The Last Ship は2014年6月から放送開始のアメリカのTVドラマ
製作者:ハンク・スタインバーグ/ スティーヴン・ケイン
原作:The Last Ship (ウィリアム・ブリンクリー)
製作総指揮:マイケル・ベイ
シーズン:5シーズン完結(全56話)
出演者:エリック・デイン/ローナ・ミトラ/アダム・ボールドウィン
ジャンル:パンデミック+ドンパチ
おすすめ度 ★★★★☆ パンデミックの危機に立ち向かう米兵のマッチョドラマ
お子様(中学生以上)がみても楽しめるわかりやすい作品
◆登場人物
トム・チャンドラー艦長:エリック・デイン
レイチェル・スコット博士:ローナ・ミトラ
◆ストーリー
CDCの細菌学者であるレイチェル・スコット博士は、艦長トム・チャンドラー率いるアーレイ・バーク級駆逐艦「ネイサン・ジェームズ」の北極海での極秘任務に同行、細菌の採取を行っていたが、その最中にロシア軍と思われる戦闘員から攻撃を受ける。 チャンドラー艦長らアメリカ海軍は、実力を持ってこれを何とか撃退、チャンドラー艦長は攻撃された理由がスコット博士達にあると考え、彼女を問い詰めたのだが、そこで驚くべき事実を知る。
なんと無線封止中の間に、世界は致死率100%の新型ウイルスが蔓延して荒廃していたのであり、スコット博士の本来の研究目的は、そのウイルスのワクチンを開発することだったのである。 今すぐ本国へ帰還し、家族の無事を確認したいチャンドラー艦長たちであったが、荒廃し無政府状態となっている今の国に帰ったところで、そこでワクチンが作れるとは限らない。 安全にワクチンを作れる場所はこの艦の中しかないと考えたチャンドラー艦長ら乗員たちは、ワクチンが製造できるまでは国には帰らないことを決意。 人類を、自らを、そして家族を救うため、「ネイサン・ジェームズ」の孤独な航海と戦いが始まるのであった。wikiより
※致死率100%と書いてあるが間違い。
◆マイケル・ベイ作品
最近のTV番組は映画界の監督が担当することが多いのですがこの作品もご多分に漏れずマイケル・ベイ監督が製作総指揮を手がけています。「アルマゲドン」や「トランスフォーマー」シリーズが有名でアクション+SFが得意な監督です。この作品にも多くのアクションシーンが出てきます。良くも悪くもマイケル・ベイ作品です。
◆戦艦が人類を救う
戦艦が人類の運命を握る作品は多く存在します。
宇宙モノでは「スタートレック」や「ギャラクティカ」日本では「宇宙戦艦ヤマト」等があります。この作品の舞台は宇宙物ではありませんが、大変重要な戦艦です。
戦艦がやられると人類滅亡とかいう設定ではなく、移動基地及びワクチン製造所としての要素が強く、海上の戦闘ばかりではなく、乗組員は陸に出て戦う事が多いです。
作品の全体的な印象はジョン・ウエインよろしくマッチョなタフガイなアメリカン・ヒーロー達(まるでアルマゲドンのように危険に立ち向かう登場人物達w)の物語です。アメリカ人は本当にこの手の作品好きですね。なにしろ自分たちこそが正義だと疑いませんから、自動小銃もって大暴れします。
「24」や「アルマゲドン」や「ダイハード」のファンなら違和感なくかなり楽しめると思います。
◆艦長
艦長は作戦司令に専念していればいいものを・・・艦長が最前線で戦います!マッチョなタフガイです!ここはツッコミどころだと思いますが、アメリカ人はマッチョな主人公大好きですからね。知らず知らずのうちに艦長を応援していること間違いなしです。
◆撮影に協力的なアメリカ海軍 ミリタリーマニア必見
アメリカ海軍全面協力の下、実際のアーレイ・バーク級駆逐艦「ハルゼー」等が撮影に使用されている。wikiより
感想など(シーズン2、8話まで見ての感想) ネタバレ注意
◆日本は蚊帳の外
全世界が危機的なダメージに陥り、ワクチンを開発しますが、登場人物から聞こえてくる言葉は、「これで世界を救うことが出来る」ですが、その次に出てくる言葉は「アメリカやヨーロッパを救うことが出来る」なので、全く日本やアジアなど眼中にありません。一般的な米国人の考えなのでしょう。
私が確認した限りでは日本人は2名登場します。一人は悪役の学者、もう一人はあまり活躍しない乗務員です。ワクチンの開発が進み乗務員の家族優先でワクチンが配られるのですが、日本人らしき苗字の乗務員からは一言も何の発言もありません。かつて、米国にとっての日本は重要な同盟国やトモダチという事でしたが、少し残念ですね。
ワクチン一本を日本に届ければ、船上でちまちま生産するより迅速に大量生産出来るし、地震などの自然災害でも日本人は秩序正しく生活していましたので、米国のように無政府状態になっていないような気がします。
もちろん、他の国まで手を広げると作品としてとりとめなくなるのはもちろん理解していますが、ほんの少しでもいいので日本の名前だして欲しかったです。
追記:シーズンが進んでいくと、結構重要な役どころで日本人が出てきます。そしてその後の日本の様子も・・・・ですので、安心してください。
12 Years a Slave 2013年に公開されたアメリカ・イギリス映画
監督:スティーヴ・マックイーン(アクション俳優とは別人の黒人監督)
脚本:ジョン・リドリー
原作:ソロモン・ノーサップ(英語版) 『Twelve Years a Slave』 1853年
製作:ブラッド・ピット他
出演者:キウェテル・イジョフォー/ルピタ・ニョンゴ/マイケル・ファスベンダー
おすすめ度 ★★★★☆ 95点 辛い映画ですが、この作品を鑑賞して、キリストの教えの国なのか?正義の国家なのか?考えてみてください。
