”涙の女王”チェ・ジウが結婚・出産を経て7年ぶりのスクリーン復帰と聞いて…それよりも「奇談」「ワーキング・ガール」「コンジアム」チョン・ボムシク監督の才能が煌めきまくる日本ドラマ発オムニバス風恐怖譚の金字塔だった…「ニューノーマル」

 

[物語は6つの章から成り、各章のタイトルは(主に)名サスペンス映画のタイトルから取られていますが、カッコ内にオリジナルと思われる作品を付記します] ニュースは父親殺しや猫殺し、若者失業や一人暮らし女性連続襲撃事件など暗いニュースを垂れ流している…【2日目 第1章 M(1931年 フリッツ・ラング)】ソウル、瀟洒なマンションに一人で住む美しいヒョンジョンは暗いニュースに顔をしかめる。そんな時ドアフォンが鳴り、中年男チュンフンが火災報知機の点検だと言う。男が入り込み報知器の点検を始めるが粘着質でいかにも怪しい。そして男が浴室に用を足しに入った隙にヒョンジョンは護身用のスタンガンを取り出し構えて待つが…【3日目 第2章 正しいことをせよ(”ドゥ・ザ・ライト・シング” 1989年 スパイク・リー)】高校受験を控える中学生スンジンがバス停でバスを待っていると、並木の窪地に車椅子の車輪を取られて往生している老婆が見える。スンジンは手助けを申し出て窪地から抜け出るが、その後も老婆はいかにも危うげだ。バスの到着まで時間もあり、スンジンは老婆を家まで送ることにするが…【1日目 第3章 ドレスド・トゥ・キル(”殺しのドレス” 1980年 ブライアン・デ・パルマ)】カフェでは、美しいヘギョンが或るマッチグアプリでマッチ率82%という男と向かい合っている。同じ店では、若いヒョンスがマッチ率88%という男を待っている。そしてヘギョンの飲み物を取りに男が席を外した時に…【3日目 第4章 いま会いに行きます(2004年 土井裕泰)】イケメンのフンが帰宅時、駅前の自販機でペット茶”松の目”を注文しようと財布を取り出すが、その時一枚の1万₩札がこぼれ落ち風で運ばれていったことに彼は気づかない。そして飲み物を取り出そうとすると取り出し口にはピンク色の可愛い封筒がある。開けていると1枚の千₩札と”あなたと知り合いたい”との手紙がある。一旦は悪戯だと元に戻したフンだが気になって手紙に書かれた道を歩き出すのが…【2日目 第5章 ピーピング・トム(”血を吸うカメラ” 1960年 マイケル・パウエル)】プータローでゲームオタクのキジンには日課がある。朝、隣の部屋から出勤する航空会社グランドスタッフ姿の美人を眺め、ドアの隙間からスマホでその美しい後ろ姿を盗撮するのだ。彼女への恋慕に悶々とするキジンはある日取り返しのつかない決断をする…【1日目 最終章 犬のような私の人生(”マイライフ・アズ・ア・ドッグ” 1985年 ラッセ・ハルストレム)】歌手への道を諦めたヨンジンは今夜もコンビニでバイトだ。そしていつもの酔っ払い中年男が精算の際にヨンジンにしつこく絡んでくる。怒りを必死にこらえるヨンジンは休憩時間に怪しげな掲示板を見るが、そこには”殺したい奴がいる”と投稿する”虹”という奴がいる。彼女は専門家を装い”虹”を挑発するのだが…

 

[登場人物は章を超えて様々に登場しますが各章の主要人物を中心にまとめます]【第1章】美貌の一人暮らしヒョンジョンに、『冬ソナ』での存在感は今も健在チェ・ジウ、火災報知器点検員チョンフンに、『チェオクの剣』以来ずっと応援する名優イ・ムンシク【第2章】心優しい中学生スンジンに、映画デビューのチョン・ドンウォン、弱々しい老婆キュヨンに、最近では「母との散歩」「オマージュ」が印象的名女優イ・ジュシル【第3章】アプリでマッチした男を待つヒョンスに、TVでブレイクしたようですが「フランス映画のように」「人質」など映画でも光るイ・ユミ、紹介された男と会うヘギョンに、見たことあるのに、と焦ったんですが何と相当ハマった<ヨジャチング(GFRIEND)>絶妙にキュートなチョン・イェリン【第4章】謎の手紙に操られる二枚目フンに、<シャイニー(SHINee)>チェ・ミノ【第5章】隣の美女に夢中なキジンに、<Block B>のメンバーだというピョ・ジフン、隣の部屋の美人ヘヨンに、「女高怪談5」「ヨガ学院」「パストライブス」などの美形ファン・スンオン【最終章】美貌のコンビニ店員ヨンジンに、殆ど情報が見つからないながら圧巻の美貌と存在感ハ・ダイン。

 

エンドクレジットを見るまで知りませんでしたが原作があって、2007~2009年フジTV系で6シーズン放映された連ドラ『トリハダ』から6つのエピソードを抜き出し映画用に再構成したようです(余談ですが、エンドクレジットにちゃんと”日本語”で原作を明示してあって、こういう配慮には滅法弱い!)。wikiによるとオリジナルには、幽霊は出ない、超常現象は起きない、など5つの約束事があるようで、本編も忠実に守っていると思われますが、それでも怖いし、巧いと思います。個々のエピソードが実に良く練られていますし、さらに多くの登場人物が章をまたがって登場し、さらに上に書いたように3日間の時制を前後させることで、この人物生きてたっけ?みたいな倒錯した心理効果も生み出し、それはそれで映画技術の粋と呼べるでしょう。役者も見事にはまっていますが、個人的には【第1章】チェ・ジウの透明感と新人ながら【最終章】ハ・ダインの退廃感には舌を巻きます。小道具の使い方も上手く、【第1章】掃除ロボット、【第2章】廃ビル、【第4章】1万₩札、【最終章】ヨンジンのスマホ待ち受け画面ゴヤ”我が子を食らうサトゥルヌス”とか颯爽と走る座席付き電動キックボード”Easy Vation Taurus(이지베이션 타우러스)”など実に洒落た使い方だと思います。

 

オリジナルの功績が大きいのはあるでしょうが、それを見事なオムニバス風恐怖譚に仕上げたチョン・ボムシク監督と演技陣の腕前には五つ星しか考えられないでしょう。ただ良く言及される、チェ・ジウの復帰作、ボーイズグループ二枚目陣の登場、みたいなノリだけで観ると結構メンタルに来る可能性は否定できないので、或る程度の心の準備は必要かもしれません。

 

楽曲について。【第5章】隣の美人が口ずさみエンドロール2曲目でも流れるのは「宝くじの不時着」でも言及した<Brave Girls(브레이브걸스)>「Rollin'(롤린)」をハン・ドングンがカバーした”sad ver.(悲しげ版)”、【最終章】ヨンジンが電動キックボードを颯爽と走らせるシーンとエンドロール1曲目は韓国インディーズバンド<新少年(새소년)>2017年「波(파도:波濤)」、エンドクレジット前のキャスト紹介で絶妙に流れるのは美形R&B歌手ミソ(미소)2020年「Alone」。余談ですが、この全員何かを食べたり飲んだりしているだけのキャスト紹介の部分だけでも一篇の映像詩として評価し得る美しい出来栄えだったりします。