海軍エンジン全11機種の整備工具について解説します。

情報源は、国会図書館と防衛研究所の資料閲覧室、市販復刻版、それに社史『京都機械35年の歩み』と工具の現物。

下の一覧表が、現状で分かることの全てだと思っています。

2年前に『ゼロ戦はどうやって整備していたんだろう?』と興味を持ち始めてから詳細情報を探し続けてきましたが、やっと全貌に辿り着きました。

工具メーカーとして『京都機械』が分かっていましたが、新たに『関西スピンドル製作所』と『昭和機械工具製作所』が確認できました。

陸軍の整備工具も見つけました。(巻末にちょっとだけ載せます)

 

※国会図書館デジタル情報の一般公開を切っ掛けにして最近2ヶ月で色々なことが一気に分かってきましたので、これまで書いてきたブログと内容が異なっている場合がありますが、本編が最新情報です。(過去のブログは別途修正していきます)

 

1.資料一覧

・国会…国会図書館

・防衛研…防衛省 防衛研究所 資料閲覧室 ⇒ 場所等の情報は、こちら

・刊行…市販復刻版(Amazon読み放題に加入していれば、無料で読めます)

※上記一覧以外では、『火星發動機一○型取扱説明書』が都立産業技術高専の図書館に所蔵されていますが、防衛研と同じ物だと思います。⇒ 詳細は、こちら

 

2.各資料の調べ方

1)国会図書館

国会図書館が所蔵書をデジタル化していて、IDを取得すればこの5月から自宅PCで閲覧できるようになりました。

コーヒーを飲みながらゆっくりと調べられますので、調査環境が激変しました。

④ 『光』發動機…こちら

⑤ 『瑞星』發動機…こちら

(整備工具ページが抜けていますので、防衛研の資料を見る必要があります)

⑦ 『金星』發動機…こちらこちら

※金星の1冊以外は、アメリカから返還された資料ですので、タイトルのみ英語になっています。(資料はオリジナルの日本語)

※閲覧には国会図書館のIDが必要です。⇒ 最初のページは、こちら

 

2)防衛研

閲覧するには東京/市ヶ谷の防衛省に直接行かなければなりません。

事前予約が必要です。

申請すれば、持ち込んだカメラで1ページ毎に撮影することが出来ます。

また、コピー依頼も可能で、後日家に届きます。(但し、10枚で750円と高い)

後述する陸軍の發動機や機体整備資料も閲覧できます。

防衛所内に2カ所の資料センターがありますが、『防衛省 図書館』ではなく、『防衛研究所 資料閲覧室』の方です。(入り口は正門では無く、真裏の加賀門)

 

3)復刻版

⑧『榮』…Amazon Kindle ⇒『栄発動機二○型 取扱説明書』

⑨『譽』…Amazon Kindle ⇒『譽発動機 取扱説明書』 

※Amazon読み放題のIDが必要です。

 

3.各エンジンの整備工具詳細

 ① 神風  Wiki

 

防衛研に取扱説明書が所蔵されていて、恐らく海軍エンジンで確認できる一番古い取扱説明書だと思います。

残念ながら、整備工具の具体的な情報は載っていません。(薄い説明書で、工具以外も写真やイラスト、図は載っていません)

社史『京都機械35年の歩み』に『神風』の内部要具箱(オーバーホール用のスペシャルツール群)の写真が載っていて、これが唯一の工具情報になります。

京都機械は1940年から海軍の指定工場として工具を納めていますので、社史に載っている内部要具も1940年以降のものだと思います。

『神風』自身は1931年から正式採用されていますので、京都機械以外の会社が1940年までは『神風』用の工具を納めていたものと推測しています。

なお、海軍の11機種の中では、この説明書のみが漢字+カタカナで書かれていて、読みにくくなっています。(他は漢字+ひらがなで、現代人にもスムーズに読める)

 