アメリカという国はキリスト教国家で世界の警察で自分たちこそが正義だと自負していますが、彼らの歴史を見る限りその成り立ちは血なまぐさい暴力が支配する歴史でした。
この映画はそんなアメリカの不都合な真実である、奴隷制度がある時代の物語です。アメリカの学校の授業でも飛ばして教える部分を、決して美談にすること無く正々堂々と正面から立ち向かった勇気ある映画で、たった3本しかない数少ないアメリカ奴隷映画の1つです。見て楽しむ娯楽作品ではなく目をそむけてはならない歴史です。
「私はこの本を読み、愕然とした」、「そして同時に、この本のことを知らなかった自分に腹が立った。私は国民的英雄であるアンネ・フランクがいたアムステルダムに住んでいるし、私にとってこの本は『アンネの日記』にように読めるが、それよりも97年前に書かれていたのだ。私はこの本を映画化するために情熱を持った」 スティーヴ監督
◆ストーリー
1841年(公開日から約172年前)、ニューヨークに住む自由黒人の音楽家ソロモン(キウェテル・イジョフォー)は家族と一緒に幸せに暮らしていた。しかし日突然拉致され、奴隷として南部の綿花農園に売られてしまう。(半)
◆豆知識 アメリカの黒人はアフリカから連れてこられた奴隷
アメリカはコロンブスがたどり着いたことで、その名前が知れ渡りヨーロッパ諸国からの入植が始まり、イギリス・フランス等が探検しながら植民地宣言をし開拓されていきました。その時に労働力としてアフリカ人などをアフリカから拉致して奴隷として働かせていました。
その数は17世紀から19世紀にかけておよそ1200万人です。しかも、奴隷制度という法律までひいて合法化させていました。
※アメリカには先住民であるインデアンがいましたので、力ずくで土地を奪い取り、なんと200万人以上いたインディアンは24万人にまでになってしまいました。
◆難航した映画化
アメリカ南部出身のブラッド・ピットが制作に関わっていますが、パラマウント映画は奴隷制度は「掘り出したくない過去」であり業界内でもタブー視されており制作を拒否しています。しかし実際に起こったことを風化させてはいけないという、制作陣の「情熱」よって、多くのイギリス人(監督や俳優)の手によって作られ20世紀フォックスの子会社からの配給作品となりました。
◆アカデミー賞
第86回アカデミー賞9部門にノミネートされ、作品賞と助演女優賞を受賞。黒人監督の映画として初の作品賞受賞作となりました。
◆ローリング・ストーンズ ブラウンシュガー ←クリックで過去のページに飛びます。
◆感想その他 ネタバレ含むので鑑賞後にどうぞ
同じアメリカなのに南部と北部では全く黒人の扱い方が違っており、南部では合法化されているので、奴隷たちに対する扱いはまったく悪いことをしているという自覚がないので、白人をより残酷な人間に変えていきます。そこに住む人達は時代に順応して生きている普通の人たちなのですが、主従関係がエスカレートしていき、戦争でもないのに何故ここまで残酷になれるのだろうと思いました。鑑賞しているだけで辛いのに、当の黒人たちは本当に辛かったと思います。
中でも残酷なエドウィン・エップスはやり過ぎなのではと思いますが、彼はクリスチャンであり聖書を読んでいるにもかかわらず、全く悪びれることがありません。そこからわかるのは、キリスト教という宗教がキリストの教えに反して名ばかりのスタイルに過ぎなかったことが如実に示されます。
また、エドウィンは大勢いる奴隷主のうちのたった一人に過ぎないと思うと底知れぬ恐怖を感じます。地獄はあの世に有るのではなく、黒人にとって南部こそが地獄だったにちがいありません。
変わるのはもちろん白人だけでなく、主人公ソロモンも騙されて連れて行かれ、家畜のように黒人を扱う南部人達の元に突然放り込まれ、多くの絶望感を味わい無力感から自信を喪失して、終いには自由の象徴であるヴァイオリンを粉々にしてしまいます。
印象的なシーンは、つま先立ちで吊るされているソロモンの後ろで何事もないように、黙々と働く他の奴隷達に唖然とします。「お前ら仲間が吊るされているのに黙っているのか?」と、言いたいですが、まるで抵抗感がなくなってしまっているようです。
それはまるで自分たちをみているようでした。それはブラック企業に勤めていても会社に文句を言えば例え正論であっても、反抗者として上司からレッテルを貼られいじめにあい、厳しい仕事ばかり押し付けられどんどん待遇が悪くなるので、文句を言えずに我慢するサラリーマンのようです。
私の上司はそんなタイプが多く、「文句をいう人間に嫌な仕事ばかりを回すようにしすると、終いには文句を言わなくなる」と言ってました。例えば労働時間が長いと文句を言えば、一番長くなる仕事を毎日まわすわけです。
結局何も言えなくなり、本心を隠しながら影で悪口を同僚と言い合ってお互いの傷口をなめあうしかないのです。給料をもらっていても、無抵抗の奴隷と何ら変わりません。
結局最後は、黒人奴隷のなかから、主人公一人だけが他の仲間の奴隷たちを残し助かるのですが、言い知れぬ後味の悪さ残ります。逃げのびただけで残された人達は何一つ変わらぬ地獄のような毎日がつづき、奴隷制度は何ら変わること無くあり続けます。
タイトルは直訳すれば「12年間の奴隷だった」ですが、南部の奴隷たちは12年間では済まないのです。
◆バプティスト派聖職者ウィリアム・フォード (ベネディクト・カンバーバッチ)
南部では聖職者でありながらも、この制度を利用し黒人を売買し労働力としている人もいました。彼もまたその中の一人で奴隷市場で、全裸の黒人たちの姿に眉をひそめることもなく、まるで自分の服を買うように黒人を品定めして買っていきます。
