『病を引き受けられない人々のケア』×養老孟司 | くらえもんの気ままに独り言

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 今回石井均氏の『病を引き受けられない人々のケア』(医学書院)の第2回目をお送りしたいと思います。


本書はコチラ
病を引き受けられない人々のケア: 「聴く力」「続ける力」「待つ力」

石井 均 著

http://www.amazon.co.jp/dp/4260020919/


前回までの話はコチラ


第1回 ×河合隼雄

http://ameblo.jp/claemonstar/entry-12005136664.html


 今回、石井氏が対談した相手は解剖学者で『バカの壁』がベストセラーになったことでも知られる養老孟司氏でございます。糖尿病についての専門家と非専門家の二人の話はどんなものになったのでしょうか。


 それではさっそく見てみたいと思います。


「先生はそう言うけど、私、調子がいいんだ」


養老「都市化していくと、感覚機能が落ちるのです。(P50)」


 人間の感覚能力は文明の発達とともに退化していってしまっているというわけですね。視覚も聴覚も味覚もということでしょうか。高度な感覚能力の必要性がなくなっていっていますので、特に退化していっても人々は困っていないようです。味覚が鈍磨した結果、濃い味のものを好むようになっているようです。


 日本においてデフレ不況が長年続いておりますが、物は比較的充足しておりますし、飢え死にするケースも諸外国に比べればかなり低いというわけで、不況に対して鈍感になっているのかもしれません。それを不況と呼ぶかは別の話ですが。


養老「感覚を、ある意味でできるだけ貧弱にしていかないと、人間の社会に適応することは非常に難しい。(P54)」


 都市化された社会では意識・言葉に重点が置かれ、そちらの方が発達する一方で感覚の方が退化していったわけですね。問題は感覚の方が退化していったという事実に気づいていないことですが。


養老「日本の糖尿病人口を考えたら、これはある種の適応形態ですよね。(P55)」


 現在の環境に対し、糖尿病患者は糖尿病になることによって適応したというわけですね。もしかしたら、その人にとっては糖尿病というものにメリットがあったのかもしれません。(例えば、自力で動けないほどの巨漢になってしまっていたとか。)


 以前、糖尿病と金利の関係について書いたことがありますが、金利だって環境によって上がったり下がったり適応していくわけで、現在の低金利も適応形態というわけですね。


養老「ところが、(苦痛を)感じない病気があるというけれども、それは病気じゃないんじゃないか、そういう人生もあるということじゃないかなと思うのです。(P55)」


 糖尿病とは疫学、統計学によって糖尿病と非糖尿病の境界線が引かれているタイプの病気ですからね。境界線なるものはもともとは存在しなかったのですが。実際に糖尿病と診断されても自分が病気だとは思っていない方は結構いらっしゃるようです。


養老「いまの医療の問題点は、患者さんの人生に対する必然性を与えることなく、医学的必然性で押すこと。(P57)」


 医学的必然性とは寿命が延びることはよいこと。疾患リスクが減ることはよいこと。ということが前提に置かれたうえで医療者側は治療を進めてきます。わずかな寿命延長、わずかな疾患リスクの低下のために患者側に多大な犠牲を要求しがちになったりするものです。


 おかげであなたは糖尿病だから食事制限や運動をしないといけないと言われてもピンとこないわけです。日本がデフレ不況で大変だから規制強化や公共事業をしないと言ってもピンとこない人がいるのと同様です。デフレ脱却して経済成長するのはよいことという前提が正しいのかどうかについても一度吟味した方がいいのかもしれません。


養老「おそらく「私の意識」と「私の身体」との関係を、同じように持っている、都会か田舎かわからない土地、ないしはそういう暮らし方がいいんじゃないか。(P58)」


 意識と身体の乖離、主観と客観の乖離といった問題に対し、個人のバランスに戻すしかそれを解決する方法はないということのようです。意識ばかりに集中するのでなく感覚を研ぎ澄ました無意識的な行動もとれるような環境、つまりどちらとも「ある」中庸なるものが大事というわけですね。


石井「われわれは、意識化をむしろ進めすぎて、矛盾を作りだしてしまった。(P61)」


 作り上げられた境界線が無数の葛藤とパラドックスを産み出し、その人に大きなストレスを与えてしまっているのですね。河合隼雄氏はそれらの矛盾を無意識に落としていく、養老氏は身体に落としていくという表現をとっていますが、本質的には同じことです(そうすることでバランスがとれるということです)。


養老「人間が、合理的にやることは良いことだと信じていることは、傲慢だと思います。(P63)」


 最善の努力をしたら最善の結果が出るという思い込みは禁物というわけですね。お互いの理解が違う場合には前提を少し戻したうえで話した方がよいと養老氏は言います。自分の信じ込んでいる前提が本当に正しいのかということから考えた方がよいのかもしれません。


養老「近代人は、相手の言い分を論理としてまず聞いて、自分の頭でその論理、言葉を繰り返して納得するというshemaを頭から信じているんじゃないか。(P64)」


 養老氏が言うには人間にはミラーニューロンなるものがあり、言葉は直に相手の脳に働くようです。つまり、人間は理屈でなく感情で言葉を理解しているということなのかもしれません。理屈で話す専門家の話を一般人が理解することができないというカラクリはどうやらこういうところにあるのかもしれません。


養老「変わらないうちはわかりませんよね。よく、「わかってない」って言うじゃないですか。(P66)」


 分かることによって変わるということがある一方、変わることによって分かるということもあります。分かってもらうためには変わってもらう必要があるわけで、理屈だけでなく、感情や身体、感覚を通して理解してもらうことが重要というわけですね。


 特にインターネット上の言論だと文字ばっかりで理屈っぽくなってしまいがちになりますが、理屈と感情の中庸をとっていけたらなと思います。そのようなコミュニケーションを通じて何かが変われば、伝えたい何かを分かってもらえるようになるのかもしれません


 仮に景気がよくなっているような統計データが顔を出したとしても、人々の実感として生活が苦しいのであれば、それは苦しいということなのでしょうし、逆もまた然りといったところですね。


 以上、第2回目でした。次回もいつになるか分かりませんがお楽しみに(^O^)/


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