番外編 その時は唐突に訪れた…… | エルネア王国モニカ国の暮らし。

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エルネア王国の日々の備忘録です。妄想もかなりあります。モニカ国。他のゲームの事も気ままに書いていこうと思います。
多忙のためのんびり更新中です。アイコンは旧都なぎ様のきゅーとなクラシックメーカーより。

任天堂Switch版エルネア王国をもとに書いています。





この話は、今から10年ほど前209〜210年にかけてリンゴたちに起きたお話がベースになっており

   
のティアゴ目線の話です。

番外編三話で構成されております。





リンゴ・フォード
成人して二年目ということでまだ幼い印象が
残る。
昨年は母リリーが倒れ、母を助けようとXやティアゴと奔走する。警護のために毎晩送ってくれるティアゴをいつのまにか意識するようになってしまい……その気持ちは本人が思うよりずっと大きくなる。既婚者に抱いてはいけない気持ちに悩み苦しんでいる。

ティアゴ・バーナード
ガルフィン魔銃師会 魔銃導師
魔銃師会に入り三年目、導師になり二年目の頃。
この頃夜の送りだけではなく本人には秘密でリンゴの護衛についている。


レイラ・ティーレマン
ガルフィン魔銃師会所属
この頃はXという名前。
自由ではっきりものを言う性格。
魔銃師会に長く所属していることもあり、一目置かれる存在。


イマノル・ボイド
山岳兵団ボイド家次期隊長。リンゴの親戚。
結ばれる事がないと分かっていながら次期山岳隊長アルシアと付き合っている。

アルシア・コルテス
山岳兵団コルテス家次期隊長。リンゴの親戚。
リンゴの母親リリーの妹のユズの娘。
リンゴとは幼い頃から仲が良い。







゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――




この頃、武術職は皆緊張の日々が続いていた。

「殿下のお命を狙う不届き者がいる」


平和なこの国で、ヴェルンヘル殿下のお命を狙う輩がいるーー


成人したばかりの次代の国王を狙うこの情報に皆ピリピリしていた。

俺もその1人だった。

だが、俺は敵の目的が殿下ではないと思っていた。それをXさんに伝えると



X「私もそう思う……」

Xさんは考えながら頷いた。

そこまでまだ付き合いが長いわけではないが、この人の勘は鋭い。この人が同意見であると、ますますそう思えてくる。


ティアゴ
「Xさんは、奴の目的はなんだと思いますか?」




X「……リンゴちゃん」

しばしの沈黙のあとに言った一言に俺は頷いた。俺も同じ意見だった。


ティアゴ
「俺も、そう思います」


X「リンゴちゃんだけど、少し様子がおかしいと思うの。」


ティアゴ「というと?」

問いながら俺も同じ感想を抱いている。

X「常に緊張しているというか、少し思い詰めているっていうのかしら。」


ティアゴ「確かに」


X「……それは、今回の件だけではないかもしれないけどね」

チラリと意味深に俺を見て視線を外す。


ティアゴ「……?」

俺は怪訝な目でXさんを見たが、Xさんは片手を顔の前で振って

X「なんでもない、気にしないで。リンゴちゃんにも色々あるわよね、きっと」

そう言って話はここで終わりと仕事に戻っていった。


ーー??


さっきの視線はなんなんだ?





その後、不審な農場管理官の存在が明らかになり、リンゴが農場管理官ということから俺とXさんはリンゴの警備についた。

Xさんはめんどくさいから警備は山岳の猿たちにでもやらせておけばいいと言ってXさんは警備に滅多に入らなかった。

……自由な人だ……

のちに分かったことだが、あんな事を言いながらXさんは影で色々周辺を探っていてくれたらしい。正直にそういえばいいのに、面倒な人だ。

山岳兵を山猿呼ばわりしていたらいつか殴られそうだが、Xさんはなんとも思わないんだろうか…
山猿というのは、山岳の男どものことだ。特に男を毛嫌いしているフシがある。

