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ちょっと脇道から…恥ずかしながら大ファンのキュートな五人組ガールズグループ "Crayon Pop" の日本語最新曲は"Dancing All Night"っていうんですが、このMVが3分59秒の完全ワンカット撮影なんです。わずか4分足らずの撮影とはいえ、ショッピングモールを移動しながら5人が踊り歌うテイクは20回を数えたと言います。そして今日の作品は、何と1時間20分34秒という驚くべきワンカット撮影を軸に、強烈な暴力と奇跡を描く、「ある優しき殺人者の記録」(원 컷 - 어느 친절한 살인자의 기록)。監督は知る人ぞ知る和製ホラーの練達、白石晃士で、日韓合作作品です。

韓国のとある下町。手持ちカメラの揺れる映像が、不安そうなジャーナリスト、キム・ソヨンを映している。カメラを回すのは日本人カメラマン田代だ。ソヨンがカメラに向かって語り始める。27歳になったパク・サンジュンが、精神疾患として収容されていた施設から脱走した後18人を殺したとして指名手配されているが、そのサンジュンから、会いたい、と幼馴染みソヨンに電話があったのだ。サンジュンの指示で、一部始終を撮影するための日本人カメラマン田代だけを連れ、警察にも出版社にも知らせていない。サンジュンから電話が入り、近くのマンション"クムリ・アパート"502号室に来いと言う。取り壊し間近で立入禁止の廃マンションだ。部屋に入ると、ナイフを構えたサンジュンが、二人から携帯を取り上げる。ソヨンはインタビューを始める。最初の質問は"本当に18人殺したか?"というものだが、サンジュンの答えは驚くべきものだ。"まだ見つかってないだけで25人殺した"と言う。"何故殺したか"の質問に、サンジュンはVTRを再生する。17年前の古めかしい画面では、幼いサンジュンとソヨン、そしてユンジンが遊んでいるが、そこに自動車が突っ込んで来て画面は途切れる。この事故でユンジンが亡くなったのだ。それ以後、サンジュンは神の声を聞くようになり、その神の声は"27歳になって27人を殺せば、ユンジンが生き返る"と伝えたと言う。そして、ユンジンが生き返る奇跡をカメラに記録するために、二人を呼んだと言うのだ。残る被害者は二人だ。ソヨンは妄想だと説得するが、サンジュンは聞く耳を持たない。アパートの小さな部屋には二人の人間が縛られ転がされている。二人には愛がないので誤った二人で、正しい二人は後で日本人カップルとして現れる、とサンジュンは言う。サンジュンはソヨンが書いた雑誌の記事を取り出す。記事の行頭の文字を縦に読むと、"日本人 愛し合う男女、(今日)19日、15時40分32秒 クムリ・アパート502号室 首に痣のある二人を殺せ」となる…そのサンジュンの狂気はさらなる惨劇に向かって突き進み、そして、カメラは回り続ける…

連続殺人犯サンジュンに、個性派脇役ヨン・ジェウク、ジャーナリストのソヨンに、韓国の数少ないミュージカル映画「三差路劇場」や大傑作「息もできない」以来ずっと応援する個性派女優キム・コッピ、日本人カップル男に、舞台人でTVでも活躍する米村亮太朗、関西弁の日本人カップル女に、HPで見る限りAVアイドルと思われるキュートな葵つかさ、日本人カメラマンの田代に、本作監督の白石晃士、成人したユンジンに、驚くべき美貌パク・チョンユン。

一言で云えば、POV形式スプラッター・ファンタジーって感じでしょうか。ただ、POV形式なら、ホラー「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」やSF「クローバーフィールド -HAKAISHA-」などあまたあり、決して珍しいものではありません。この作品はWOWOWで放映され、キム・コッピ出演ということ以外何も知らずに観始めたんですが、30分ほど経った頃、ひょっとしてワンカット撮影じゃないか、と気づき慌ててネットで調べると、韓国題名には"ワンカット"の文字があり驚いた次第です。ワンカット撮影といえば五つ星「マジシャンズ」という大傑作がありますが、本作はPOV形式でもあり、さらに、激しい暴力や性描写もあるので、撮影の難しさは想像を絶するものだったと思います。ナイフが掌を刺し貫いたり、鉈が額を割ったり、登場人物が次第に血糊で汚れていくとか、回り続けるカメラの構図から外れるわずかなタイミングを使ったり、凄まじい工夫が必要だったでしょう。ちなみに、本作は80分のワンカット本編に、ごく短い(しかしものすごく重要な)2カットがエンディングを飾るので、正確には3カット作品です。役者の苦労も並大抵ではなかったでしょう。しかも、次第にテンションが上がっていく構成なので、狂気を演じるヨン・ジェウク、恐怖に震えながらも気丈なキム・コッピの演技は絶賛に値するでしょう。いったい何テイク撮らねばならなかったのか心配になったりします。

物語自体は、原稿用紙で云えば十数枚の星新一ショートショート風のシンプルなものですが、荒々しい暴力と性描写の果てに訪れるエンディングが驚くべきカタルシスをもたらす傑作だと思います。この作品に関わった映画人の凄まじいエネルギーに対して最大限の敬意を表すには、五つ星しかありません。しかし、残念ながら、この激しい作風を受け入れる映画ファンは決して多くはないでしょう。既にDVDリリースされていますが、手に取るなら、熟慮が必要です。