今日はやけに瘴気が多い日だなとティアゴは警戒していた。
目の前の敵に集中していると、ふと背後に気配を感じた。
背後で瘴気が魔獣化したらしい。
*旅人の状態で、武術職の人に魔獣のことを聞くと、そんな説明をしてくれます。
リンゴはまだ気がついていない。
その魔獣は、背後からリンゴに向かって迫っていった。
ティアゴはとっさに身体をリンゴの方に投げ出す。
想像以上の攻撃だった。
ティアゴの服が裂け血が滴り落ちた。
リンゴ
「あ、アゴ君!!」
滴る鮮血をみて、リンゴの顔が青くなった。
ティアゴの身体がぐらついた。
リンゴは銃を構えて、魔獣に向かって発砲した。ティアゴと二人でようやく倒した。
リンゴ
「大丈夫?」
ティアゴ
「たいしたことないよ」
リンゴ
「なんで私より弱いのに、盾になろうとするの」
ティアゴ
「..そこ指摘するの」
ティアゴは苦笑した。リンゴは涙声になった。
リンゴ
「だって..私のせいで怪我しちゃって」
ティアゴ「たいしたことないって」
リンゴは布を裂いて、ティアゴの怪我している腕を縛って止血した。
リンゴ
「ーーかばってくれてありがとう」
ティアゴ
「....武術職が、国民と農業管理官を守るのは、本能だよ..」
ティアゴはぷいっと横を向いた。そんなティアゴの横顔をリンゴは嬉しそうに見つめた。
リンゴ
(アゴくんはなんだかんだいっても優しいんだよね)
「お礼に今度お酒奢るよー」
ティアゴ
「俺たち飲んでばっかりだね..」
ユアンはガラと付き合う前はリンゴが好きだった。
誰よりも先にリンゴを口説きにきたのもユアン。
ユアンは女好きのようで色んな女の子とよく一緒にいる。
元地味顔のくせに。
ユアンはふざけてリンゴの顎をくいっと持ち、
ユアン
「殿下なんてつまらなくて物足りないだろ?俺にしておきなよ」
とカッコつけてきた。
元地味顔のくせに..
それ以前に彼女いるくせに。
リンゴはフッと笑い、
「ユアン君じゃまだまだ大人の魅力が足りないかなー?」
と顔色一つ変えず、余裕でユアンを振り払った。
バルナバに用事があってドルム山に向かっていたティアゴは、偶然その光景を目にする。
ティアゴ(あの青いクソガキ..)
*青い髪の毛のユアンのこと
ティアゴ(リンゴのやつ、俺の時は真っ赤になったのに、ユアン相手には全く動じないな..)
リンゴとユアンが話をしているが、リンゴは全くユアンを相手していないという感じだった。
ティアゴ(.....まさかな..そんなわけないよな)
一つの可能性が脳裏をよぎるが、ティアゴはその考えを振り払った。
リンゴ
「あ、アゴ君」
ティアゴの存在に気づいてリンゴが挨拶にきた。
リンゴはティアゴを見つけると必ず声をかけてくれる。
そのせいでリンゴと同世代の男どもにはティアゴは嫌われている..野郎共の好感度なんて必要ないから別に構わないのだが。
むさ苦しい野郎どもに声をかけられるくらいなら女の子のほうがいい。
リンゴ
「こんにちは、今日もいい天気ですね」
ティアゴ
「こんにちは、ほんといい天気だね」
リンゴ「..昨日の怪我、具合どう?痛む?」
ティアゴ
「大したことなかったよ。痛みはないし」
リンゴ「...そっか、よかった」
(絶対強がってるんだろうけど..)
その時、ハナムシがリンゴの耳にとまった。
リンゴ
「わ?!なに?!」
耳の感触に、リンゴは驚いて声をあげた。
ティアゴ
「ハナムシ。
とってあげるからじっとしてて」
ティアゴが腕を伸ばしてハナムシをそっと掴む。
ティアゴの指先がリンゴの肌に触れて、リンゴの顔が少し赤くなり、切なそうに目を伏せた。
ティアゴ(ーーーーえ?)