「すべてを救うのが神であるのなら、黒人も救われなければならいが、南部では神の前で白人が罪人とならないように整合性を持たせるために黒人は人間では無いと教えられていた。」町山智浩
奴隷制度自体間違っていると気づいていても法律である以上何も言えない人でした。また、ソロモンには教養が有りもともとは奴隷でないことに気づいていましたが、助けないばかりか、自分の借金の清算のために早々に他の雇い主エドウィンに売り渡してしまいます。
聖書を奴隷たちに読んで聞かせていたのはそんな無力な自分が出来る最低限の罪滅ぼしなのかも知れません。
「フォードが一番苦悩するのは合法とはいえエップスにソロモンを引き渡す時だ。自分の借金の清算のためにね。これはローンの抵当権みたいなものだけど本物の人間を担保にする。借金の代わりにね。ひどいことだ。彼はライオンに聖者を差し出すんだ。しかも 自分が何をしたのか理解しているからとても苦しむ。でもやめないんだそこが境界線だ。彼がどんなに良い人間でも
罪だと知りながら目をつぶるなら、彼は真に善人ではない。21世紀の目で彼を裁くのは簡単だ ソロモンに同情するのも容易い。彼の置かれた環境とかね。でも客観的に言えばあの時代に人間の良心を見つけるのは難しい」べネディクト・カンバーバッチ
◆農園主エドウィン・エップス (マイケル・ファスベンダー)
エップスはパッツィーに夜這いなどをしていましたが奴隷は家畜だと考えていたので葛藤します。当然奥さんは気づいており、自分よりも奴隷に心うばわれる屈辱と嫉妬でパッツィーに辛く当たります。
「アメリカの黒人の男性の65%に白人の血が混ざっているらしい つまり大農園で どれほどレイプが横行していたかってことだ」マイケル・ファスベンダー
ある日パッツィーがショー婦人から石鹸をもらいのきましたが、逃げたと勘違いしたエップスは無断でショーの屋敷に行った罰を与えようとし服を脱がせて木に縛り付けた。そこへタイミングよく奥さんが登場します。彼は自らの手でムチを打とうとしますがなかなか出来ませんが、ここぞとばかりに奥さんが「Do it 死ぬまで打つのよ」とせかします。
しかし、自分では打てないのでそばにいたソロモンに命じますが、手加減をするソロモンに業を煮やし自らの手でムチを打ちます。
ソロモン「人でなしめ・・いつか・・・永遠の正義によって汝の罪は裁かれる」
エップス「罪だと? これは罪じゃない 所有物で遊んでるんだ 今私はすごく楽しいんだ これ以上気の晴れる遊びはない」
◆アメリカ南部
アメリカ南部はキリスト教徒が多く集中していて、福音主義またはキリスト教根本主義のプロテスタント(特にバプテスト、そしてまたメソジストや長老派など)が普及しており、南部を「バイブル・ベルト」として呼ぶ由縁になっています。
南部の法律では黒人を殺してもペットを殺す罪と同じだった。
奴隷主が自分の奴隷を殺すのは自由だった。人権などまったくない。
奴隷の売買は高く売れたので子どもを生ませて売り払っていた。
病院も獣医に連れて行く。
こんなことが200年間もずっと続けられていた 町山智浩
◆その後のアメリカ
南北戦争に負けて奴隷制度が廃止になりましたが南部では根強い人種差別が残っており1890年にルイジアナ州は、黒人と白人で鉄道車両を分離する人種差別法案を可決しました。
キング牧師などを中心に行われた公民権運動により1964年7月2日の公民権法(人権法)制定まで黒人には選挙権も与えられませんでした。
◆何故黒人奴隷の記録が少ないのか?
南部では奴隷に字を教えなかったので、自ら記録を残す人がいなかった。
又、映画の最後でその後のソロモンに触れられていますが、大方が殺されたと考えられています。
※まだ書き足りないですが、書き疲れたので随時追加していきます。
※今回この記事を書くにあたり初めて町山さんの記事を参考にさせてもらいましたが、流石にアメリカに住んでいるだけあって詳しいですね。奴隷制度に対する知識を広めることができました。あの○○映画実写版進撃の巨人の町山さんと同じ方とは思えません。
監督:スティーヴ・マックイーン(アクション俳優とは別人の黒人監督)
脚本:ジョン・リドリー
原作:ソロモン・ノーサップ(英語版) 『Twelve Years a Slave』 1853年
製作:ブラッド・ピット他
出演者:キウェテル・イジョフォー/ルピタ・ニョンゴ/マイケル・ファスベンダー
おすすめ度 ★★★★☆ 95点 辛い映画ですが、この作品を鑑賞して、キリストの教えの国なのか?正義の国家なのか?考えてみてください。
アメリカという国はキリスト教国家で世界の警察で自分たちこそが正義だと自負していますが、彼らの歴史を見る限りその成り立ちは血なまぐさい暴力が支配する歴史でした。
この映画はそんなアメリカの不都合な真実である、奴隷制度がある時代の物語です。アメリカの学校の授業でも飛ばして教える部分を、決して美談にすること無く正々堂々と正面から立ち向かった勇気ある映画で、たった3本しかない数少ないアメリカ奴隷映画の1つです。見て楽しむ娯楽作品ではなく目をそむけてはならない歴史です。
「私はこの本を読み、愕然とした」、「そして同時に、この本のことを知らなかった自分に腹が立った。私は国民的英雄であるアンネ・フランクがいたアムステルダムに住んでいるし、私にとってこの本は『アンネの日記』にように読めるが、それよりも97年前に書かれていたのだ。私はこの本を映画化するために情熱を持った」 スティーヴ監督
◆ストーリー
