、経理部に現金を持って行って購入した40年物のプロジェクターです。
PCをモニターにつないで、デジタル写真を鑑賞することもありますが、生暖かいファンの風を受けながら、スライドを1枚ずつ差し込んで自分の作品の思い出に浸るアナログな一時はまた格別なものです。
そして気に入ったフィルム写真は、ブログ用やPC保存用にデジカメで取り込んでいます。
以前使っていたスキャナーが壊れてからは、ニコンのマクロレンズによる「スライド直撮り」が早くて楽で良いです。
頭と手先を使ったこういう趣味をチマチマやり続けると、リタイヤしても、ボ~ッとする暇もなく、ボケなくて良いんだろうなと思います。(おわり)