置きっぱなしのバイクのメンテをさせる為だけに、母親に二輪免許を取れとしつこく迫る不可解な息子は、ときどき自分が気に入った映画やアニメ、YouTube動画を勧めてくる。ちなみにバイクに年齢上限はないらしいが、路上死確定を断固拒否し赴任地まで持って行かせた。
面白いと感じる感性や笑いのツボが子と同レベルで何だけれど、最近帰省したときに推奨されたのが、バシャウマという方のYouTube動画。ショート動画のナレーションが意表をついてきて笑える。エンドルフィンやセロトニンが大量分泌されるので、疲れたときに度々観ている。
笑うことが心身にとても良いことは広く知られているが、最初に笑いの効用が注目されたのは、当時アメリカの著名な雑誌編集者であったノーマン・カズンズの著作『笑いと治癒力』によってであった。
1964年にカズンズは、重度の結合組織疾患(脊椎関節炎の一種で原因不明の難病)と診断される。この病気により、凄まじい痛みと動けない状態に陥るが、医師たちは回復の見込みはひじょうに低いと考えていた。
そんな状態の中、カズンズは喜劇映画やテレビ(特にマルクス兄弟の映画)を見て大笑いすることによって、痛みが和らぎ睡眠が改善されることを発見する。笑いがエンドルフィン(天然痛み止めホルモン)の分泌を促進し、痛みを和らげる効果を持つのでは?と考えた。
ビタミンCの摂取とともに、できる限り大笑いするという二つの難病克服への試みを実践したカズンズは、わずか数か月後に症状が改善し、奇跡的な社会復帰を果たす。
彼は本の中で、病気とその治療に関する詳細な経緯を述べている。その実験的なアプローチと結果についての記述は、医学界と一般読者の双方に大きな影響を与え、「笑い」が医学的に有益である可能性を研究するきっかけとなった。
現在では、笑いの効果はエンドルフィンの分泌による痛みの減少だけではなく、身体、精神、脳機能へも及ぶことが解明されている。その複合的効果が、カズンズの痛みを含めた心身や脳の機能を回復へと導いたのだと考えている。以下に幾つか抜粋してみた。
【 笑うことによる効果 】
・ストレスホルモン(コルチゾールやアドレナリン)のレベルを低下させ、これによりリラックス感が増し、ストレスに対するレジリエンス(困難を柔軟に乗り越え回復する力)を強化する。
・血管の内皮機能を改善して血流を促進するので、血圧低下や心血管系(循環系)の健康を促す。
・注意力や集中力が向上し、学習や仕事のパフォーマンスが向上する。また、脳の認知機能を活性化させ、創造力や問題解決能力を向上させる。
・免疫系を活性化させ、免疫細胞(ナチュラルキラー細胞やT細胞)の活動を促進し、感染症に対する抵抗力を高める。
・気分が向上するため、うつ状態や不安感の軽減に役立つ。セロトニンやドーパミンといった「幸福ホルモン」が分泌され、ポジティブな感情が増幅する。
・人と共有する笑いは信頼感や親しみを生み出し、コミュニケーションを円滑にする。人と人との絆を強化し、社会的なつながりを深める。
・脳機能を活性化させ、注意力や創造力、問題解決能力を向上させる。
・緊張やストレスへの対処能力を高め、困難な状況に直面した際に前向きな態度を維持する助けとなる。
アメリカ映画などで、危機的状況に陥ったときによくジョークを飛ばすシーンがあるが、現実逃避ではなく、緊張をゆるめて冷静に対処する余裕をつくるという文脈なのだろう。私の好みの主人公タイプは、どちらかというと陽気でお喋り系よりも、ニヒルで寡黙系なんだけれど、その場合はいかに仏頂面を笑わせるかが醍醐味になる。
そういったわけで、日常のなかに如何に楽しい笑い(嘲笑ではなく)をより多く取り入れるかが、健康で豊かな人生へのキモになるのではと思う。どんなときに大笑いするのか、自分の笑いの感性を知っておくのもいいかもね。