1841年(公開日から約172年前)、ニューヨークに住む自由黒人の音楽家ソロモン(キウェテル・イジョフォー)は家族と一緒に幸せに暮らしていた。しかし日突然拉致され、奴隷として南部の綿花農園に売られてしまう。(半)
◆豆知識 アメリカの黒人はアフリカから連れてこられた奴隷
アメリカはコロンブスがたどり着いたことで、その名前が知れ渡りヨーロッパ諸国からの入植が始まり、イギリス・フランス等が探検しながら植民地宣言をし開拓されていきました。その時に労働力としてアフリカ人などをアフリカから拉致して奴隷として働かせていました。
その数は17世紀から19世紀にかけておよそ1200万人です。しかも、奴隷制度という法律までひいて合法化させていました。
※アメリカには先住民であるインデアンがいましたので、力ずくで土地を奪い取り、なんと200万人以上いたインディアンは24万人にまでになってしまいました。
◆難航した映画化
アメリカ南部出身のブラッド・ピットが制作に関わっていますが、パラマウント映画は奴隷制度は「掘り出したくない過去」であり業界内でもタブー視されており制作を拒否しています。しかし実際に起こったことを風化させてはいけないという、制作陣の「情熱」よって、多くのイギリス人(監督や俳優)の手によって作られ20世紀フォックスの子会社からの配給作品となりました。
◆アカデミー賞
第86回アカデミー賞9部門にノミネートされ、作品賞と助演女優賞を受賞。黒人監督の映画として初の作品賞受賞作となりました。
◆ローリング・ストーンズ ブラウンシュガー ←クリックで過去のページに飛びます。
◆感想その他 ネタバレ含むので鑑賞後にどうぞ
同じアメリカなのに南部と北部では全く黒人の扱い方が違っており、南部では合法化されているので、奴隷たちに対する扱いはまったく悪いことをしているという自覚がないので、白人をより残酷な人間に変えていきます。そこに住む人達は時代に順応して生きている普通の人たちなのですが、主従関係がエスカレートしていき、戦争でもないのに何故ここまで残酷になれるのだろうと思いました。鑑賞しているだけで辛いのに、当の黒人たちは本当に辛かったと思います。
中でも残酷なエドウィン・エップスはやり過ぎなのではと思いますが、彼はクリスチャンであり聖書を読んでいるにもかかわらず、全く悪びれることがありません。そこからわかるのは、キリスト教という宗教がキリストの教えに反して名ばかりのスタイルに過ぎなかったことが如実に示されます。
また、エドウィンは大勢いる奴隷主のうちのたった一人に過ぎないと思うと底知れぬ恐怖を感じます。地獄はあの世に有るのではなく、黒人にとって南部こそが地獄だったにちがいありません。
変わるのはもちろん白人だけでなく、主人公ソロモンも騙されて連れて行かれ、家畜のように黒人を扱う南部人達の元に突然放り込まれ、多くの絶望感を味わい無力感から自信を喪失して、終いには自由の象徴であるヴァイオリンを粉々にしてしまいます。
印象的なシーンは、つま先立ちで吊るされているソロモンの後ろで何事もないように、黙々と働く他の奴隷達に唖然とします。「お前ら仲間が吊るされているのに黙っているのか?」と、言いたいですが、まるで抵抗感がなくなってしまっているようです。
それはまるで自分たちをみているようでした。それはブラック企業に勤めていても会社に文句を言えば例え正論であっても、反抗者として上司からレッテルを貼られいじめにあい、厳しい仕事ばかり押し付けられどんどん待遇が悪くなるので、文句を言えずに我慢するサラリーマンのようです。
私の上司はそんなタイプが多く、「文句をいう人間に嫌な仕事ばかりを回すようにしすると、終いには文句を言わなくなる」と言ってました。例えば労働時間が長いと文句を言えば、一番長くなる仕事を毎日まわすわけです。
結局何も言えなくなり、本心を隠しながら影で悪口を同僚と言い合ってお互いの傷口をなめあうしかないのです。給料をもらっていても、無抵抗の奴隷と何ら変わりません。
結局最後は、黒人奴隷のなかから、主人公一人だけが他の仲間の奴隷たちを残し助かるのですが、言い知れぬ後味の悪さ残ります。逃げのびただけで残された人達は何一つ変わらぬ地獄のような毎日がつづき、奴隷制度は何ら変わること無くあり続けます。
タイトルは直訳すれば「12年間の奴隷だった」ですが、南部の奴隷たちは12年間では済まないのです。
◆バプティスト派聖職者ウィリアム・フォード (ベネディクト・カンバーバッチ)
南部では聖職者でありながらも、この制度を利用し黒人を売買し労働力としている人もいました。彼もまたその中の一人で奴隷市場で、全裸の黒人たちの姿に眉をひそめることもなく、まるで自分の服を買うように黒人を品定めして買っていきます。
「すべてを救うのが神であるのなら、黒人も救われなければならいが、南部では神の前で白人が罪人とならないように整合性を持たせるために黒人は人間では無いと教えられていた。」町山智浩
奴隷制度自体間違っていると気づいていても法律である以上何も言えない人でした。また、ソロモンには教養が有りもともとは奴隷でないことに気づいていましたが、助けないばかりか、自分の借金の清算のために早々に他の雇い主エドウィンに売り渡してしまいます。
聖書を奴隷たちに読んで聞かせていたのはそんな無力な自分が出来る最低限の罪滅ぼしなのかも知れません。
「フォードが一番苦悩するのは合法とはいえエップスにソロモンを引き渡す時だ。自分の借金の清算のためにね。これはローンの抵当権みたいなものだけど本物の人間を担保にする。借金の代わりにね。ひどいことだ。彼はライオンに聖者を差し出すんだ。しかも 自分が何をしたのか理解しているからとても苦しむ。でもやめないんだそこが境界線だ。彼がどんなに良い人間でも
