監督 スティーヴン・スピルバーグ
制作 スティーヴン・スピルバーグ
原作 Bard Lindeman小説Strangers on a Bridge
脚本 マット・チャーマン コーエン兄弟
主演 トム・ハンクス マーク・ライランス
完成度 ★★★★★ 98点! 一念岩をも通す! スピルバーク監督の最高傑作か?
必要な知識 東西冷戦という歴史的な背景
※この作品見た人やこれから見るという人のコメントいただけると嬉しいです。
<ストーリー>
1950年台~60年台のアメリカとソ連の核戦争の危機にある冷戦のさなかが舞台
保険関連の敏腕弁護士ジェームズ・ドノヴァン(トム・ハンクス)の元へ、ソ連から送り込まれたスパイとして捕まった画家、ルドルフ・アベル(マーク・ライランス)の弁護の依頼がきた。
法曹協会から選出で有る。「どんな人間でも平等に裁判を受ける権利」をアメリカ国民に見せるため弁護士の義務として引き受けることになる。スパイの弁護などしたことが無いし、本来は保険の弁護士だ。この弁護を受けるとなると売国奴として全アメリカ人を敵に回すようなものだ。当然頑張れば頑張るほど世間の冷たい目が注がれていき家族にまで被害が及ぶ可能性がある。しかし彼は彼の信念に従い貫こうとする。ドノヴァンはアベルと接していくうちに、死をも恐れず祖国を裏切ること無く秘密を貫くアベルの姿勢に心動かされていく。果たして裁判の行方はどうなるのか?物語は意外な展開を示してゆく(半)
◆スピルバーグ監督
スピルバーグ作品の特徴として、無名の人物でありながら時代の雰囲気に流されずにしっかりした信念を持って取り組んでいるヒーローにスポットライトが当てられ、弱い立場の人が救われていきます。この作品は民間のたった一人の弁護士の「一念岩をも通す」という信念の物語です。
スピルバーグ監督といえば特撮娯楽映画監督のイメージが強いですが、「シンドラーのリスト」や「プライベート・ライアン」など、シリアスな歴史物に挑戦して特撮監督から何でも出来る監督になりました。スピルバーグ自身もシリアル路線は監督としての使命感で作っていると語っており、この作品は娯楽要素のない本気度100%のシリアスな作品です。
まるでシリアスなジョン・レノンと娯楽のポール・マッカートニーの作品のように作品を撮り分けている凄い監督ですね。
◆熟練の映画づくり
この作品のブレること無い重厚なカメラワークは大船に乗っているような安定感があります、尚且つ美しい。東西ドイツの壁を挟んでたった数メートルなのに右と左と全く違う空気感を見事に映像化、キューブリック亡き後、ここまでしっかりした映像を撮れる監督はいないかもしれません。名実ともにアメリカを代表する監督です。
しかし、この作品の肝はストーリーです。ドノヴァンの実話をマット・チャーマンが持ち込みストーリーをつくり、それを元に 必殺のコーエン兄弟が脚本をブラシアップさせています。実話なのに本当に素晴らしい非の打ち所のないストーリーで良く仕上がっており関心します。
◆燕よ教えておくれ地上の星を
ヒーローというとアイアンマンやスーパーマン等を思い浮かべますが、本当のヒーローは歴史の中に埋もれていたました。私はこの話はまったく知らなかったのでこの作品に出会えてよかったと思います。
ジョン・レノンもそうなのですが、戦争の危機や戦争中は全国民が拳を振り上げているわけで、そんな中、平和を叫んだり、この作品のように、スパイを弁護するという事は大変勇気のある行動だと思いますし、最後まで貫く強い信念はただただ敬服するばかりです。
弁護士というと、金のためにはどんな人間でも本心ではその人を否定していようとも弁護する嘘つきで悪どい商売で黒いものまで白いと言い張るイメージがありますが、ドノヴァンの弁護は本当に感動させられます。どう見ても野心やお金のためだけに戦っているとは思えません。判事にまで「不毛な仕事をする勇気は尊敬するが、裁判はあくまでも形式的なものだ、有能な弁護士がついていても、被告には有罪判決がくだされる だから頼む 私の法廷で物事を長引かせるな」といわれてしまいます。
◆アカデミー賞
ルドルフ・アベル役のマーク・ライランスが助演男優賞に選ばれました。
アカデミー賞ノミネート 作品賞/美術賞/脚本賞/作曲賞/録音賞
トム・ハンクスは選ばれませんでした 彼の演技はもちろん大好きで素晴らしいですが、演技というよりハンクスそのものといった感じがしました。
◆ネタバレを含む感想など(鑑賞後見てね)
◆名台詞
CIAの捜査官がドノヴァンに国の危機だから弁護士の守秘義務を無視して情報を提供しろとせまる。
「ホフマン捜査官だな?ドイツ系だ
ドノヴァンはアイルランド系 父も母も そうだ
私はアイルランド 君はドイツ 我々を”米国人”と規定するものは1つだけ
規則だ つまり”憲法”・・・・ 規則に同意し 我々は米国人となる
だから”規則はない”と言うな」
※アメリカは人種のるつぼ移民の国、世界各地からいろいろな民族が集まって出来た国なので、日本人のように単一民族ではない、どこから来ようがアメリカという土地に住んでいるだけでアメリカ人なのだ。考え方も育ちも違う人たちの集まりを唯一アメリカ人としてつなぎ留め規定しているもの・・それは憲法です。それが守れないのならアメリカ人と呼べるのか?彼は冷戦さなかでもその信念を世間の感情に流されること無く貫いている。
◆スパイの末路
捕まってしまったスパイの国家による奪還は、命を賭して任務を全うしたその代償として行われるものではなくスパイのもっている情報の漏洩を防ぐのが目的です。
また、国家はスパイの存在を認めないのでこの交渉は一般民間人にまかされたのです。
スパイ交換時にドノヴァンがアベルに帰国後の彼を心配して尋ねるシーン
帰国したらどうなる?
