韓国のパニック映画は独特の味があって、質も高いのでお気に入りでしたが、800万人を集めた本作も期待を裏切らない出来栄えです。知る限り最後のシングルまでメンバーの出入りがなかった稀有なガールズグループ‹miss A›スジもピタリと役にはまり、充分五つ星に値するでしょう。

 

朝鮮半島の非核化が合意され、米艦船が北朝鮮の核ミサイルを収容に向かっている。ソウル。今日で除隊の日を迎える技術士官チョ大尉は、町中(マチナカ)の不発弾処理にも関わらず上の空だ。臨月を迎える妻との間がギクシャクし赤ん坊の性別すら教えて貰えないのだ。チョ大尉は仕事を終え帰宅しようとするが渋滞に巻き込まれる。ビルのスクリーンでは北朝鮮からの実況中継が非核化のニュースを伝えているが、突然大地震が襲い、平壌のランドマーク、425文化会館が崩れ落ちる様子を映している。白頭山が大噴火したのだ。間もなくソウルも揺れ始め、チョ大尉は崩れ落ちるビル群の合間を縫って、妻の待つアパートに急ぐ。朝鮮半島は大混乱だ。アメリカへの帰国準備をする火山学者である韓国系米国人教授カン・ボンネの研究室を青瓦台のチョン主席秘書官が訪れる。彼女は白頭山の今後の噴火についての助言を求めに来たのだ。イヤイヤ協力するカン教授によれば、白頭山にはまだ巨大なマグマ溜まりが残っており順次大噴火が起き、朝鮮半島が壊滅すると言う。しかし白頭山の5km以内で600キロトンの人工的な爆発を起こせばマグマ溜まりの圧力を下げる可能性があるようだ。韓国政府は、アメリカに搬出される予定の北の核弾頭を盗み、白頭山に運び爆発させるという作戦を計画する。そして、この無謀で危険な任務の技術チーム長に白羽の矢が立ったのが、まだ赤ん坊の性別を教えて貰えていないチョ大尉だ…

 

二重スパイの疑いで北朝鮮に収監されている北朝鮮少佐リ・ジュンビョンに、もはや世界スターのイ・ビョンホン、韓国軍技術士官チョ・インチャン大尉に、今や韓国で一二を争う演技派ハ・ジョンウ、火山学者カン・ボンネ教授に、その他大勢の頃からのファンなのにいつの間にかハリウッド俳優になっちゃった肉体派マ・ドンソク、チョン青瓦台主席秘書官に、名バイプレーヤーのチョン・ヘジン、チョン大尉の臨月の妻に、デビュー曲"Bad Girl, Good Girl"には度肝を抜かれた伝説の名ガールズグループ‹miss A›出身で「建築学概論」「花、香る歌」での透明感溢れる演技が印象的なペ・スジ。特別出演では、リ大佐の薬に溺れる妻に、五つ星「素晴らしい一日」でハ・ジョンウと共演した名女優チョン・ドヨン。

 

大噴火というディザースター、越境する危険な任務、米中の暗躍などなど有り余るサスペンスを詰め込みながら、一方で、技術系ハ・ジョンウと知的マ・ドンソクというチグハグな配役を巧く生かしての脱力系笑いを散りばめる手法は、大いに成功しているでしょう。「ヨコヅナ・マドンナ」五つ星「彼とわたしの漂流日記」「22年目の記憶(原題:私の独裁者)」といったイ・ヘジュン監督の私小説風味をそのままにパニック映画へと巧みに拡大したといった感じでしょうか。イ・ビョンホンの怪しく捉えどころのないキャラも良く作品に馴染んでいますし、臨月ながらたくましい妻を演じるスジも好感です。物理力学や政治力学を無視して荒唐無稽、と切り捨てることは簡単ですが、やはり2時間手に汗握りながらハラハラドキドキ楽しんでしまった方が負けなんでしょう。

 

ハリウッドのパニック映画とはリズムや空気感が微妙に異なるので、多少観客を選ぶ可能性はあるでしょうが、試してみる価値は十分にあると思います。次回は、ガールズグループの頂点‹少女時代›…