罪だと知りながら目をつぶるなら、彼は真に善人ではない。21世紀の目で彼を裁くのは簡単だ ソロモンに同情するのも容易い。彼の置かれた環境とかね。でも客観的に言えばあの時代に人間の良心を見つけるのは難しい」べネディクト・カンバーバッチ
◆農園主エドウィン・エップス (マイケル・ファスベンダー)
エップスはパッツィーに夜這いなどをしていましたが奴隷は家畜だと考えていたので葛藤します。当然奥さんは気づいており、自分よりも奴隷に心うばわれる屈辱と嫉妬でパッツィーに辛く当たります。
「アメリカの黒人の男性の65%に白人の血が混ざっているらしい つまり大農園で どれほどレイプが横行していたかってことだ」マイケル・ファスベンダー
ある日パッツィーがショー婦人から石鹸をもらいのきましたが、逃げたと勘違いしたエップスは無断でショーの屋敷に行った罰を与えようとし服を脱がせて木に縛り付けた。そこへタイミングよく奥さんが登場します。彼は自らの手でムチを打とうとしますがなかなか出来ませんが、ここぞとばかりに奥さんが「Do it 死ぬまで打つのよ」とせかします。
しかし、自分では打てないのでそばにいたソロモンに命じますが、手加減をするソロモンに業を煮やし自らの手でムチを打ちます。
ソロモン「人でなしめ・・いつか・・・永遠の正義によって汝の罪は裁かれる」
エップス「罪だと? これは罪じゃない 所有物で遊んでるんだ 今私はすごく楽しいんだ これ以上気の晴れる遊びはない」
◆アメリカ南部
アメリカ南部はキリスト教徒が多く集中していて、福音主義またはキリスト教根本主義のプロテスタント(特にバプテスト、そしてまたメソジストや長老派など)が普及しており、南部を「バイブル・ベルト」として呼ぶ由縁になっています。
南部の法律では黒人を殺してもペットを殺す罪と同じだった。
奴隷主が自分の奴隷を殺すのは自由だった。人権などまったくない。
奴隷の売買は高く売れたので子どもを生ませて売り払っていた。
病院も獣医に連れて行く。
こんなことが200年間もずっと続けられていた 町山智浩
◆その後のアメリカ
南北戦争に負けて奴隷制度が廃止になりましたが南部では根強い人種差別が残っており1890年にルイジアナ州は、黒人と白人で鉄道車両を分離する人種差別法案を可決しました。
キング牧師などを中心に行われた公民権運動により1964年7月2日の公民権法(人権法)制定まで黒人には選挙権も与えられませんでした。
◆何故黒人奴隷の記録が少ないのか?
南部では奴隷に字を教えなかったので、自ら記録を残す人がいなかった。
又、映画の最後でその後のソロモンに触れられていますが、大方が殺されたと考えられています。
※まだ書き足りないですが、書き疲れたので随時追加していきます。
※今回この記事を書くにあたり初めて町山さんの記事を参考にさせてもらいましたが、流石にアメリカに住んでいるだけあって詳しいですね。奴隷制度に対する知識を広めることができました。あの○○映画実写版進撃の巨人の町山さんと同じ方とは思えません。
ブリッジ・オブ・スパイBridge of Spies 2015年公開作品
監督 スティーヴン・スピルバーグ
制作 スティーヴン・スピルバーグ
原作 Bard Lindeman小説Strangers on a Bridge
脚本 マット・チャーマン コーエン兄弟
主演 トム・ハンクス マーク・ライランス
完成度 ★★★★★ 98点! 一念岩をも通す! スピルバーク監督の最高傑作か?
必要な知識 東西冷戦という歴史的な背景
※この作品見た人やこれから見るという人のコメントいただけると嬉しいです。
<ストーリー>
1950年台~60年台のアメリカとソ連の核戦争の危機にある冷戦のさなかが舞台
保険関連の敏腕弁護士ジェームズ・ドノヴァン(トム・ハンクス)の元へ、ソ連から送り込まれたスパイとして捕まった画家、ルドルフ・アベル(マーク・ライランス)の弁護の依頼がきた。
法曹協会から選出で有る。「どんな人間でも平等に裁判を受ける権利」をアメリカ国民に見せるため弁護士の義務として引き受けることになる。スパイの弁護などしたことが無いし、本来は保険の弁護士だ。この弁護を受けるとなると売国奴として全アメリカ人を敵に回すようなものだ。当然頑張れば頑張るほど世間の冷たい目が注がれていき家族にまで被害が及ぶ可能性がある。しかし彼は彼の信念に従い貫こうとする。ドノヴァンはアベルと接していくうちに、死をも恐れず祖国を裏切ること無く秘密を貫くアベルの姿勢に心動かされていく。果たして裁判の行方はどうなるのか?物語は意外な展開を示してゆく(半)
◆スピルバーグ監督
スピルバーグ作品の特徴として、無名の人物でありながら時代の雰囲気に流されずにしっかりした信念を持って取り組んでいるヒーローにスポットライトが当てられ、弱い立場の人が救われていきます。この作品は民間のたった一人の弁護士の「一念岩をも通す」という信念の物語です。
スピルバーグ監督といえば特撮娯楽映画監督のイメージが強いですが、「シンドラーのリスト」や「プライベート・ライアン」など、シリアスな歴史物に挑戦して特撮監督から何でも出来る監督になりました。スピルバーグ自身もシリアル路線は監督としての使命感で作っていると語っており、この作品は娯楽要素のない本気度100%のシリアスな作品です。
まるでシリアスなジョン・レノンと娯楽のポール・マッカートニーの作品のように作品を撮り分けている凄い監督ですね。
