2022年第17回大阪アジアン映画祭でグランプリ(最優秀作品賞)を獲ったと知って…またまた女流監督が都会の孤独を優しい視線で描いて秀作…「おひとりさま族」

 

クレジットカード会社IBカードのコールセンター。優秀なオペレーターのジナは、カード明細に風俗店が実名で印字されている、という苦情を聞いている。電話の向こうでは子供がパパに纏わりついてくるが、ジナはスマホを見ながらも辛抱強く聞いている。アパートに帰り着くと、廊下で煙草を吸っている隣人の若い男が挨拶してくる。ジナは無視するでもなく軽くいなす。彼女の部屋は2LDKほどあるが、寝室以外には何も置いてなく衣食住は一部屋で足りる。その部屋でTVを見ながらコンビニ弁当を食べるのが日常だ。今日の顧客は、今月の明細を全て読みあげてくれ、といういつもの老婆だ。ジナは、一言も間違えないよう慎重に読み伝える。ジナが喫煙所で煙草を吸っていると、”母”との表示で電話がかかってくる。母親は最近亡くなり、かけているのは父親だ。17年前浮気で家を出て、2年前帰ってきた男だ。母親の遺言を開けるので週末には帰って来てほしいと言う。ジナの昼食は決まって”米粉堂(ブログ注:実在します)”の米粉ラーメンで必ず一人で食べる。そんなジナがチーム長に呼ばれる。新人の教育係を引き受けて欲しいと言う。こうしてジナの孤高の生活に綻びが見え始めるのだ…

 

優秀なコールセンター・オペレーター、ジナに、初めて見るも見飽きないタイプの美貌コン・スンヨン【2024年6月追記:何と<TWICE>のジョンヨンの実姉だそうだ】、彼女の指導を受ける新人オペレーター、スジンに、端役では見た筈のキュートなチョン・ダウン、ジナの上司キムチーム長に、彼女も脇役で見た筈のキム・ヘナ。特別出演では、ジナの父親に、悪役以外は殆ど記憶にないパク・チョンハク、隣に引っ越してくる男に、「幽霊」「ビューティフル・デイズ」などドル箱までもう少しの名優ソ・ヒョヌ。友情出演では、母の遺言を届けるチョン弁護士に、「悪魔は見ていた」などのチュ・ソクテ。

 

監督は88年生まれで笑顔がキュートなホン・ソンウンですが、それ故にか、都会の孤独を描くにしてもその柔らかいタッチが心地よい作風だと思います。原題は「一人で生きる人々」と複数形になっているように、ヒロイン以外にも、電話オペレーター相手に孤独を癒す人、孤立死する青年、妻に先立たれる父親、仕事に馴染めない今どき女子、など様々な登場人物が重なり合って、さらには少し幽玄なエピソードも交えながら、都会の孤独をモザイク画のように描いていきます。特にヒロインの造型は新鮮で、衣食住、仕事において、主体的に”一人”を頑なに貫く姿は、ふとゴルゴ13を思い出したりします。さらに演じるコン・スンヨンがまた魅力的で、モニター、TV、弁当、ラーメンなどに向かうシーンで真正面からアップで彼女の表情を捉える絵が多く、その何処か親近感を感じさせる存在感は見事だと思います。彼女の孤高をある意味脅かす、キュートな新人チョン・ダウン、ある意味ジナの理解者である上司キム・ヘナ、実直な隣人ソ・ヒョヌも良い仕事をしているでしょう。

 

映画的な出来事には乏しいと思いますが、登場人物たちの孤独が柔らかく揺らぐ様は、それはそれで映画的だと思われ、この女流監督は伸びる予感を感じさせます。どちらかといえば、いつ韓国風バッドエンドに舵を切ってもおかしくない展開ともいえるでしょうが、ずっと無表情を貫くヒロインの微笑みを浮かべるシーンが訪れるんだろうか、などと観るのもありかもしれません。良い映画だと思います。