山岳兵に直接言わないことを祈るばかりだ。




そんな事をしている時に、あの日がきた。


バルナバさんに話があって山岳区に足を踏み入れると、リンゴとユアンが何か話をしていた。

ユアンというクソガキは彼女がいるくせに、リンゴの顎を持ち何かほざいていやがった。


…少しイラついた。

知り合いの子がこうも堂々と男に何かされるのを見るのは気分のいいものではない。


ユアンの奴は馴れ馴れしく軽薄で気に入らない。

俺はユアンを殴りたかったが、リンゴはユアンのことを意に介した様子もなく、適当にあしらっていた。

その光景を見ていてふと思う。


リンゴのやつは俺の時は真っ赤になったのに、ユアン相手には全く動じないな…

以前、リンゴが俺の家に来た時に妻に手を出そうとしている所を目撃された。お預けを食らった俺は、そのあとリンゴに
「俺の相手してくれるの?」とふざけて言ったら、俺をからかおうと思ったらしく乗ってきた。そのくせに俺がキスをするフリをして顔を寄せると真っ赤になって狼狽していた。



……あれは、少し可愛かった…


その時のことと今のことを比べて一つの可能性が脳裏を過るが、何を馬鹿なことをとその可能性を振り払う。

ありえない。


何を考えてるんだと思っていると、俺の姿を見つけたリンゴはパッと表情を輝かせて走ってやってきた。

その姿と所作は可愛らしい。少し前まで毒舌を吐いていた少女とは思えないほど。


リンゴ「あ、アゴ君!」


最近のリンゴは俺を見つけると必ずといっていいほど挨拶にきてくれる。

そのせいでリンゴと同世代の男どもには俺は嫌われている..野郎共の好感度なんて必要ないから別に構わないのだが。

 

むさ苦しい野郎どもに声をかけられるくらいなら女の子のほうがいい。

リンゴは情報収集が趣味のような変わった子だ。導師の俺と仲良くしていた方が自分にメリットがあると考えているのだろう。


リンゴ

「こんにちは、今日もいい天気ですね」


パッと花が咲いたような笑顔を向けてくる。


この無邪気な笑顔で成人したばかりの男どもはイチコロだろうな…



ティアゴ

「こんにちは、ほんといい天気だね」



リンゴ「..昨日の怪我、具合どう?痛む?」


リンゴは心配そうに俺の腕を見てきた。昨日、ダンジョンでリンゴを庇って怪我をしたことを心配してくれているようだ。



ティアゴ

「大したことなかったよ。痛みはないし」


そう言って俺は怪我をしていない方の手で、怪我をしたあたりをぽんと叩いた。


リンゴ「...そっか、よかった」


そう言いながらもまだリンゴは視線は俺の腕と俺の顔を見ていた。


強がっていると思われているようだ。


確かに昨日の今日だから傷口は塞がっていないが怪我はたいしたことはない。リンゴが心配することではない。

 


その時、飛んできたハナムシがリンゴの耳にとまった。

 


リンゴ

「わ?!なに?!」

 

耳の感触に、リンゴは驚いて声をあげた。



ティアゴ

「ハナムシ。

とってあげるからじっとしてて」

 

俺が腕を伸ばしてリンゴの耳に止まったハナムシをそっと掴む。


俺の指先がリンゴの肌に触れると、リンゴの顔が少し赤くなり、切なそうに目を伏せた。





 

ティアゴ(ーーーーえ?)




そんな彼女を見て俺は動揺した。




強い魔物に遭遇した時よりも動揺した。




俺は気づかない振りをしながらハナムシを草むらに放した。


 

リンゴ

「ありがとう、びっくりしたー」

 

リンゴはいつも通りに戻って微笑んでいた。




ーーーあのガキに触られても動じないくせに、なんで俺の時は...



思考が追いつかない。


い……今のは…なんだ?

 



年上の俺にはリンゴのウブな反応が新鮮で、恥ずかしがる仕草も表情も可愛らしい。




それは、昔から見ていた彼女の延長の姿でしかなかったはずなのに。

 

保護者のような気分で今まで見ていた、はずだった。





ーーーーこの時までは。






平静を取り繕うリンゴを俺はぼんやり見ていてその視線にリンゴは首をかしげる。

 


