「・・今、一瞬嫌そうな顔したでしょ?」
少し傷ついた自分に内心驚く。
酒で気持ちが何故誤魔化せないんだ。
リンゴ
「そ、そんな訳ないよ.....っていうかティアゴ君、大丈夫?泥酔してバルナバさんにお持ち帰りされたんでしょ?」
ティアゴ
「...えっ?!お、お持ち帰りって..家まで送ってもらっただけで..へんな言い方しないで」
誤解されそうな物言いだ。勘弁してほしい。
俺は野郎に興味はないし、それは向こうも同じだ。
それから事態は急展開した。
ドルム山の洞窟、北の森、遺跡から魔物が大量にダンジョンの外へ出てきたと知らせが入る。
俺はその対処に向かわねばならなくなった。
エルネア城に警備の人間は配置してはいるが、俺はリンゴが気になった。
さっきの表情が気になって仕方ない。
後ろ髪を引かれる思いをしながら、俺は遺跡に向かった。
溢れ出す魔物の数はどんどん増えていった。
その場に居合わせた国民や見かねた国民が応援に駆けつけてくれる。
事態の収集には多くの時間がかかった。
魔物が消えた時、Xさんは安堵するどころか顔をしかめていた。
それを見た俺の中にどろりと嫌な気持ちが流れる。
被害の大きかった北の森へ向かうと多くの負傷者がいた。地面には魔物や人間の血が広がっている。
犠牲者はいなかったものの、多くの被害を出しながら事態は収束した……そう思った。
Xさんのこの言葉を聞くまでは。
話が見えない。
リンゴ
「あ、あ、アゴ君、今、着替えてるの!!」
リンゴは顔を赤くして狼狽していた。そりゃそうだ、若い女の子が男に見られたらこうなるよな。
ティアゴ
「ご、ごめん、まさかこんな所で着替えてるなんて..ん?ちょっと、まって」
そう言いながら視線を逸らそうと思ったが、それは出来なかった。
「その怪我どうしたの?」
俺はリンゴの側まで歩み寄り身体を、マジマジとみた。
よく見てみると綺麗な肌に、痛々しい痕があちこちにある。血も滲んでいる。
リンゴ
「変態!出ていって!」
リンゴは俺が近づいて身体を見ることに困惑して顔がみるみる赤くなっていく。こんなウブな反応が可愛いと思ったが、今はそんなことを言っている場合ではない。
ティアゴ
「この怪我、普通じゃないよ!背中だけでも痣だらけだよ」
ティアゴ
「いったい、なにがあったの?」
誰にやられたんだと怒りが沸いてくる。それを必死に抑えながら聞いた。
リンゴ
「ダンジョン1人でいったらボコボコにされたの!
そんな恥ずかしいことバレたくないからここで着替えてたのに」
リンゴが口をとがらせた。
ティアゴ
「、、どこのダンジョン?」
リンゴ「水没」
ティアゴ
「あー、水没かぁ
あそこは1人でいくところじゃ……」
ーー嘘をつくな。
「さっきリンゴに導きの蝶使おうとしたら居場所の反応がなかったんだけど
本当に水没にいた?」
俺は疑いの眼差しをリンゴに向ける。
リンゴ
「いたよ!導きの蝶だって、調子悪いことあるんじゃないの..」
ティアゴ
「..もしかして、誰かに乱暴された?相手をかばってるの?」
もし、強姦でもされたなら、殿下の恋人としてそれを言えないのか…?
俺はリンゴの華奢な身体を見つめる。この綺麗な身体がもし訳の分からない奴らが蹂躙したとしたら…
一瞬怒りで目眩がした。
リンゴ
「何もされてない..」
リンゴはふるふると首を、横に振った。
冷静になれ………
本当に俺らしくない。
腕の怪我を見てみると、それは知っている怪我であることに俺は気づいた。
乱暴されていなくても、人間にやられたものじゃないか。
ティアゴ
「・・この腕の怪我・・魔物の類いじゃない。魔銃で撃たれてものだね?・・レッドに会ったんだね?」
俺はリンゴの顔をのぞきこんでじっ見つめた。
俺は味方だ。本当のことを話してほしい。
訴えかけるように、リンゴの黒真珠のような丸い瞳を真っ直ぐに見つめる。見つめ返してくるリンゴの目がユラリと揺れる。
リンゴ
「あーもう無理、、」
リンゴは諦めたようにため息をついた。
俺がしつこいのが分かって隠すことは無駄だと判断したのだろう。
リンゴはこれまでの経緯を話した。
レッドに呼び出されたこと、それを俺たちに伝えたら報復するといわれたこと。
ティアゴ
「またあの男・・!」
俺は歯ぎしりした。怒りで身体が熱くなった。
何故武術職でもない子に、そのようなことをさせるのか。
リンゴ
「あの人はもうこんなことしてこないよ。もう大丈夫だよ」
ティアゴ
「そーゆー問題じゃない!」
俺が怒鳴ったので、リンゴはびくりと身体が震えた。
ティアゴ
「怒鳴ってごめん..
リンゴに怪我させられて、腹がたったんだ。当たり前だろ。仲間が痛めつけられれば誰だって腹が立つ...」
俺はため息をついた。
ティアゴ
「リンゴだけ居場所が不明で、俺たちがどんなに心配したかわかる?」
感情的になっている俺の声は弱々しいもので、リンゴはそんな俺の様子に戸惑い、しゅんとした。
リンゴ「ご、ごめんなさい・・」
ティアゴ
「・・このまま、見つからないんじゃないかと思った・・」
本当に……
……見つかって良かった
今度は安堵のため息をついた。
心なしかリンゴの、目が潤んでいるような気がする。
俺はポケットから普段から持ち歩いている薬取り出した。
ティアゴ
「ちょっとしみるけど我慢してね」
怪我にきく塗り薬を傷口に塗っていく。リンゴは恥ずかしそうにしていたが大人しく従っている。
薬を塗りおえて、俺は後ろを向いた。
「むこう向いてるから服着て」
リンゴ
「..うん、、ありがとう」
ほどなくして布が擦れる音がする。
ティアゴ
「まったく..怪我してなかったら俺でも絶対押し倒してるよ。夜遅くに空き部屋に一人で入るなんて..これからこんな所で着替えたりしたらダメだよ..」
これがユアンだったら、危なかった。あいつなら、リンゴのことを躊躇なく押し倒していそうだ。……怪我人にそんなことはしないか。
ーーユアンならリンゴの返り討ちに合うか。
………ご愁傷様………
俺はくだらないことを言った。適当なことを言って今の台詞を流そう、そう思った時。
リンゴ
「押し倒してもいいよって言ったら..?」
……なんだって?
とんでもない返しをリンゴはしてきた。
ティアゴ
「…………そんなこと、こんな状況で冗談でいったらだめだよ」
あれか、またこの前みたいに俺をからかってるのか。
そう分かっていても、俺の心臓が少しうるさい。
リンゴ
「冗談じゃないって言ったら?」
切なげな声が俺の背中に投げかけられる。
ーー今おまえは俺をからかって笑っているのか?
本当は俺を男だと意識していないのか?
それとも……。
俺はそっと横を向く。視界の端に入ってきたのは思いつめた顔で俯くリンゴの姿だった。
考えるより先に身体が動いた。
俺の手が電気のスイッチを消すと、華奢なリンゴの身体をベットに押し倒していた。