◆熟練の映画づくり
この作品のブレること無い重厚なカメラワークは大船に乗っているような安定感があります、尚且つ美しい。東西ドイツの壁を挟んでたった数メートルなのに右と左と全く違う空気感を見事に映像化、キューブリック亡き後、ここまでしっかりした映像を撮れる監督はいないかもしれません。名実ともにアメリカを代表する監督です。
しかし、この作品の肝はストーリーです。ドノヴァンの実話をマット・チャーマンが持ち込みストーリーをつくり、それを元に 必殺のコーエン兄弟が脚本をブラシアップさせています。実話なのに本当に素晴らしい非の打ち所のないストーリーで良く仕上がっており関心します。
◆燕よ教えておくれ地上の星を
ヒーローというとアイアンマンやスーパーマン等を思い浮かべますが、本当のヒーローは歴史の中に埋もれていたました。私はこの話はまったく知らなかったのでこの作品に出会えてよかったと思います。
ジョン・レノンもそうなのですが、戦争の危機や戦争中は全国民が拳を振り上げているわけで、そんな中、平和を叫んだり、この作品のように、スパイを弁護するという事は大変勇気のある行動だと思いますし、最後まで貫く強い信念はただただ敬服するばかりです。
弁護士というと、金のためにはどんな人間でも本心ではその人を否定していようとも弁護する嘘つきで悪どい商売で黒いものまで白いと言い張るイメージがありますが、ドノヴァンの弁護は本当に感動させられます。どう見ても野心やお金のためだけに戦っているとは思えません。判事にまで「不毛な仕事をする勇気は尊敬するが、裁判はあくまでも形式的なものだ、有能な弁護士がついていても、被告には有罪判決がくだされる だから頼む 私の法廷で物事を長引かせるな」といわれてしまいます。
◆アカデミー賞
ルドルフ・アベル役のマーク・ライランスが助演男優賞に選ばれました。
アカデミー賞ノミネート 作品賞/美術賞/脚本賞/作曲賞/録音賞
トム・ハンクスは選ばれませんでした 彼の演技はもちろん大好きで素晴らしいですが、演技というよりハンクスそのものといった感じがしました。
◆ネタバレを含む感想など(鑑賞後見てね)
◆名台詞
CIAの捜査官がドノヴァンに国の危機だから弁護士の守秘義務を無視して情報を提供しろとせまる。
「ホフマン捜査官だな?ドイツ系だ
ドノヴァンはアイルランド系 父も母も そうだ
私はアイルランド 君はドイツ 我々を”米国人”と規定するものは1つだけ
規則だ つまり”憲法”・・・・ 規則に同意し 我々は米国人となる
だから”規則はない”と言うな」
※アメリカは人種のるつぼ移民の国、世界各地からいろいろな民族が集まって出来た国なので、日本人のように単一民族ではない、どこから来ようがアメリカという土地に住んでいるだけでアメリカ人なのだ。考え方も育ちも違う人たちの集まりを唯一アメリカ人としてつなぎ留め規定しているもの・・それは憲法です。それが守れないのならアメリカ人と呼べるのか?彼は冷戦さなかでもその信念を世間の感情に流されること無く貫いている。
◆スパイの末路
捕まってしまったスパイの国家による奪還は、命を賭して任務を全うしたその代償として行われるものではなくスパイのもっている情報の漏洩を防ぐのが目的です。
また、国家はスパイの存在を認めないのでこの交渉は一般民間人にまかされたのです。
スパイ交換時にドノヴァンがアベルに帰国後の彼を心配して尋ねるシーン
帰国したらどうなる?
>たぶん・・・ウォッカを飲む
ルドルフ 可能性として・・・
>同胞が私を射殺するか?
そうだ
不安は?
>役に立つか?
>今の質問に答えよう
>私は忠誠を守った 彼らも知っている
>だが 時に人は間違う 仕方がない 私の迎え方で分かる
どうやって?
>私を抱擁するか 後ろの席に座らせるだけか
◆クライマックスシーンでのドノヴァンとアベルの友情
グリーニッケ橋の上でお互いのスパイを確認し、今まさに交換が行われようとしていたが、東ドイツでもうひとりのスパイ容疑で捕まった若者の返還が行われるはずがまだその場所に現れない・・・
ソ連側は「取引をしないのなら帰るぞ」と催促をする
功を焦るCIA局員は「私が責任者だから行っていい」とアベルに促す
ソ連側が帰ってしまえば全ての取引が白紙に戻されてしまう。
アベルは約30mも歩けば全てが終わるのに、彼はドノバンの主張通りもう一人を待つと告げる。
アベルはここに来るまで留置されておりドノヴァンの力によってここまで辿りつけた事は知る由もないが、自分のために骨を折ってくれたドノバンの仕事を一瞬で見抜いたのだった。彼はドノバン並みの堅物なのだ。
その後、東ドイツで青年の確保が確認されると、アベルは別れ際に「君に贈り物をした 絵なんだ 記念になればいいが」という。
突然の贈り物に何も用意していないので「すまない 私からは何も・・・」とドノバンは答えた。すかさず「これが贈り物だ あなたからの」と取引自体をさして言った。
お互いのスパイの交換が終了しドノバンはひとり橋に残りアベルを見守っていた。抱擁か後部座席か・・・・
橋を照らしていたライトが一斉に落ちた・・・・
◆もう一人のスパイの末路
ドノヴァンと一緒に開放された米国側スパイのゲイリー・パワーズが帰路につく飛行機の中で、責任者のCIA局員に感謝の意を捧げ握手を求めるが無視されてしまう。彼にとっては失敗したスパイの為の尻拭いの仕事でしかないのだ。軍の人間も彼から距離を取るように離れたところに座っている。
不安になったパワーズが心配になってドノヴァンに「何も喋っていない 何もだ」