ちなみに、都立産業技術高専(元・航空高専)に前述の取扱説明書と共に神風エンジンの実機があり、かつ専用工具もあるとのこと。⇒ HPは、こちら

工具を実際に見ることが出来るか確認中です。

☆2022年7月14日追記

都立産業技術高専より以下の連絡がありました。

・専用工具が寄贈されたことは確認出来たが、60年前の話であり、管理状態に無く、あるかどうかも含めて不明。

・寄贈された工具は戦時中のものでは無く、戦後になってから立川飛行機が作成したもの。

本件は調査終了とします。

立川飛行機が戦後にどのような工具を作ったのかは興味がありますが、既存工具を揃えただけなのかもしれません。

 

 ② 天風  Wiki

フルセットの整備工具が実際に確認できる唯一のエンジンです。

赤トンボ(九三式中間練習機/赤トンボ)の基地がある茨城/霞ヶ浦周辺の農家に、周辺地域への緊急着陸時の対応用として外部要具(一般工具)/京都機械製が配られていました。

そして、75年後に『納屋に古い工具がある』と霞ヶ浦の辺にある『予科練平和記念館』(阿見町運営)に寄贈されたものです。⇒ 寄贈の経緯は、こちら

取扱説明書が見つかっていないため確認できませんが、これも1940年以前に作られた工具と1940年以降の京都機械製の2種類があるのだと思います。

予科練平和記念館にあるのは1943年に製造された京都機械製です。

普段は展示されておらず、倉庫に保管されていると思いますので、確認する場合は特別にお願いする必要があると思います。

日本にあるフルセットで保存されている唯一の工具だと思いますので、とても貴重な存在です。(スミソニアン博物館にはゼロ戦のフルセットがあるようです)

↑天風の外部用具にリベット止めされている銘板。

京都機械製の工具セットには全てこの銘板が使われています。

『京機』は京都機械の略です。

なお、後述する火星/関西スピンドル製作所も同じデザインの銘板を使っていますので、海軍指定の書式だと思います。

KTC-20 赤トンボも一重丸京の画像 工具フルセットの詳細は、こちら(当ブログ内の別ページ)

 

 ③ 寿  Wiki

①と同じ1931年採用の古い機種で『寿』。

元々ライセンス生産をしていて開発の参考にもなった英国エンジンの"ジュピター"の"ジュ"を漢字書きにして、エンジン名称が"寿"になったと言われています。

これも取扱説明書が残っていません。

『寿』と書かれた片口スパナが、唯一確認できる工具情報です。

↑報国515資料館所蔵

 

 ④ 光  Wiki

国会図書館と防衛研の両方に取扱説明書がありますが、基本的には同じ物で、整備工具情報も同一です。(国会版は一○型だけ、防衛研版は二○型と三○型も追補)

1936年に正式採用されていますので、京都機械以外の工具会社が納めていたのだと思います。

内部要具と外部工具には仕分けされてはいません。

↓専用の工具箱。(1940年以降の工具箱と形状が大きく異なります)

 

↑↓○に"光"と部番が刻印されています。

 

↓防衛研の資料だけに載っている光二○型用に追加された整備工具。

 

↑↓コンビレンチが2種含まれていて、恐らく日本最初のコンビレンチだと思います。

 

京都機械は1940年から海軍へ工具納入を始めていますが、前述の通り光エンジンは1936年の正式採用ですので、初期は別の会社が工具を納めていたことになります。

戦前に航空機用工具を製造と企業一覧に紹介されていた会社が3社ありました。

 

その内の1社は『昭和機械工具製作所』。

この会社の企業紹介レポート(1971年)を国会図書館デジタルで見つけました。

曰く、『創業の1938年4月から中島飛行機の専門工具工場であり、東京の工場4カ所では生産が間に合わず、諏訪にも工場を新設』とのこと。⇒ 企業レポートは、こちら

したがい、この光エンジンの整備工具は、1938年~1940年は昭和機械工具製作所でほぼ間違いないと思います。

 

↑1971年『通信工業』内の企業レポートより

 

↑1939 & 41年『東京市商工名鑑』より

 

海軍は京都機械製の工具裏面に一重丸京の刻印を許していますので、恐らく昭和機械工具製作所の工具にも丸くデザインされた"昭"マークが刻印されていたのではないかと思います。

↓1941年に商標を出願していますので、戦前から使用されていたのが分かります。

また、銘板に印刷されている会社名は、京都機械は"京機"の2文字でしたので、昭和機械工具は"昭機"もしくは"昭工"と推測します。

 

ここで新たな疑問が2つ沸いてきます。

・1936年~1938年は誰が納めていたのか?

