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イーストフィルムに戻って、イ・チャンドン監督の第三作、「オアシス」。

この映画ほど、ハッピーエンドで終わってくれ、と祈った映画は今だかつてありません。

役者は、前科三犯、真冬に半袖のアロハで出所した男にソル・ギョング、脳性マヒの女に銀幕二本目にして賛辞の言葉を見つけることが出来ない熱演ムン・ソリ、男の兄に「淫乱書生」王アン・ネサン、男の弟に「拳が泣く」の名監督リュ・スンワン、男の母に「親切なクムジャさん」とかのキム・ジング、女の兄に「お母さん」で名演のソン・ビョンホ、といった達者揃い。

カメラは、ある事件の加害者と被害者の娘として出会う二人が、前科者と障害者に対する家族や世間の凄まじく残酷な視線の中で愛を育んでいく姿を、ドキュメンタリータッチで生々しく描いていくのですが、今回のイ・チャンドン監督は、前作の時間の逆走にかえて、幻想シーンを多用する素晴らしい演出を見せてくれます。白い鳩、白い蝶・・・さらにもっとトリッキーな演出で、この希有に純粋な恋愛に、魔法の呪文を唱えたかのように、命を吹き込んでいきます。

野卑で無神経な男と喋ることもままならぬ障害を背負った女の恋愛は、見始めてしばらくは、あまりの痛ましさに目をそむけたい感じがするのですが、「好きな色は何?」「好きな季節は?」という余りにも「普通」の語らい、食事、カラオケとか余りにも「当たり前」のデート、とかを見ている内にどんどんこの二人に思い入れていくことになる筈です。本当に、この映画ほど、ハッピーエンドで終わってくれ、と祈る映画は、そうそうないと思います。