曲者演技派キム・ヨンミンつながりで、ちょっと古いですが…三つのおぞましい物語が束になってかかってくるダーク・サスペンスの衝撃作…「マドンナ」

 

都会の汚い川辺に派手な太目の妊婦が倒れている…湖では女がスーツケースを水に沈める。赤ん坊の泣き声が聞こえたような気がする…看護師ムン・ヘリムは大病院に勤め始めるが、案内されたのは厳重な警戒下にあるVIP病棟だ。婦長は化粧っ気のないヘリムを見て、ここでは化粧が礼儀だ、と諭す。担当するのは5号室、原子力関連の富裕な会長で脳卒中から来る全身麻痺で10年間身じろぎ一つできない老人だ。傍には会長の息子サンウが付ききりで看病している。チェ会長は何度も心発作を起こし、新しい心臓を必要すると言う。そんな時何故か、見るからに売春婦と思われる太目の妊婦がVIP病棟に運び込まれる。サンウは、女は脳死状態なので親族を探して臓器提供承諾書にサインを貰ってくるよう命じる。こうしてヘリムは、今は売春婦に身を落としたチャン・ミナの人生を辿ることになる…

 

病院のVIP担当に配属される看護師ムン・ヘリムに、どうしても「ビー・デビル」狂演の印象が強すぎるソ・ヨンヒ、何故かVIP8号室に運ばれる意識不明の太目妊婦チャン・ミナに、この後も「暗数殺人」「虐待の証明」など辛い役柄が続きますが素顔は可愛い系クォン・ソヒョン、チョロ会長の息子サンウに、キム・ヨンミン、VIP5号室の全身麻痺老人チョロ会長に、85歳の今年ですら出演映画が公開される老名優ユ・スンチョル、正義派新人イム医師に、この後主演作連発の若手二枚目演技派ピョン・ヨハン、女郎屋の女元締(ポジュ(抱主:포주))に、知的美形キム・ホジョン。

 

これまた韓国映画の”容赦なさ”が襲ってくる類の作品です。しかも、身ごもった売春婦へと堕ちていくごく普通の太目の女の子、父親を麻痺したまま延命させるため悪魔の囁きに身を任せる息子、重い過去を引きずる看護師、と三つの個別の物語が三者束になってかかって来るので、常人が抗うのは極めて困難だといえるでしょう。さらには、三人の主人公の演技が嫌になるくらい巧いので、もはや手の打ちようがありません。特に、太目の売春婦を演じるクォン・ソヒョンは圧巻で、「美女はつらいよ」「僕の中のあいつ」など韓国映画お得意の”太目特殊メイク”を施しての演技はもはや神業と思えたりします。

 

監督は後に「ガラスの庭園」という神秘的なファンタジーを撮ることになる女流シン・スウォンで、この作品では女性に残酷な社会を痛烈に批判している、とかその理屈は良く理解できるとしても、この”容赦なさ”に真正面から立ち向かうのは極めて危険だと思われるます。それで、本当のクォン・ソヒョンは可愛い系美人なので太目メイクでの演技は大変なんだろうなぁ、可愛さは隠しきれてないなぁ、とか、「ビー・デビル」の悪魔的な印象が強いソ・ヨンヒだけどやっぱりこんな美人だったんだよなぁ、とか適当に気を紛らわせながら観るのも一つの方法でしょう。少なくとも、無防備に近づかないことを強くお勧めせざるを得ないでしょう。

 

ちなみに、劇中チャン・ミナがラーメンを頬張りながら観ているTVは、「シクシン(多分、”食神”)ロード」という、2010年から断続的に2018年までチャンネル「K-STAR」で放映された食べ物バラエティです。