魔銃師会に入り三年目、導師になり二年目の頃。
そのせいでリンゴと同世代の男どもには俺は嫌われている..野郎共の好感度なんて必要ないから別に構わないのだが。
リンゴ
「こんにちは、今日もいい天気ですね」
パッと花が咲いたような笑顔を向けてくる。
この無邪気な笑顔で成人したばかりの男どもはイチコロだろうな…
ティアゴ
「こんにちは、ほんといい天気だね」
リンゴ「..昨日の怪我、具合どう?痛む?」
リンゴは心配そうに俺の腕を見てきた。昨日、ダンジョンでリンゴを庇って怪我をしたことを心配してくれているようだ。
ティアゴ
「大したことなかったよ。痛みはないし」
そう言って俺は怪我をしていない方の手で、怪我をしたあたりをぽんと叩いた。
リンゴ「...そっか、よかった」
そう言いながらもまだリンゴは視線は俺の腕と俺の顔を見ていた。
強がっていると思われているようだ。
確かに昨日の今日だから傷口は塞がっていないが怪我はたいしたことはない。リンゴが心配することではない。
その時、飛んできたハナムシがリンゴの耳にとまった。
リンゴ
「わ?!なに?!」
耳の感触に、リンゴは驚いて声をあげた。
ティアゴ
「ハナムシ。
とってあげるからじっとしてて」
俺が腕を伸ばしてリンゴの耳に止まったハナムシをそっと掴む。
俺の指先がリンゴの肌に触れると、リンゴの顔が少し赤くなり、切なそうに目を伏せた。
ティアゴ(ーーーーえ?)
そんな彼女を見て俺は動揺した。
強い魔物に遭遇した時よりも動揺した。
俺は気づかない振りをしながらハナムシを草むらに放した。
リンゴ
「ありがとう、びっくりしたー」
リンゴはいつも通りに戻って微笑んでいた。
ーーーあのガキに触られても動じないくせに、なんで俺の時は...
思考が追いつかない。
い……今のは…なんだ?
年上の俺にはリンゴのウブな反応が新鮮で、恥ずかしがる仕草も表情も可愛らしい。
それは、昔から見ていた彼女の延長の姿でしかなかったはずなのに。
保護者のような気分で今まで見ていた、はずだった。
平静を取り繕うリンゴを俺はぼんやり見ていてその視線にリンゴは首をかしげる。
リンゴ
「?アゴ君?どうかした?」
ティアゴ
「ん?別に...っていうか、あの青いガキの扱いが雑だね」
リンゴ
「ユアン?ああ、ユアンのこもなんとも思ってないからね。」
バッサリとユアンを切り捨てて、
「それに、ティアゴ君の姿が見えたからさっさと話切り上げて、声かけようと思ったから」
あまり深く考えずに口走った台詞だったのか、リンゴ自身焦っているように思えた。
俺はなんて返したらいいか分からなかった。
そこに、くさくなったガブリエル少年が現れる。なぜ奴はいつもくさいのか。
ガブリエル
「こんにちはー!」
リンゴ「こ、こんにちは..」
挨拶を返しながら隣にいる俺をチラリとみる。俺が何を言うのか察しているようだ。
ティアゴ「お前、またくさいじゃないか」
その期待に答えてやろう。俺は容赦なく、ガブリエルにくさいと指摘してやった。
ガブリエル「うわ、導師!」
ガブリエルは俺の姿に驚いてリンゴの後ろに隠れる。
ティアゴ
「お前な、くさい状態で人にひっつくな。においがうつったらどうすんだ。早く風呂にいってこい」
早く離れろ。リンゴに臭いが移るだろ…
っていうかガキだからってベタベタしすぎだ。
ガブリエル
「なんでいつも導師いるんだよー!」
叫びながらガブリエルは勢いよくドルム山道を下って行った。
ティアゴ
「なんでいつもくさいんだよ..」
走り去る小さな背中に俺は呟いた。
俺たちのやり取りにリンゴはクスクス笑っていた。
リンゴ
「私ににおいがうつらないためと、ガブリエルのために注意してくれて...口が悪いけど、ティアゴ君すごく優しいよね」
ティアゴ「..........」
俺は返答に窮して黙り、視線を彷徨わせた。警護にあたっているアルシアとイマノルと目が合い、気まずくて視線を外した。
いつからコイツらここに居たんだ?
さっきまでいなかったはずなのに…
さすが次期山岳隊長……気配を消すのもお手の物ってか…。
どこから見られてたんだ…?
コイツらはこんなんでも次期山岳隊長だ。厄介な奴らに見られてしまった
リンゴ
「そういえば、ドルム山に何か用があってきたの?探索?」
思い出せない。
俺は何をしにここにきたんだろう……リンゴと話をしていたらすっかり忘れてしまった…
ティアゴ
「んー?えーと、これだ」
忘れたなんて思われたくはない。俺はリンゴに適当に選んだプリンア・ラ・モードを渡した。
リンゴ
「プリン・ア・モード?!なんでこんなもの持ってるの?!」
ティアゴ
「..さあ...リンゴって差し入れなんでも受け入れるけど、嫌いな物とかないの?」
差し入れするなら、嫌いな物は避けたい、そう思って質問する。
リンゴ
「私は基本的に好き嫌いないよ。ウニクリームスープはびっくりしたけど」
*以前ティアゴからウニクリームスープを差し入れされてリンゴは黒い物体のカワウニを怖がった。
ティアゴ「ふーん..」
驚かせようとして渡したから目的は達成したな。
リンゴ
「ザッハトルテとかマナナパウンドとか好きかな。ピッツァも好き。まあ、ティアゴ君が作ってくれるものは美味しいからなんでも食べるけど」
にこっと笑ってリンゴがさらりと言う一言に、俺は目を丸くした。
ーーなんなんだこの破壊力は。
イマノルはニヤニヤ笑って横目で俺たちを見ている。
ティアゴ
「ーーーくさいスープやくさいサラダでも食べるんだね?」
気恥ずかしいのを隠すために、俺はくだらないことをリンゴに言う。
リンゴ
「えっ..そ、それは遠慮しとこうかな?!」
リンゴは慌てながら
「いや、でもせっかく作ってくれたんだから..」
なんだそれ……そんな可愛い事、言うなよ…
ティアゴ「...食べなくていいよ」
俺は苦笑した。
そんなもの、リンゴは食べなくていい。