・そして、もうひとつの疑問は、1940年以降は中島飛行機用の工具納入を京都機械とどのように棲み分けてしていたのか?

榮/ゼロ戦と天風/赤トンボの工具を京都機械が納めていたことは一重丸京マーク入りの工具現物から分かることで、また社史によれば神風と光、譽の工具も納めていたことが分かっています。

したがい、海軍に対するパワーとしては京都機械の方が強く、昭和機械工具と棲み分けしながらも京都機械の方が多く担当したのではないかと推察します。

もしくは、中島飛行機の陸軍向けは、昭和機械工具が一手に製造していた可能性もあるかと思います。

ひとつの事実を発見すると、別の新たな疑問がいくつも沸いてきて、困ってしまいます。

 

なお、昭和機械工具製作所は、戦後に昭和機械工具(株)となり、通信調整工具の専門メーカーとなっています。

10年毎に更新が必要な登録商標が1983年2月に権利消滅していますので、1973年~1983年に廃業しているようです。

↑1962年『日本機械工業名鑑』より

 

↑戦後の通信機調整工具セット(電電公社等に納入)

 

航空機用工具の製造会社、2つ目は『遠州屋鐵工所』。

1941年の企業名鑑に登場するだけで、それ以外の情報が無く、正体が良く分かりません。

ただし、航空機用の工具を生産していること、1936年の創業であることから、前述の『1936年~1938年は誰が納めていたのか?』という疑問には符合します。

情報が無いので、何とも言えませんが、初期の海軍向け工具を担当していた可能性のある会社として認識しておきたいと思います。

↑1941年『全国工場通覧』と『東京市商工名鑑』より

 

航空機用工具の製造会社、3つ目は『田野商會』。

特に航空機用スパナ製造と明記されています。

会社名が"商會"になっているが、機械工場も持っています。

この会社も、これ以上の詳細情報はありません。

 

↑1941年(航空機スパナ)と1939年(ロゴ付き)、『東京市商工名鑑』より

2つの会社、遠州屋鐵工所田野商會は、海軍ならびに陸軍に工具を納めていた会社の筆頭候補になると思います。

 

 ⑤ 瑞星  Wiki

下の⑦金星を基本エンジンとしてショートストローク化させたのが瑞星です。

金星の立ち上がりが遅れたため、この瑞星の方が先となり、1939年に正式採用されています。

1940年頃を境として整備工具が内部要具と外部要具に分類されていますが、この1939年瑞星はその前の時代になりますので、内部/外部に分かれてはいません。

そして、工具箱内でのレイアウト方法だけで無く、工具そのものも1940年以降とは異なるように見えます。

工具会社に関する情報が無く、この瑞星用もどこが作っているか不明です。

防衛研と国会図書館の両方に資料がありますが、国会図書館のアメリカ帰り版

は整備工具部分が抜けていますので、工具については防衛研版だけが資料になります。

↑部番"JM1418"、"JM"はJapan Marine"の略??(海軍ならNAVYが普通ですが)

 

 

 ⑥ 火星  Wiki

これ以降は1940年代に入ってから正式採用されたエンジングループです。

三菱重工星の火星と金星、中島飛行機の榮と譽、さらに愛知航空機のアツタまで全てが、内部要具と外部要具に分かれています。

また、内部工具と外部工具ともに共通したケースが使用されていますので、新たな海軍の指定だと思います。

 

火星の内部工具箱の鮮明な写真を見つけました。

銘板を見ると『関西スピンドル』と印刷されているのがうっすらと確認出来ますので、関西スピンドル製作所の生産と分かります。

↑厚木基地に付近住民から寄贈されたとの記事で見つけました。詳細は、こちら

 

