爽やかなマスクなのに血みどろの熱演チャン・ドンユンつながりで…ユン・ジェホ監督が「ファイター」に先立って同じテーマで撮った脱北女性の26年間にわたる過酷な運命を静謐に描いて秀作…「ビューティフル・デイズ」

 

2017年、中国朝鮮族自治省の貧しい村。夜中、病弱な父親が突然起きだし、そして電気をつける。隣に寝ている息子チェンチェンも起きだすが、父は古い写真を渡す。写真には今はいない母と幼いチェンチェンが写っているが、父は「住所が裏に書いてある」と言う。それは韓国の住所で、チェンチェンは初めて知って動揺するが、大学を休んでソウルに向かう。夜、チェンチェンは母が営むバーを訪れるが、派手な衣装で酔客の相手をする母を見て、店を飛び出す。そして店の近くで閉店を待ち、出てきた母を尾行する。人気の少ない下町まで尾けるが、チェンチェンは突然物陰から現れた男に殴られる。尾行に気付いた母が不振に思い一緒に暮らす今の夫に告げたのだ。殴られたチェンチェンを見て息子だと気づいた母は、黙って家に迎え入れ、食事を与え、事情を察した夫は黙って家を出る。こうして14年ぶりの母息子の重苦しい再会が始まる…

 

脱北女性の母に、個性派超美形イ・ナヨン、その息子で朝鮮族大学生チェンチェンに、「おおかみ狩り」で衝撃演技の若手二枚目チャン・ドンユン、中国朝鮮族でチェンチェンの父に、「韓国の間寛平」と呼んだ過去を激しく悔いてしまう寡黙で渋いオ・グァンノク、韓国での母の恋人に、名脇役ソ・ヒョヌ、脱北ブローカーのファン社長に、刑事・ヤクザ脇役イ・ユジュン。

 

韓国エンタメをその後20年近くも観続けるきっかけになった女優が二人いますが、『パリの恋人』キム・ジョンウンとちょっとシュールな大傑作『勝手にしやがれ』『アイルランド』イ・ナヨンで、本作は、そのイ・ナヨンのウォンビンとの結婚・出産後の復帰作です。脱北した女性が中国・韓国を巡る過酷な26年間を寡黙に静謐に描く秀作だと思います。時折中国語も混じる台詞は極端に少なく、殆ど表情と所作だけで静かに進む物語は、女性の辿った過酷な26年間をじっくり描いていきます。従って俳優の演技が評価を左右するわけですが、これが見事です。イ・ナヨンはいうまでもありませんが、苦しい思いを静かに秘めるオ・グァンノクと出番は多くありませんが口数少なくチェンチェンを受け入れる今の夫ソ・ヒョヌが絶品だと思います。

 

物語のテーマは重厚なのですが、残念ながら最もビジュアルとも言われる俳優夫婦のイ・ナヨンがゆえ、貧しい農村嫁だろうがケバケバしい夜の女であれ、本作の重く暗い雰囲気をしばしば不必要に美しく輝かせてしまうのが玉に瑕といえるでしょう。少なくとも、イ・ナヨンに思い入れた経験のある観客は絶対に見逃せないでしょう。

 

ちなみに、チェンチェンの寮の部屋に貼ってあるポスターは<Berry Good>で、2人の中心メンバーを軸に、前半は5人、後半は6人で活動した可愛いビジュアル系ガールズグループです。2017年なら6人体制の時期ですが、一番大きいポスターは2016年デビュー・ミニアルバム”Very Berry”のジャケット・ポスターで、収録されるデビュー曲”Love Letter"のMVの可愛らしさは圧巻だったりします。