リンゴ

「?アゴ君?どうかした?」  



ティアゴ

「ん?別に...っていうか、あの青いガキの扱いが雑だね」



リンゴ

「ユアン?ああ、ユアンのこもなんとも思ってないからね。」


バッサリとユアンを切り捨てて、


「それに、ティアゴ君の姿が見えたからさっさと話切り上げて、声かけようと思ったから」



あまり深く考えずに口走った台詞だったのか、リンゴ自身焦っているように思えた。




俺はなんて返したらいいか分からなかった。



そこに、くさくなったガブリエル少年が現れる。なぜ奴はいつもくさいのか。



ガブリエル

「こんにちはー!」



リンゴ「こ、こんにちは..」


挨拶を返しながら隣にいる俺をチラリとみる。俺が何を言うのか察しているようだ。




ティアゴ「お前、またくさいじゃないか」



その期待に答えてやろう。俺は容赦なく、ガブリエルにくさいと指摘してやった。



ガブリエル「うわ、導師!」


ガブリエルは俺の姿に驚いてリンゴの後ろに隠れる。



ティアゴ

「お前な、くさい状態で人にひっつくな。においがうつったらどうすんだ。早く風呂にいってこい」


早く離れろ。リンゴに臭いが移るだろ…

っていうかガキだからってベタベタしすぎだ。



ガブリエル

「なんでいつも導師いるんだよー!」


叫びながらガブリエルは勢いよくドルム山道を下って行った。



ティアゴ

「なんでいつもくさいんだよ..」


走り去る小さな背中に俺は呟いた。




俺たちのやり取りにリンゴはクスクス笑っていた。



リンゴ

「私ににおいがうつらないためと、ガブリエルのために注意してくれて...口が悪いけど、ティアゴ君すごく優しいよね」



ティアゴ「..........」


俺は返答に窮して黙り、視線を彷徨わせた。警護にあたっているアルシアとイマノルと目が合い、気まずくて視線を外した。



いつからコイツらここに居たんだ?

さっきまでいなかったはずなのに…


さすが次期山岳隊長……気配を消すのもお手の物ってか…。



どこから見られてたんだ…?



コイツらはこんなんでも次期山岳隊長だ。厄介な奴らに見られてしまった




リンゴ

「そういえば、ドルム山に何か用があってきたの?探索?」


思い出せない。


俺は何をしにここにきたんだろう……リンゴと話をしていたらすっかり忘れてしまった…



ティアゴ

「んー?えーと、これだ」


忘れたなんて思われたくはない。俺はリンゴに適当に選んだプリンア・ラ・モードを渡した。



リンゴ

「プリン・ア・モード?!なんでこんなもの持ってるの?!」


プリン・ア・ラ・モードにリンゴは目を輝かせながら驚きの声を出した。

……リンゴは差し入れしがいがある。こんなに喜んでくれるなら、いくらでもあげたい。

咄嗟に入手困難なものを差し入れしてしまったが、この笑顔が見れるなら惜しくはない…。


ティアゴ

「..さあ...リンゴって差し入れなんでも受け入れるけど、嫌いな物とかないの?」


差し入れするなら、嫌いな物は避けたい、そう思って質問する。



リンゴ

「私は基本的に好き嫌いないよ。ウニクリームスープはびっくりしたけど」

*以前ティアゴからウニクリームスープを差し入れされてリンゴは黒い物体のカワウニを怖がった。


ティアゴ「ふーん..」


驚かせようとして渡したから目的は達成したな。



リンゴ

「ザッハトルテとかマナナパウンドとか好きかな。ピッツァも好き。まあ、ティアゴ君が作ってくれるものは美味しいからなんでも食べるけど」


にこっと笑ってリンゴがさらりと言う一言に、俺は目を丸くした。




ーーなんなんだこの破壊力は。



イマノルはニヤニヤ笑って横目で俺たちを見ている。



ティアゴ

「ーーーくさいスープやくさいサラダでも食べるんだね?」


気恥ずかしいのを隠すために、俺はくだらないことをリンゴに言う。



リンゴ

「えっ..そ、それは遠慮しとこうかな?!」

リンゴは慌てながら

「いや、でもせっかく作ってくれたんだから..」



なんだそれ……そんな可愛い事、言うなよ…

 



ティアゴ「...食べなくていいよ」


俺は苦笑した。


そんなもの、リンゴは食べなくていい。




それからリンゴと別れ、俺は酒場に向かう。


あんな些細な会話で、俺は……

毎晩リンゴを家まで送り届けているからか?


自覚してしまったこの気持ちをどうしたらいいのだろうかと俺は困惑した。




酒を飲めば……少しは気が紛れるだろうか。



「参ったな……」


ポツリとこぼした一言は、酒場の喧騒に紛れて消えていく。




この気持ちも喧騒に紛れて消えていけばいい。