30代女流監督ストーカー・ブログみたいになってますが、今日も84年生まれキュートなキム・インソン監督作、さらに芸達者イ・ジェインつながりで…中年叔父・中学生姪コンビが熟女相手に結婚詐欺を仕掛ける?! というトンデモ作品ですが、果たして…「大人図鑑」

 

納骨堂に向かうバスでは、中学1年生キョンオンが亡くなった父親の遺骨を抱きかかえる。納骨を終えると、見知らぬ男が古い兄弟の写真を墓に貼りうなだれる。父親の弟ジェミンだと言う。ジェミンはそのままキョンオンの家についてくる。最後に会ったのはキョンオン2歳の時だと言い、兄が夢に現れキョンオンの面倒を見てくれと頼まれた、とそのまま居ついてしまう。悪友の”怪しいから気をつけろ”との言葉を聞き、キョンオンはジェミンのスマホをコピーする。判事の薦めで、止む無く叔父ジェミンを保護者に指定するが、すぐに父親の生命保険金3000万₩が引き出されていることを知る。さらに大家からは家の保証金1000万₩の上積みまで要求される。スマホのコピーからジェミンの居所を探し当て、ジェミンを責めるキョンオンだが、ジェミンは借金返済に充ててもうないと居直る。それどころか、結婚詐欺師のジェミンは、今狙っているターゲットがいるから結婚詐欺を手伝え、と言い出す始末だ。”俺たちは、施設もムショも嫌だ。やるしかない。未成年は捕まっても社会奉仕100時間で済む”との言葉に、キョンオンにも選択肢がない。ターゲットは”ヨンリジ(連理枝)”ことビル持ち裕福な薬剤師オ・ジョムヒなのだが…

 

結婚詐欺師の叔父ファン・ジェミンに、「楽園の夜」などの得意の暴力を一切封じて名演オム・テグ、中学1年生の姪キョンオンに、「ハード・ヒット」「サバハ」など名演が続くもはや子役とは呼べない04年生まれイ・ジェイン、結婚詐欺ターゲットのビル持ち裕福な薬剤師オ・ジョムヒに、「8番目の男」などの美熟女ソ・ジョンヨン、その他にも名女優が顔を出していて、詐欺ターゲット名”ウンブリー”に、怪女優ファン・ジョンミン、女性判事に、もはや主演女優の風格「パラサイト」「茲山魚譜」などのイ・ジョンウン、裁判所職員に、ホン・サンス作品など大ファンのキム・セビョク。

 

中年叔父・中学生姪コンビが結婚詐欺…というプロットを見て、てっきりブラック・コメディだと思い込んで観始めたわけですが、そんな当て推量は見事に外れます。勿論そういう側面もありますが、半ばで夢破れ詐欺師に身を落とす叔父、一人で世間に放り出された中学生の姪、結婚詐欺の標的にされるある過去を持つ金持ち薬剤師、その三人を丁寧に描いていく女流監督キム・インソンの世界は独特の寂寥感を漂わせて見事だと思います。当然圧倒的に非道徳な物語なので良識ある観客なら眉をひそめるわけですが、決して狙ったわけではありませんが、その危うく脆い人々の造型は「おひとりさま族」「アワ・ボディ」と重なる巧みな語り口だといえるでしょう。役者も好感です。暴力と無縁のオム・テグは、それはそれで心配したわけですが、あの掠れた低音の声はぴったり物語にハマっていますし、何より、姪を演じるイ・ジェインが、罪悪感や孤独感と優しさの狭間で身もだえするという難しい役柄をキュートにこなしていて驚かされます。

 

ジェンダーで類型化するのは時代遅れであるとは思いつつ、偶然にも30代女流監督作品を3本続けて観たわけで、希望が恥ずかしそうに見え隠れするエンディングなど共通の後味が感じられ、その鍛錬された監督術には敬意を払いたいと思います。寓話とか童話とかに近い感覚も共通していて、”図鑑”と名付けた本作も、若干浮世離れしているところはあるとしても、良い映画だと思います。

 

使用楽曲・映像について。オム・テグがカラオケで下手なりに熱唱するのは、ユン・スンヒ(윤승희)1977年「燕のように(재비저럼)」。ジョムヒが一人で観る映画は、これまた女流監督ミア・ハンセン=ラヴ、韓国映画ではホン・サンス作品でお馴染みの名女優イザベル・ユペール主演2016年仏独映画「未来よ こんにちは(L'Avenir)」。

 

余談。ジェミンがジョムヒを口説く時に口にする3000年に一度花を咲かせる”うどんげ(우담바라、優曇婆羅)”という花ですが、古くは『法華経』『竹取物語』から登場する有名な伝説上の植物だそうです。