再びキム・ユンソクに戻って、登場人物や雰囲気はダークながら、実は相当に知的なクライム・サスペンス…「暗数殺人」

 

釜山。雨の市場を、麻薬課キム刑事がヤク中男と歩く。知り合いが昔の罪を話したいそうだ。小汚い酒場でその知り合いの男カン・テオは、10年ほど前に頼まれて死体を遺棄した、それはバラバラ遺体だったと言う。詳しく話を聞こうとするが、突然刑事課の刑事たちが踏み込んできてテオを逮捕する。若い女性ホ・スジンの殺人容疑だ。テオの裁判が始まると、テオから電話がある。テオは、自分は他に6人殺した、興味はないか、と言うのだ。面会に行くと、まず、スジンを殺した時の衣類や縛ったテープの捨て場所を教える。警察は、焦るあまりそれらの証拠を捏造していたのだ。このことをキム刑事が裁判で証言し、20年の刑が15年に減刑され、キム刑事は警官たちから裏切り者として爪はじきにあう。間もなく、また面会依頼が来る。拘置所に向かうと、テオは自供書と称してスジンを含めて7人の殺害状況の一覧を書く。キム刑事は、麻薬課からさらに敵だらけの刑事課に転属し、この供述の裏を取ろうと一人捜査を始めるが…

 

釜山ヨンジェ(蓮堤)警察署刑事キム・ヒョンミンに、キム・ユンソク、殺人犯カン・テオに、薬物禍と兵役を乗り越えアラフォーになりますます精悍なチュ・ジフン、唯一キム刑事の捜査を手伝うチョ刑事に、このブログで出ずっぱりチン・ソンギュ、美貌の女性検事に、大ファン美形ムン・ジョンヒ。特別出演では、犯罪者の偽の告白で人生を狂わされた元刑事に、年上の方のチュ・ジンモ、証拠を探す潜水隊長に、今回も絶妙に笑わせてくれるコ・チャンソク。

 

まずタイトルについて。テオ逮捕劇の後にオープニング・タイトルが出ますが、「암수(暗数)」の文字がユラユラと消えて「아무도 모르는(誰も知らない)」という文字に置き換わります。これで暗数殺人とは、誰も認知していない殺人の意味だと示され、この映画の根本が、テオが誰も知らない殺人をキム刑事に告白する、というところにあると分かります。ある事件で有罪が確定した後に別の罪を告白することは、例えば良心の呵責とかいくつかの理由で実際あるようですが、テオの場合は果たして何が目的か…これが話の軸だと思います。それを圧倒的な映画空間に仕立て上げているのが二人の主人公です。キム・ユンソクは、比較的裕福な一族出身の刑事という映画では珍しい立場で、金や出世を顧みず誰もが無視する犯罪者の告白や被害者家族の無念に真摯に向き合う姿を生々しく演じて見事ですし、一方のチュ・ジフンは丸坊主姿で、品なく聞こえる釜山方言でまくし立て警察をコケにする粗暴ながらも実は勉強家で頭の切れるサイコを演じて圧巻です。拘置所面会室での二人の対峙は、多分ですが計8回あり、それらのシーンがこの映画の肝だといえるでしょう。ついでですが、ドンヨリと撮られる釜山も、格好の舞台となっていると思います。

 

映画の冒頭、実話を基に再構成した、とあるように、絵空事の犯罪映画のような派手さはありませんが、それがかえってリアルな恐怖心をもたらすという意味で、優れたクライム・サスペンスだといってよいでしょう。