京都機械以外の工具会社として昭和機械工具製作所に続き2社目が確認できました。

1940年以降は全て京都機械が生産を担当していたと考えていましたが、三菱重工(火星、金星)は関西スピンドル製作所、それ以外の中島飛行機(榮、譽)と東京瓦斯(天風)、愛知飛行機(後述のアツタ)は京都機械が担当していたのだろうと考え直しています。

実は、社史『京都機械35年の歩み』に気になる記述がありました。

『関西スピンドル製作所も空技廠の技術養成を受けていたが、京都機械が同社を引き離した』

この一文にだけ葛藤に同業者の名前が出てきて、何かあるのかと思っていたのですが、空技廠は京都機械だけで無く、関西スピンドル製作所も同時に養成していたと言うことなのだろうと考えています。

『引き離した』の意味は、ゼロ戦向けを先に受注した、また多くの受注を得た(中島系/京都機械:約45,000基、三菱系/関西スピンドル:約25,000基)ということを暗に言いたかったのだろうと思います。

ちなみに、京都機械もそうですが、工具会社だけが工具を作ったわけでは無いことが分った次第です。

むしろ、戦前の工具会社は多くが小規模で、軍隊の要求品質に沿った工具一式を納める能力は無かったのだろうと推察しています。

 

↑銘板

天風②の銘板とほぼ同じデザインになっていますので、海軍が指定したデザインであったことが確認できました。

ただし、7気筒エンジン前景のイラストが若干異なりますので、銘板の作成は工具会社が独自に行ったのだろうと思います。

内部要具"2/2”より2箱に分かれていたことが分かります。(榮は3箱)

『関西スピンドル』の印字は非常にうっすらとしか写っていないため、前述の『関西スピンドルを引き離した』という記述が京都機械の社史に無かったら、『関西スピンドル』と書いてあるとは読み取れなかったと思います。

 

☆『関西スピンドル製作所』について

大阪の繊維機械製造会社で、1930年の創業です。

↓1938年『全国工場通覧』より

戦後、『関西スピンドル(株)』に社名変更し、引き続き繊維機械を作っていました。

現在は土地管理会社になっていますので、廃業して工場跡地の資産管理をしているのかと思います。

↓1962年『日本機械工業名鑑』より

↓繊維機械製造会社として京都機械とは同業であり、あいうえお順が近いこともありますが、並んで表示されている資料もあります。

 

榮/ゼロ戦の工具と同様に会社ロゴが刻印されていた可能性がありますが、関西スピンドルはロゴを商標として登録していませんので、このロゴが戦前から使われていたかは不明です。

もし刻印されているとしたら、このロゴの可能性が高いのかと思います。

 

肝心の工具情報ですが、基本となっている金星⑦と全く同一の工具一式が火星の取扱説明書に掲載されていますので、工具情報は次の金星⑦を確認願います。
 

 ⑦ 金星  Wiki

金星は三菱重工業にとって初の1,000馬力エンジンであり、ショートストローク版の瑞星、ボア・ストロークをアップさせた火星の基になっています。

前述の火星⑥の工具が関西スピンドル製作所製と分かっていますが、金星も全く同一の工具が使われていますので、関西スピンドル製作所製となります。

なお、金星については量が多くなりますが、全11機種を代表させる形で、工具の写真だけで無く、工具一覧も掲載します。

ちなみに、取扱説明書を編集するのは飛行機会社なのか海軍なのか分かりませんが、中島版(榮、譽)は工具一覧にイラストが付いていて分かりやすく、三菱版(金星、火星、瑞星)は文字だけの一覧表のため読みにくく感じます。

会社毎に編集方針に差があるようです。

 

 

 ⑧ 榮  Wiki

↑古い工具の世界へ私を誘った榮/ゼロ戦のスパナです。

もし、手に入れていなかったら、昔のスパナに興味を持たなかったかもしれません。

裏面に一重丸京が刻印されていて、京都機械製と分かります。

 

