以前、象の鼻はなぜ長いのか?ということを進化論の文脈でちらっと書きました。
象の鼻が長くなったのは、巨体を維持するためには大量の植物を摂取しなくてはならず、首の短い巨体をかがめたりすることで余分なエネルギーを消耗せずに食物を摂取できる、より長い鼻と上唇を持つことが生存競争に有利に働いたから。その結果、長い鼻を持つゾウ同士が結婚することになり、その子孫はさらに鼻が長くなり・・ということでした。
ダーウィンの自然選択説と突然変異説は、生物が子孫を残すときに、基本的には親の形質を引き継ぐけれど、クローンのように100%忠実に引き継ぐのではなく、微妙に変異して引き継ぐことになる、という事実に注目したものです。
生き物は基本的に多くの子孫を残すようにできています。個々の子孫はそれぞれ僅かな変異によって、親とは微妙に異なる形状や性質を持つことになり、その微妙な差異が「個性」となるわけです。
さらにそれぞれの個体が、環境の中で生存に有為に働けば生き残り、次の子孫に引き継がれることになります。もし、生存に適していなければ子孫を残すことができずに、その形質はそこで絶えてしまいます。 そうした営みが長い長い時間の中で少しずつ繰り返されることで、最終的には全然違った生き物に「進化」していくことになる、というシナリオです。
つまり、生物の個体の持つ形状や性質が自然選択によって生き残るのは、その個体自体の強さや逞しさのためではなく、その遺伝子が子孫に引き継がれやすく生存競争に有利であったからです。
というようなことを書いたのですが、その説を「ほんとかヨ!?」と疑わせるような形状を持つ動物も存在するのですね。
たとえば、
◆シオマネキ(カニ)
シオマネキのオスは、左右どちらかのハサミ(鋏脚)が巨大化しており、そっちの方だけド派手な手袋のような鮮やかな色をしています。その巨大なハサミを「カモーン!カモーン!」のように振り立てる様子(ウェービング)から「潮招き」と命名されました。
しかし、その巨大なハサミが生存競争に有利かというと、そんなことはないのです。その証拠に、シオマネキのメスや他のカニはなんの支障もなく、左右とも普通サイズのハサミで生活しています。むしろシオマネキのオスは、巨大なハサミではエサを口に入れることができず、食事には片方の小さなハサミしか使えないという、不便この上ない生活を送っています。
この巨大なハサミを振り立てるウェービング行動は、メスに対する求愛と、他のオスに対する威嚇と考えられています。でもね、威嚇といっても、実際に戦うわけではないのですよ。
シオマネキのオスはなぜ、片方のハサミだけが巨大になってしまったの?
◆ヘラジカ
シカのなかでは最大種。ゾウ、キリンに次いで背が高い。オスの角はへら状に大きく広がっており、毎年生え変わります。成長につれ角も年々大きくなり、最大で左右の開きは2mにも達するといいます。
ヘラジカの巨大な角は、あまり生存競争の役には立っていないようです。攻撃には角よりも、もっぱら前脚・後ろ脚の強力な蹴りを使うといいます。蹴りの威力は、一撃をもろに食らうと、天敵であるオオカミも即死するほどだとか。
それよりも、あのアンバランスともいえる巨大な角では、重いし、あちこちに引っかかって小回りもきかず、生活上かなり邪魔な思いをしているのではないでしょうか。あそこまで巨大化する必然があったのか? どうも生存競争に有利とは考えにくいです。
「ダーヴンが来た!」では、オスの巨大な角はメスの鳴き声の集音に役立っているのでは?とされていました。2~3デシベルのレベルですが、メスの鳴き声が多少聴き取りやすくなるといいます。しかし美声?に誘われて馳せ参じても、メスに気に入ってもらえずOKサイン(匂い)出なければ結婚できません。オスの悲しい定めでしょうか。
ヘラジカのオスはなぜ、巨大な角をもつようになったの?
◆サーベルタイガー/剣歯虎(ネコ科・絶滅種)
ネコ属の肉食獣で、すでに絶滅しています。正確にはマカイロドゥス亜科として分類されており、上顎犬歯がサーベル状となったグループの総称です。上顎犬歯が異常に発達し、20cmに達するサーベル状の長大な牙をもっています。
補食のために大型のゾウやサイを襲ったとされていますが、大きな牙は突き刺さると折れやすいため、柔らかい首に刺し込んで失血死させるために使ったと考えられています。どうやら、強い力が加わると簡単に牙が抜けたり顎が壊れたりするような、攻撃のためとは言いがたいヤワな構造らしく、噛み付くには役立たずの牙です。
古生物学者たちも、あまり役にたたない大きな牙が進化の過程でなぜ出現したのか、説明にいろいろ苦慮しているようですね。
サーベルタイガーは、なぜ役立たずの巨大な牙をもつようになったの?
他にも、なぜ自然選択によって生存競争に有利とはいえない形状に進化(?)したのか、よくわからない動物が数多く存在します。オオツノジカ(絶滅)の巨大角、翼竜(絶滅)や鳥類の大きなトサカ(ニクトサウルスなんて体より大きく邪魔なだけ)、ジェネルクやキリンの長過ぎる首etc.
たとえばシオマネキ、最初ほんの少しだけ他の仲間より片方のハサミか大きかったからといって、生存競争に有利だとは考えにくいのです。生存競争を、ただ単純に、その環境の中で強く逞しく生き残っていくこと、と考えると、どうも無理があるのですね。
そう、「自然が選択する」ものは、その個体ではなく、個体のもつ遺伝子なのです。重要なのは、その個体が生き残ることではなく、個体のもつ遺伝子が生き残るかどうか、ということです。
その個体がいくら優れた形質をもっていて、生存競争に勝って長生きしたとしても、遺伝子を残すことができなかったら「自然選択」されなかった、ということになります。
つまり、いくら優秀な個体であっても、メスにモテなかったら遺伝子を残すことができないのですね。逆に、多少能力が劣っていても、メスにモテモテであれば遺伝子を残すことができるし、その結果「自然選択」されたことになるわけです。
個体のもつ個性が多少生存競争に不利であっても、とりあえず生き残ることができて、なおかつ、「おっきなハサミでチョーいけてる~♥」とか「その広がった大きな角ステキ♪」とか「ギラリンと輝く長~い牙、痺れるワン♥」とか、なんだかよくわからない理由で異性たちにモテモテであれば、それだけで、より多くの子孫(遺伝子)を残すことができるということなのです。
シオマネキのオスはなぜ、片方のハサミだけが巨大になってしまったの?
ヘラジカのオスはなぜ、巨大な角をもつようになったの?
サーベルタイガーは、なぜ役立たずの巨大な牙をもつようになったの?
3つの疑問の答えは「そのほうがモテたから」。
しかしサーベルタイガーやオオツノジカなどは、「キャーッ!大きくってステキ~!!」とか騒がれて調子に乗った結果、かえって生存に不適切なほど巨大化してしまい、進化の方向としては失敗に終わり、再度「自然選択」の裁きを受けて滅んでしまった・・・のかもしれません。
種の世界のなかで、なぜだか「こういう形質であるとメスにモテる」という傾向性ができ上がると、その形質が生存競争に有利かどうかはあまり関係なく、特定の形質の方向にどんどん極端化して進むことがあるのですね。
人類も初期の頃から、たとえばハゲ頭にひじょうな魅力を感じる女性が大半を占めていたならば、いまごろ男性の頭はつる(以下略)。
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