ドノヴァンは「気にするな 人がどう思おうと 自分が確かなら」と励まします。その言葉はドノヴァン自身の強い信念であり生き方そのものでした。
パワーズがアメリカに帰国したとき、アメリカ国内ではパワーズは撃墜後にソ連側に逮捕される前にU-2機密情報や偵察写真、部品を自爆装置を用いて処分することを怠ったという非難が起きた。 wikiより
◆ドノバンの見た2つの壁
東ドイツに渡ったドノバンは電車の窓から壁を越えようとして射殺される人を見る。
アメリカに戻り電車の窓から子供たちが遊びながら自由に壁を越える場面を目撃する。
◆ドノヴァンの功績
1つは、ソ連のスパイであるアベルの弁護(当時34才)
2つ目は、アメリカ人のスパイでソ連に捕まっているゲイリー・パワーズの開放と東ドイツで捕まった学生フレデリック・プライヤーの開放
一人のスパイで2つの政府と同時交渉しふたりを開放するという離れ業を成し遂げる
映画では2つのストーリーを主軸にしていますがなんと彼はその後キューバのカストロ議長と交渉し医薬品の提供との交換条件で1113人の捕虜を開放しています。
続編が作られてもまったく不思議ではないですね。
53才の若さで心臓発作で亡くなっています。(トム・ハンクスは2016年現在59才)
◆タイトルブリッジ・オブ・スパイに託された意味
1つは文字通りの場所としての橋。
もう一つは国と国とが争っているさなか、憎まれ役となりながらも2つの国をつなぐ架け橋的な役割をドノヴァンは担った。
◆拳を振りかざす国民よりひとりの弁護士
結局、非国民としてドノバンを糾弾していた国民達よりも、民間のたったひとりの弁護士ほうが大きい働きをしているという話です。


監督 スティーヴン・スピルバーグ
制作 スティーヴン・スピルバーグ
原作 Bard Lindeman小説Strangers on a Bridge
脚本 マット・チャーマン コーエン兄弟
主演 トム・ハンクス マーク・ライランス
完成度 ★★★★★ 98点! 一念岩をも通す! スピルバーク監督の最高傑作か?
必要な知識 東西冷戦という歴史的な背景
※この作品見た人やこれから見るという人のコメントいただけると嬉しいです。
<ストーリー>
1950年台~60年台のアメリカとソ連の核戦争の危機にある冷戦のさなかが舞台
保険関連の敏腕弁護士ジェームズ・ドノヴァン(トム・ハンクス)の元へ、ソ連から送り込まれたスパイとして捕まった画家、ルドルフ・アベル(マーク・ライランス)の弁護の依頼がきた。
法曹協会から選出で有る。「どんな人間でも平等に裁判を受ける権利」をアメリカ国民に見せるため弁護士の義務として引き受けることになる。スパイの弁護などしたことが無いし、本来は保険の弁護士だ。この弁護を受けるとなると売国奴として全アメリカ人を敵に回すようなものだ。当然頑張れば頑張るほど世間の冷たい目が注がれていき家族にまで被害が及ぶ可能性がある。しかし彼は彼の信念に従い貫こうとする。ドノヴァンはアベルと接していくうちに、死をも恐れず祖国を裏切ること無く秘密を貫くアベルの姿勢に心動かされていく。果たして裁判の行方はどうなるのか?物語は意外な展開を示してゆく(半)
◆スピルバーグ監督
スピルバーグ作品の特徴として、無名の人物でありながら時代の雰囲気に流されずにしっかりした信念を持って取り組んでいるヒーローにスポットライトが当てられ、弱い立場の人が救われていきます。この作品は民間のたった一人の弁護士の「一念岩をも通す」という信念の物語です。
スピルバーグ監督といえば特撮娯楽映画監督のイメージが強いですが、「シンドラーのリスト」や「プライベート・ライアン」など、シリアスな歴史物に挑戦して特撮監督から何でも出来る監督になりました。スピルバーグ自身もシリアル路線は監督としての使命感で作っていると語っており、この作品は娯楽要素のない本気度100%のシリアスな作品です。
まるでシリアスなジョン・レノンと娯楽のポール・マッカートニーの作品のように作品を撮り分けている凄い監督ですね。
◆熟練の映画づくり
この作品のブレること無い重厚なカメラワークは大船に乗っているような安定感があります、尚且つ美しい。東西ドイツの壁を挟んでたった数メートルなのに右と左と全く違う空気感を見事に映像化、キューブリック亡き後、ここまでしっかりした映像を撮れる監督はいないかもしれません。名実ともにアメリカを代表する監督です。
しかし、この作品の肝はストーリーです。ドノヴァンの実話をマット・チャーマンが持ち込みストーリーをつくり、それを元に 必殺のコーエン兄弟が脚本をブラシアップさせています。実話なのに本当に素晴らしい非の打ち所のないストーリーで良く仕上がっており関心します。
◆燕よ教えておくれ地上の星を
ヒーローというとアイアンマンやスーパーマン等を思い浮かべますが、本当のヒーローは歴史の中に埋もれていたました。私はこの話はまったく知らなかったのでこの作品に出会えてよかったと思います。
ジョン・レノンもそうなのですが、戦争の危機や戦争中は全国民が拳を振り上げているわけで、そんな中、平和を叫んだり、この作品のように、スパイを弁護するという事は大変勇気のある行動だと思いますし、最後まで貫く強い信念はただただ敬服するばかりです。
弁護士というと、金のためにはどんな人間でも本心ではその人を否定していようとも弁護する嘘つきで悪どい商売で黒いものまで白いと言い張るイメージがありますが、ドノヴァンの弁護は本当に感動させられます。どう見ても野心やお金のためだけに戦っているとは思えません。判事にまで「不毛な仕事をする勇気は尊敬するが、裁判はあくまでも形式的なものだ、有能な弁護士がついていても、被告には有罪判決がくだされる だから頼む 私の法廷で物事を長引かせるな」といわれてしまいます。