↑防衛研資料は海軍航空本部の発行で、復刻版/Amazonは中島飛行機の発行。

ただし、異なるのは表紙の発行部署表示のみで、中身は全く同一。

 

↑内部要具…いわゆるスペシャルツールで、オーバーホール用(3箱で一式) 

↓外部要具…一般整備用(ピストン交換まで可能)

↓中島版はイラスト付きの工具一覧。(三菱版/金星は文字だけの一覧表)

 

 『榮』整備工具の詳細は、こちら(当ブログ内の別ページ)

 

 ⑨ 護  Wiki

譽エンジンの工具一覧表に護エンジンとの工具共用有無が記入されていて、譽工具の73%が護にも使用可能となっています。

護エンジンは200基しか生産されませんでしたので、正式に専用整備要具が設定されたのか、また専用の取扱説明書を造ったのかは分かりませんが、榮や譽と多くの工具が共用出来ることから、京都機械/一重丸京の要具が使用されたのは確かだと思います。

 

 ⑩ 譽  Wiki

紫電/紫電改で有名な18気筒エンジンです。

エンジンの共通性から14気筒版の榮⑧と同じ京都機械製と思います。

榮/ゼロ戦と共に譽もエンジン取扱説明書の復刻版が市販されています。

両方ともにAmazon Kindleで読むことが出来ます。

譽/紫電改版には機体の説明書も付いています。(残念ながら機体の整備工具には触れられていません)

 『譽』整備工具の詳細は、こちら(当ブログ内の別ページ)

 

 ⑪ アツタ  Wiki

ダイムラーベンツのエンジンをライセンス生産した液冷V12型で、陸軍の飛燕で有名です。(陸軍は呼称『ハ四○』で川崎重工業製、海軍向けは愛知航空機が生産)

液冷エンジンは修理が難しく、トラブルが多かったようで、この工具群を使って苦労しながら整備したのだと思います。

 

アツタの取扱説明書は防衛研の所蔵ですが、これも国会図書館の"光"などと同様にアメリカからの里帰り資料です。

Air Documents Divison, T2と捺印されていますが、ライト兄弟が初飛行したライト・フィールド/Wright Fieldにあるライトパターソン空軍基地内にある組織で、日本とドイツの戦時中の資料を研究していました。⇒ T2の詳細は、こちら(英文)

この基地では戦時中に軍用工具類の発注から前線への発送も一手に行っていました。

私のPLOMB戦時モデルコレクション(WF-xx/Wright Field)もここから各地にデリバリーされています。⇒ PLOMBモデルの詳細は、こちら

巨大な国立アメリカ空軍博物館があるのでも有名です。

一度訪れましたが、子供の頃に飛行機大好き少年だったので、試作機も含めて展示機種名は全て分かり、本だけで知っていた飛行機達が100機以上もいきなり目の前に現れて、興奮しながら見て回りました。

↑B47、B2、B1、SR71、C133、U2、F89、思わず唸ってしまう機種ばかり。

↓日本海軍機も。

 

脱線しましたが、アツタに戻ります。

工具は京都機械の作と思います。

銘板のプロペラの下に『京機第 』と印刷されているか『関西スピンドル第 』かで識別が出来ます。

ぼけぼけの写真ではありますが、『・・・ 』と3文字だけ書かれていることが分かりますので、『京機第 』が当てはまり、京都機械製と断定して良いと思います。

↑『アツタ二○型外部要具』、『京機第xx號』、『昭和xx年xx月製造』と印字されているのだと思います。

 

☆外部要具

スパナ、メガネ、コンビレンチのハンドツールが多く含まれていて、さらに変わった形状もあり、興味深い工具群です。

コンビレンチが6本も入っています。(外25~27、29、79、122)

外部要具のみ全ての写真とイラスト付きの工具一覧を載せます。

 

 

☆内部要具

榮と同様に3ケースで1セットになっています。

1セットの写真だけ載せます。

 