動揺を隠しながらハナムシを草むらに放す。
リンゴ
「ありがとう、びっくりしたー」
リンゴはいつも通りに戻って微笑んでいた。
ティアゴ
(ーーーあのガキに触られても動じないくせに、なんで俺の時は...)
5歳も年上のティアゴにはリンゴのウブな反応が新鮮で、恥ずかしがる仕草も表情も可愛らしい。
それは、昔から見ていたリンゴの延長の姿でしかなかったはずなのに。
保護者のような気分で今まで見ていた、はずだった。
平静を取り繕うリンゴをティアゴはぼんやり見ていてその視線にリンゴは首をかしげる。
リンゴ
「?アゴ君?どうかした?」
ティアゴ「ん?別に...っていうか、あの青いガキの扱いが雑だね」
リンゴ
「ユアン?ああ、ユアンのこもなんとも思ってないからね。」
バッサリとユアンを切り捨てて、
「それに、ティアゴ君の姿が見えたからさっさと話切り上げて、声かけようと思ったから」
あまり深く考えずに口走った言葉に、リンゴ自身内心焦った。
ティアゴはなんて返したらいいか分からなかった。
そこに、くさくなったガブリエルが現れる。なぜ彼はいつもくさいのか。
ガブリエル
「こんにちはー!」
リンゴ「こ、こんにちは..」
挨拶を返しながら隣にいるティアゴをチラリとみる。案の定ティアゴは、
ティアゴ「お前、またくさいじゃないか」
容赦なく、ガブリエルにくさいと指摘した。
ガブリエル「うわ、導師!」
ガブリエルはティアゴの姿に驚いてリンゴの後ろに隠れる。
ティアゴ「お前な、くさい状態で人にひっつくな。においがうつったらどうすんだ。早く風呂いっておいで」
ガブリエル「なんでいつも導師いるんだよー!」
叫びながらガブリエルは勢いよくドルム山道を下って行った。
ティアゴ「なんでいつもくさいんだよ..」
走り去る小さな背中につぶやく。
リンゴはクスクス笑っていた。
リンゴ
「私ににおいがうつらないためと、ガブリエルのために注意してくれて...口が悪いけど、ティアゴ君すごく優しいよね」
ティアゴ
「..........」
ティアゴは返答に窮したように黙り、視線を彷徨わせた。警護にあたっているアルシアとイマノルと目が合い、気まずそうに視線を外す。
リンゴ
「そういえば、ドルム山に何か用があってきたの?探索?」
ティアゴ(あれ、何できたんだっけ?)
「んー?えーと、これだ」
思い出せないので、ティアゴはリンゴに適当に選んだプリンア・ラ・モードを渡した。
リンゴ「プリンアラモード?!なんでこんなもの持ってるの?!」
ティアゴ「..さあ...リンゴって差し入れなんでも受け入れるけど、嫌いな物とかないの?」
リンゴ「私は基本的に好き嫌いないよ。ウニクリームスープはびっくりしたけど」
*以前ティアゴからウニクリームスープを差し入れされてリンゴは黒い物体のカワウニを怖がった。
ティアゴ「ふーん..」
リンゴ
「ザッハトルテとかマナナパウンドとか好きかな。ピッツァも好き。まあ、ティアゴ君が作ってくれるものは美味しいからなんでも食べるけど」
リンゴがさらりと言うと、ティアゴは目を丸くした。
イマノル(導師、照れてるな絶対..)
ティアゴ
「ーーーくさいスープやくさいサラダでも食べるんだね?」
リンゴ
「えっ..そ、それは遠慮しとこうかな?!」リンゴは慌てながら「いや、でもせっかく作ってくれたんだから..」
ティアゴ「...食べなくていいよ」
ティアゴは苦笑した。
ティアゴ
「...さーてと、酒場にでも行くかなー」
リンゴ
「..仕事は?」
ティアゴ
「今日はやめとくー」
導師らしからぬ言葉にリンゴは「えっ」と時刻を確かめる。
リンゴ
「まだ昼にもなってないよー!」
リンゴの声にティアゴは背中を向けてひらひらと手を振って去って行った。
リンゴ
「アゴ君はすぐサボるんだから..」
リンゴは口をとがらせた。