もう一本、ハン・ジミン主演作を…改めて韓国映画の”容赦なさ”に打ちのめされ、何とか二人が生き延びたまま映画が終わってくれ、と祈り続けた虐待をテーマとした問題作…「虐待の証明」

 

真冬のソウル。パトカーや救急車が集まるアパート前、中部署刑事チャンソプが到着する。ここでチョン・ミョンスクという老婆が孤独死体として見つかった、と旧知の所轄南部署ペ刑事から連絡を貰ったからで、チャンソプはチョン・ミョンスクを捜していたのだ。死後1か月が経っており、事件性はないと言う。チャンソプは洗車場で働くペク・サンアを訪ねる。サンアはこの寒い中、薄着でゴム手袋もつけずに車を洗っている。チャンソプは温かい鍋を食べさせ、自分のジャンパーを羽織らせるが、サンアは礼も言わない。二人はサンアが起こした殺人未遂事件以来の腐れ縁なのだ。チャンソプはサンアを死体安置所に連れていき、ミイラ化した遺体を見せ、サンアの母親か確認させる。サンアは”好きに処分してくれ”と言い残し立ち去る。サンアは幼い頃、この母親から虐待された挙句に迷子センターに捨てられた過去があるのだ。ある夜、チャンソプと喧嘩して部屋を飛び出したサンアは一人の少女に出会う。寒空の下、裸足で薄着で良く見ると痣だらけだ。サンアが少女を屋台に連れていくと、少女は貪るように食べる。少女は9歳、キム・ジウンと名乗る。”アジュマ”と呼ばれたサンアは”ミス・ペク”と呼べと諭す。こうして二つの苦しむ魂が出会ったのだ…

 

過去の傷に苦しむ”ミス・ペク”ことペク・サンアに、ハン・ジミン、サンアとつかず離れずの中部署刑事チャンソプに、「ロボット、ソリ」など十分に主演級イ・ヒジュン、虐待の被害少女キム・ジウンに、「白頭山大噴火」「クローゼット」などの名子役キム・シア、チャンソプの姉でどじょう汁屋フナムに、「三姉妹」などの名女優キム・ソニョン、虐待内縁妻チュ・ミギョンに、主演級の活躍が続く演技派クォン・ソヒョン、チウンの実父で虐待男イルゴンに、「8番目の男」など巧いペク・スジャン、サンアが働くマッサージ店女主人に、「茲山魚譜」など大ファンの名女優イ・ジョンウン、幼いペク・サンアに、「君の誕生日」圧巻の名子役キム・ボミン。特別出演では、回想でのサンアの母に、これまた大ファンの名女優チャン・ヨンナム。

 

いやぁ、韓国映画の”容赦のなさ”にはある程度は慣れてるつもりでも、またもや悪い方に裏切られます。本作でのその虐待描写の凄まじさは呼吸不全に陥りそうになる程で、とにかく、最後までチウンもサンアも生き延びてくれ、と祈り続けて疲れ果てる始末です。「グロリア」が”暗黒面”に堕ちたらこんな映画になるのかもしれません。ストーリーも容赦なくって、幼い頃に虐待され捨てられ、さらに性被害者でありながら正当防衛が認められず服役した女と、筆舌に尽くしがたい虐待に苦しむ少女、さらに実父でありながらゲームにのめり込み酒を飲んでは娘を殴る男、その内縁の妻で外面(ソトヅラ)は社交的なのに家に入るや豹変し虐待にのめり込む女、といった凄まじい人物造形の上に展開されるのは、少女を取り合うまさに地獄絵図という感じです。演技陣もまた憎たらしいくらい凄い。ハン・ジミンの投げやりながら少女を見捨てられない複雑な汚れ役は圧巻ですし、少女を演じるキム・シアもトラウマが残らないか真剣に心配してしまう熱演ですし、悪寒が走るような実父、内縁の妻を演じるクォン・ソヒョン、ペク・スジャンも残念ながら見事な演技といわざるを得ません。強いていえば、乱暴で泥臭い刑事イ・ヒジュン、その姉どじょう汁屋キム・ソニョンがかろうじてオアシスになっているかもしれません。

 

とにかく、映画としての訴求力は最強と言わざるを得ないとしても、一生恨まれそうなので、余程のことがない限りひと様にお薦めできるような映画ではないでしょう。ただ一言付け加えておくと、ハン・ジミンの圧倒的な美貌が隠しきれずに映画全体の雰囲気にそぐわない、と思われる場面が多いのは或る意味で欠点かもしれません。いずれにせよ、観る観ないは完全に自己責任なので、そこは忘れないようにして頂きたいと思います。念のため…