ナマケモノをキュートに演じたチョン・ヨビンつながりで…チェジュ(済州)島という閉ざされた楽園を血に染めるバイオレンス・アクションの秀作…「楽園の夜」

 

ヤン社長率いる新興暴力団No.2パク・テグは、敵対するプクソン派ト会長からスカウトされる程の凄腕だ。テグは移植が必要な病の異父姉チェギョンとその幼い娘チウンを病院に迎えに行く。今日はチウンの誕生日だ。しかし二人を黒塗りの車で家に送り出したテグに届いた知らせは、二人が交通事故で死んだというものだ。ヤン社長が二人の葬式に訪れ、二人を狙ったのはト会長だと仄めかし、テグはある決意を固める。サウナにト会長を訪れたテグは、隠し持ったナイフで会長を血祭に上げる。ヤン会長は、テグをウラジオストックに逃がす準備のため一週間チェジュ(済州)島に潜むよう指示する。チェジュ(済州)島でテグを迎えたのは、銃の密輸業者クトとその姪で余命宣告を受けたチェヨンだ。その頃、ヤン社長とプクソン派No.2マ理事が怪しい動きを始めている…

 

パク・テグに、彼も出演した名作「隠された時間」監督オム・テファの実弟オム・テグ、チェジュ(済州)島クトの姪チェヨンに、「シークレット・ジョブ」で好感チョン・ヨビン、プクソン派No.2マ理事に、柔軟自在の名優チャ・スンウォン、チェジュ(済州)島の銃密輸業者クトに、渋いイ・ギヨン、悪辣な暴力団ヤン社長に、名脇役パク・ホサン。特別出演では、テグの異父姉チェギョンに、大ファンのチャン・ヨンナム、刑事でヤクザ間の調整役パク課長に、『チェオクの剣』からのファン、イ・ムンシク、プクソン派ト会長に、渋い名優ソン・ビョンホ。

 

1970年前後には「俺たちに明日はない」「イージー・ライダー」「明日に向かって撃て」といったアメリカン・ニューシネマの傑作が一気に噴き出したんですが、観終わって、似た匂いを感じる秀作です。基本的に韓国ノワールらしい暴力描写が中心ではありますが、敵味方から追われて絶望するヤクザと余命宣告された若い娘が醸し出す空気感は、チェジュ(済州)島の素朴でいて美しい景色に良く馴染んでいるでしょう。演じるオム・テグとチョン・ヨビンが、共に華のあるタイプではないことがさらに肌感覚の絵作りに貢献している感じです。さらに、チャ・スンウォン演じる人物像も秀逸で、平気で男の耳を切り落とす暴力男ながら妙に情を感じさせる演技は好感です。監督は、「血闘」「新世界」「The Witch」と3本の五つ星を輩出する相性の良い監督ですが、暴力と暴力の合間に柔らかいユーモアを挟み込んで生み出す独特のリズム感は今回も健在だといえるでしょう。

 

ある意味では古めかしい世界観ではありますし、主演二人が実に巧いながらもう少し尖り方が欲しかったりする所もあるので、五つ星は見送ることになりますが、久しぶりに懐かしい世界を垣間見た感じは決して悪くありません。秀作だと思います。