宮女マニを演じたチョ・スヒャンつながりで…韓国初の国民参与(陪審員)裁判を描く…「8番目の男」

 

2008年、ソウル中央地方裁判所。キャリーバッグを引いたカーデガン姿の女がやってくる。書記官が出迎えに出るが、待ち構えていたマスコミは背広姿の書記官に群がり、その隙にカーデガンの女は所内に消える。今日は韓国で初めての国民参与(陪審員)裁判の日なのだ。消えた女は裁判長キム・ジュンギョムだ。一方、陪審員選任手続きが終わるが、決まった8人の内1人がマスコミ関係と判明し解任される。キム判事は至急補充せよと言う。呼び出されたのは、個人再生を申請しようと必死な若い起業家クォン・ナムだ。売り物は新しい防犯グッズだ。面接の質問では、陪審員制度が始まることも、推定無罪の原則も知らず、キム判事はあきれ顔だが、時間がなく彼を8人目として採用する。キム判事は「法は人を罰するためでなく、罰しないためにある。むやみに処罰できないよう設けた基準が法だ」とナムを諭す。こうして、自白により有罪が明らかで、論点は量刑だけだと考えられていた、母親殺しという重大事件に対しての、韓国初の国民参与(陪審員)裁判が始まろうとしている…

 

ソウル中央地方裁判所裁判長キム・ジュンギョムに、五つ星「オアシス」でヴェネツィア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を獲った天才ムン・ソリ、陪審員8自称[青年創業者]*クォン・ナムに、ボーイズグループ<ZE:A(ゼア)>メンバーで韓国版『スーツ』主演の若手注目株パク・ヒョンシク、陪審員1 年を食った法学部1年生ユン・グリムに、ペク・スジャン、陪審員2 夫の介護経験がある老寡婦ヤン・チュノクに、キム・ミギョン、陪審員3 [無名俳優]チョ・ジンシクに、ユン・ギョンホ、陪審員4 派手な[専業主婦]ピョン・サンミに、ソ・ジョンヨン、陪審員5 エリート秘書室長チェ・ヨンジェに、最新作「三姉妹」ではムン・ソリの夫を演じるチョ・ハンチョル、陪審員7 妙に勘の良い[就職(就活)生]の若い娘オ・スジョンに、チョ・スヒャン、陪審員6 [今は無職]元特別清掃(遺体清掃)人チャン・ギベクに、キム・ホンパ、法院長に、『冬ソナ』からのファン、クォン・ヘヒョ、女検事に、「女校怪談」シリーズでデビュー長身美形イ・ヨンジン。特別出演では、謎の掃除オバサンに、最新作「三姉妹」ではムン・ソリの姉を演じるキム・ソニョン。(*[]内はポスター記載の役どころ)

 

調べたところ、韓国の陪審員裁判は、量刑により5人、7人、9人という奇数の人数から始まったとみられますが、この映画では8人となっています。あくまで推量ですが、「十二人の怒れる男」のヘンリー・フォンダが陪審員8番だったことへのオマージュではないかと勝手に想像しています。作品の冒頭「事実を再構成した」とのコメントがありますが、同じく尊属殺を扱う「十二人の怒れる男」の影響が色濃いと思わざるを得ないところです。一方、映画作品として観れば、実によく出来ていて、密室劇に留まらない工夫がされていたり、謎の掃除おばさんの登場でややファンタジーの色合いを醸し出したり、何といってもムン・ソリの知的な裁判長の造型が圧巻なので、単体としては十分五つ星に値すると思われます。

 

優れた、しかも面白い映画であることに、異論はありません。が、「十二人の怒れる男」という偉大すぎる先達があること、最後に述べる違和感からして、一点減点はやむを得ない、というのが正直なところです。

 

全くの余談ですが、本作に関連してネットを見ていて、「リクルートワークス研究所」の論考「『十二人の怒れる男』に学ぶ"正義の少数者"のリスク」が目に留まりました。ヘンリー・フォンダ演じる陪審員8番の行動を、「マイノリティ・インフルエンス」や「同調行動」の観点からやや批判的、警戒的に論じるもので、ウ~ン、なるほど、そういう見方もあるのか、と唸らされたりします。

 

以下の個人的なメモには、明らかなネタバレが含まれますので、ご注意ください。

 

クライマックスでの判決は、法廷では全く採用されていないメモという証拠、法廷では全く討議されていない死因(の可能性)を根拠に下されていますが、これは明らかに刑事訴訟法違反でしょう。こんなことが許されれば、それこそ刑事司法の信頼が崩れ去るのは明らかです。社会正義としては正しいかもしれませんが、司法制度に対してのファンタジーが行き過ぎた、と思わざるを得ません。