>たぶん・・・ウォッカを飲む
ルドルフ 可能性として・・・
>同胞が私を射殺するか?
そうだ
不安は?
>役に立つか?
>今の質問に答えよう
>私は忠誠を守った 彼らも知っている
>だが 時に人は間違う 仕方がない 私の迎え方で分かる
どうやって?
>私を抱擁するか 後ろの席に座らせるだけか
◆クライマックスシーンでのドノヴァンとアベルの友情
グリーニッケ橋の上でお互いのスパイを確認し、今まさに交換が行われようとしていたが、東ドイツでもうひとりのスパイ容疑で捕まった若者の返還が行われるはずがまだその場所に現れない・・・
ソ連側は「取引をしないのなら帰るぞ」と催促をする
功を焦るCIA局員は「私が責任者だから行っていい」とアベルに促す
ソ連側が帰ってしまえば全ての取引が白紙に戻されてしまう。
アベルは約30mも歩けば全てが終わるのに、彼はドノバンの主張通りもう一人を待つと告げる。
アベルはここに来るまで留置されておりドノヴァンの力によってここまで辿りつけた事は知る由もないが、自分のために骨を折ってくれたドノバンの仕事を一瞬で見抜いたのだった。彼はドノバン並みの堅物なのだ。
その後、東ドイツで青年の確保が確認されると、アベルは別れ際に「君に贈り物をした 絵なんだ 記念になればいいが」という。
突然の贈り物に何も用意していないので「すまない 私からは何も・・・」とドノバンは答えた。すかさず「これが贈り物だ あなたからの」と取引自体をさして言った。
お互いのスパイの交換が終了しドノバンはひとり橋に残りアベルを見守っていた。抱擁か後部座席か・・・・
橋を照らしていたライトが一斉に落ちた・・・・
◆もう一人のスパイの末路
ドノヴァンと一緒に開放された米国側スパイのゲイリー・パワーズが帰路につく飛行機の中で、責任者のCIA局員に感謝の意を捧げ握手を求めるが無視されてしまう。彼にとっては失敗したスパイの為の尻拭いの仕事でしかないのだ。軍の人間も彼から距離を取るように離れたところに座っている。
不安になったパワーズが心配になってドノヴァンに「何も喋っていない 何もだ」
ドノヴァンは「気にするな 人がどう思おうと 自分が確かなら」と励まします。その言葉はドノヴァン自身の強い信念であり生き方そのものでした。
パワーズがアメリカに帰国したとき、アメリカ国内ではパワーズは撃墜後にソ連側に逮捕される前にU-2機密情報や偵察写真、部品を自爆装置を用いて処分することを怠ったという非難が起きた。 wikiより
◆ドノバンの見た2つの壁
東ドイツに渡ったドノバンは電車の窓から壁を越えようとして射殺される人を見る。
アメリカに戻り電車の窓から子供たちが遊びながら自由に壁を越える場面を目撃する。
◆ドノヴァンの功績
1つは、ソ連のスパイであるアベルの弁護(当時34才)
2つ目は、アメリカ人のスパイでソ連に捕まっているゲイリー・パワーズの開放と東ドイツで捕まった学生フレデリック・プライヤーの開放
一人のスパイで2つの政府と同時交渉しふたりを開放するという離れ業を成し遂げる
映画では2つのストーリーを主軸にしていますがなんと彼はその後キューバのカストロ議長と交渉し医薬品の提供との交換条件で1113人の捕虜を開放しています。
続編が作られてもまったく不思議ではないですね。
53才の若さで心臓発作で亡くなっています。(トム・ハンクスは2016年現在59才)
◆タイトルブリッジ・オブ・スパイに託された意味
1つは文字通りの場所としての橋。
もう一つは国と国とが争っているさなか、憎まれ役となりながらも2つの国をつなぐ架け橋的な役割をドノヴァンは担った。
◆拳を振りかざす国民よりひとりの弁護士
結局、非国民としてドノバンを糾弾していた国民達よりも、民間のたったひとりの弁護士ほうが大きい働きをしているという話です。