◆アカデミー賞
ルドルフ・アベル役のマーク・ライランスが助演男優賞に選ばれました。
アカデミー賞ノミネート 作品賞/美術賞/脚本賞/作曲賞/録音賞
トム・ハンクスは選ばれませんでした 彼の演技はもちろん大好きで素晴らしいですが、演技というよりハンクスそのものといった感じがしました。
◆ネタバレを含む感想など(鑑賞後見てね)
◆名台詞
CIAの捜査官がドノヴァンに国の危機だから弁護士の守秘義務を無視して情報を提供しろとせまる。
「ホフマン捜査官だな?ドイツ系だ
ドノヴァンはアイルランド系 父も母も そうだ
私はアイルランド 君はドイツ 我々を”米国人”と規定するものは1つだけ
規則だ つまり”憲法”・・・・ 規則に同意し 我々は米国人となる
だから”規則はない”と言うな」
※アメリカは人種のるつぼ移民の国、世界各地からいろいろな民族が集まって出来た国なので、日本人のように単一民族ではない、どこから来ようがアメリカという土地に住んでいるだけでアメリカ人なのだ。考え方も育ちも違う人たちの集まりを唯一アメリカ人としてつなぎ留め規定しているもの・・それは憲法です。それが守れないのならアメリカ人と呼べるのか?彼は冷戦さなかでもその信念を世間の感情に流されること無く貫いている。
◆スパイの末路
捕まってしまったスパイの国家による奪還は、命を賭して任務を全うしたその代償として行われるものではなくスパイのもっている情報の漏洩を防ぐのが目的です。
また、国家はスパイの存在を認めないのでこの交渉は一般民間人にまかされたのです。
スパイ交換時にドノヴァンがアベルに帰国後の彼を心配して尋ねるシーン
帰国したらどうなる?
>たぶん・・・ウォッカを飲む
ルドルフ 可能性として・・・
>同胞が私を射殺するか?
そうだ
不安は?
>役に立つか?
>今の質問に答えよう
>私は忠誠を守った 彼らも知っている
>だが 時に人は間違う 仕方がない 私の迎え方で分かる
どうやって?
>私を抱擁するか 後ろの席に座らせるだけか
◆クライマックスシーンでのドノヴァンとアベルの友情
グリーニッケ橋の上でお互いのスパイを確認し、今まさに交換が行われようとしていたが、東ドイツでもうひとりのスパイ容疑で捕まった若者の返還が行われるはずがまだその場所に現れない・・・
ソ連側は「取引をしないのなら帰るぞ」と催促をする
功を焦るCIA局員は「私が責任者だから行っていい」とアベルに促す
ソ連側が帰ってしまえば全ての取引が白紙に戻されてしまう。
アベルは約30mも歩けば全てが終わるのに、彼はドノバンの主張通りもう一人を待つと告げる。
アベルはここに来るまで留置されておりドノヴァンの力によってここまで辿りつけた事は知る由もないが、自分のために骨を折ってくれたドノバンの仕事を一瞬で見抜いたのだった。彼はドノバン並みの堅物なのだ。
その後、東ドイツで青年の確保が確認されると、アベルは別れ際に「君に贈り物をした 絵なんだ 記念になればいいが」という。
突然の贈り物に何も用意していないので「すまない 私からは何も・・・」とドノバンは答えた。すかさず「これが贈り物だ あなたからの」と取引自体をさして言った。
お互いのスパイの交換が終了しドノバンはひとり橋に残りアベルを見守っていた。抱擁か後部座席か・・・・
橋を照らしていたライトが一斉に落ちた・・・・
◆もう一人のスパイの末路
ドノヴァンと一緒に開放された米国側スパイのゲイリー・パワーズが帰路につく飛行機の中で、責任者のCIA局員に感謝の意を捧げ握手を求めるが無視されてしまう。彼にとっては失敗したスパイの為の尻拭いの仕事でしかないのだ。軍の人間も彼から距離を取るように離れたところに座っている。
不安になったパワーズが心配になってドノヴァンに「何も喋っていない 何もだ」
ドノヴァンは「気にするな 人がどう思おうと 自分が確かなら」と励まします。その言葉はドノヴァン自身の強い信念であり生き方そのものでした。
パワーズがアメリカに帰国したとき、アメリカ国内ではパワーズは撃墜後にソ連側に逮捕される前にU-2機密情報や偵察写真、部品を自爆装置を用いて処分することを怠ったという非難が起きた。 wikiより
◆ドノバンの見た2つの壁
東ドイツに渡ったドノバンは電車の窓から壁を越えようとして射殺される人を見る。
アメリカに戻り電車の窓から子供たちが遊びながら自由に壁を越える場面を目撃する。
◆ドノヴァンの功績
1つは、ソ連のスパイであるアベルの弁護(当時34才)
2つ目は、アメリカ人のスパイでソ連に捕まっているゲイリー・パワーズの開放と東ドイツで捕まった学生フレデリック・プライヤーの開放
一人のスパイで2つの政府と同時交渉しふたりを開放するという離れ業を成し遂げる
映画では2つのストーリーを主軸にしていますがなんと彼はその後キューバのカストロ議長と交渉し医薬品の提供との交換条件で1113人の捕虜を開放しています。
続編が作られてもまったく不思議ではないですね。
53才の若さで心臓発作で亡くなっています。(トム・ハンクスは2016年現在59才)
◆タイトルブリッジ・オブ・スパイに託された意味
1つは文字通りの場所としての橋。
もう一つは国と国とが争っているさなか、憎まれ役となりながらも2つの国をつなぐ架け橋的な役割をドノヴァンは担った。
◆拳を振りかざす国民よりひとりの弁護士
結局、非国民としてドノバンを糾弾していた国民達よりも、民間のたったひとりの弁護士ほうが大きい働きをしているという話です。




