これも全6話の配信ドラマとして作られながら、そのクオリティの高さからPart1、Part2として劇場公開されているので、しかもヒロインは何とチョン・ジョンソ…ソウルの郊外カピョン(加平)のホテルを舞台に臓器売買と地震による倒壊という極限状態を圧倒的な映像センスで贈るサバイバル・スリラーの大傑作…「身体の値段」

 

まずタイトルについてですが、ネットでは”身代金”もしくは英題から”バーゲン”と表記されていますが、ニュアンスが合わないので、正式タイトルが決まるまでは”身体の値段”と勝手に呼んでいることをご承知おき願います。

 

以下の”つかみ”部分ですが、映画の雰囲気を伝えるため全6エピソード(大体各30分程度)の内、”Ep.1 身体の値段”についてはほぼ最後まで記述しています。ネタバレ回避の観点でやり過ぎかもしれませんが、併せてご承知おき願います。

 

【Ep.1 身体の値段】ソウル郊外カピョン(加平)の派手なホテル、506号室。煙草を吹かすチュヨンを男が訪ねて来る。たどたどしい会話が続くが、男は、ネットを見て自称女子高生チュヨンの体目当てで金を握ってやってきた助平男ヒョンスだ。チュヨンが先にシャワーを浴びるように言うと、ヒョンスは赤いブリーフ一丁になって浴室に消える。するとチュヨンの携帯が鳴る。部屋を抜け出してチュヨンは電話に応えるが、今晩のもう一つの予約の電話だ。多数の若い女の子がたむろする控室に寄ってから506号室に戻ると、そこは多くの人間で一杯だ。そしてストレッチャーに縛り付けられた赤いブリーフ一丁のヒョンスを医者が部屋に運んでくる。これから始まるのはヒョンスのあらゆる臓器のオークションで、居並ぶのは臓器が欲しい入札者、オークションを仕切るのはチュヨンだ。まずは腎臓から競りが始まり、若い男クンニョルは病気の父親のため必死で入札するが、金が足りない。チュヨンのとりなしで自分の臓器を担保にローンを組み何とか落札するが、その時激しい地鳴りと共に、窓から大量の土砂が流れ込んでくる…物語は【Ep.2 刑事の腎臓】【Ep.3 70億】【Ep.4 パニックルーム】【Ep.5 銃・金・嘘】【Ep.6 ゼロ・サム】と続いていく…

 

自称チュンチョン(春川)中央警察署刑事ノ・ヒョンスに、もはや主演スターと呼んでも叱られないでしょうチン・ソンギュ、臓器オークションを仕切るパク・チュヨンに、「バーニング」「バレリーナ」など圧倒的な存在感チョン・ジョンソ、病気の父親のため何としても腎臓を手に入れたいコ・グンニョルに、脇役ではよく見ているはずのTVでは人気と聞く二枚目チャン・リュル、地下に蠢く死体処理人に、「暴露」などカン・ギルウ、入札人の一人で狂っていく祈祷女に、「毒戦」など独特の存在感イ・ジュヨン。特別出演では、エピローグの猟銃女に、「三姉妹」三女役などトップモデルのチャン・ユンジュ、その夫に、お馴染みヒョン・ボンシク。

 

大手コンテンツtvNの動画配信サービスTvingのオリジナルドラマ全6話を、前半3話をPart1、後半3話をPart2として劇場公開した作品のようですが、とにかくそのクオリティの高さには圧倒される出来栄えだと思います。まずは演出に触れねばならないでしょう。何とトータル3時間超え全6話の物語がワンカット撮影だということです。正確には、ヒッチコック「ロープ」でのフィルム交換みたいなタイミングを利用して何処かで繋いでいる筈なんですが、エピソードに跨る部分も前話に完全に繋がるカットから入るという念の入りようで、それだけで圧倒的な世界観を生み出していきます。共に五つ星ワンカット作品「マジシャンズ」「ある優しき殺人者の記録」をも凌駕する凄まじいチャレンジだと思います。そして脚本。臓器売買という残酷テーマから入りつつ、大地震により倒壊したホテルでのサバイバルというとんでもない主題を進める脚本力は圧巻でしょう。臓器競売人、商品である自称刑事、その腎臓を買った男、というそれぞれ並立しえない三人を軸とした人間関係が見事なドラマを生み出すという仕掛けです。そして役者。劇中7~8割は赤いブリーフ姿というチン・ソンギュ、そして、とてつもないエゴと狡猾さでサバイバルをひた進むチョン・ジョンソの演技もまた強烈です。

 

個人的には、Part1を観てPart2は明日、のつもりで観始めたわけですが、とんでもない、途中で止めるなんて絶対に不可能な面白さ、だといわざるを得ません。勿論、描かれる世界が臓器売買、腐れ外道たちの物語ですから、好き嫌いが峻別されるのは明らかで、迂闊に近寄るのが危険きわまりない作品なのは当然ではありますが、ドラマと映画の狭間に咲き狂った強烈な作品であることに異論は少ないのかもしれません。チン・ソンギュのブリーフ姿は大いなる減点要素ではあるものの、五つ星以外の選択肢はあり得ないというところです。