4.陸軍と機体の整備工具について

1)陸軍エンジン整備用

防衛研に以下の陸軍資料が所蔵されています。

国会図書館にも資料があり、陸軍の整備工具を見つけました。

取りあえず、巻末に一部だけ掲載。

陸軍『xx式xx馬力』と海軍呼称の関係表

 

2)機体整備用

同じく防衛研に海軍、陸軍ともに複数機種の機体整備要領書が所蔵されています。

こちらも整備工具については言及がありません。

唯一ゼロ戦の照準器用の専用工具が数点載っているだけです。

 

3)機体整備用のスパナ現物

KTCの『ものづくり技術館』に機体整備用工具箱が展示されていて、その中に1本だけ板スパナが入っています。

桜マークが刻印されていますので、海軍向けは間違いありません。

なお、一重丸京マークはありませんので、京都機械製では無いと思います。

『99艦爆/機体整備工具箱』と説明されていますが、工具箱のどこにも一重丸京の印はありませんので、工具箱も京都機械製では無いようです。⇒ 詳細は、こちら(KTC web)

 

5.海軍のコンビレンチ

当ブログ名の通り、本来はコンビレンチが主人公なのですが、最近脱線しすぎてスパナのブログになってしまっているので、最後に海軍のコンビレンチにちゃんとスポットを当てます。

全部で9本あります。

 

 ② 天風  京都機械製 

↑外-62、裏面に京都機械製を示す一重丸京が刻印されています。

 

 ⑥ 光  昭和機械工具製

これが恐らく日本最初のコンビレンチなのだろうと思います。(1936年or1938年)

上の天風②は1934年の正式採用ですが、1940年に参入した京都機械製であり、1943年の生産ですので、光が1番目、天風が2番目だろうと推測しています。

なお、下のアツタ⑪は正式採用が同じ1943年ですが、京都機械/天風は1943年よりも前から作っていたと思いますので、アツタは3番目でしょう。

戦前の一般市販工具にコンビレンチは無かったという前提での推測ですが、工具は軍隊向けが最先端だったようですので、一般向けのコンビレンチは終戦後に京都機械が海軍向け工具の経験を活かして一般市場に参入して発売したのが最初だろうと考えています。

↑29

↓35

 

 ⑪ アツタ  京都機械製

日本のコンビレンチ・ブランドに番号を振っています。

表面に表示されたロゴをブランド名として取り扱っていて、このコンビレチも天風と光と同じように『アツタ』と刻印されているはずです。

したがい、光に引き続き『アツタ』を116番目の日本コンビレンチとして登録します。

発注者:海軍、ブランド名:アツタ、受注者:京都機械という構図です。

 

【追加】

陸軍 發動機の整備工具

国会図書館に陸軍發動機のマニュアルが5冊所蔵されているのを発見。

整備工具がイラスト入りで解説されていました。(国会図書館デジタルを自宅PCでコーヒーを飲みながらゆっくり確認したら見つけました)

『陸軍航空本部 xx式xx馬力發動機説明書』という名称です。

『發動機説明書』と検索するだけで5冊がヒットします。(5冊ともにアメリカからの里帰り)

 

陸軍 『一○○式一四五〇馬力(ハ101)發動機説明書』 

海軍呼称『火星』、搭載機:九七式重爆ニ型(正式採用1940年2月)

  

 

↑工場用工具のスパナだけをピックアップ

海軍『瑞星』と同じく部番が"JM-xxxx"。(工具会社が同じ?)

同型である海軍の『火星』とは全く異なる工具群です。

『工具用工具』と『野外用工具』の2種類が設定されています。

 

説明書の半分、前半部分は写真もイラストも一切無く、文字だけでの説明に徹していて、なんとも読みにくいマニュアルです。

理解しやすさに重点を置き、写真やイラストを多用しいている海軍版とは異なる発想で作られています。

こんな所にも陸軍と海軍の違いが表れています。

また、ひらがなでは無くてカタカナ書きですし、横書きは逆から書いてあったりして、現代人には馴染めません。

一方、海軍はひらがな書きなので、我々にもスムーズに読めます。

 


陸軍の發動機詳細は、こちらにて。

 

この回、終わり