そのニューロティックな演技に驚いたパク・チスの出演作から、久しぶりのムン・グニョンの変わらぬ空気感が魅力的な幻想ファンタジーの秀作…「ガラスの庭園」

 

美しい緑の森をイメージしながら、「彼女は森で生まれた…」男が小説を書き始める…生体エネルギー研究所では、研究員イ・ジェヨンがメダカに緑色の液体を注射すると、ぐったりしていたメダカが泳ぎ始める。彼女は光合成する緑血球を持つ人工血液を研究しているのだ…売れない小説家キム・ジフンは処女作「アンダーグラウンド」に次ぐ二冊目が書けずに呻吟している。そこへ妻から電話で、離婚する、との通告だ…12歳で成長の止まった左足は細く、イ・ジェヨンは足を引きずって歩くしかない。彼女は上司チョン教授の家にいる。二人は恋人だ。チョン教授は苦しい研究所の運営から、早く成果の出る研究を望むが、チェヨンは緑の人工血液に固執する…キム・ジフンは、飲み会で小説界の大御所作家に「盗作」だと絡み、業界から追われてしまう…チェヨンの同僚研究員スヒは、チェヨンの緑血球を盗み化粧品への応用を提言しチェ教授の信任を得る。この事件でチェヨンは研究所を辞め、父親が残した山奥の荒れ果てた研究所に籠ってしまう…やがて、先の見えない二人の人生が交錯していく…

 

生体エネルギー研究所研究員イ・ジェヨンに、ティーンエージャー時代の「箪笥」「ダンサーの純情」での天才ぶりが忘れられないアラサーになったムン・グニョン、売れない小説家キム・ジフンに、ニューロティックな演技派キム・テフン、チェヨンの上司チョン教授に、シリアスもコミカルもいける芸達者ソ・テファ、チェヨンの同僚チェ・スヒ研究員に、パク・チス。

 

美しい緑が輝く森、自ら酸素を作り出す緑色の血液、緑色の樹液を流す古い巨木…鮮烈なイメージが新鮮な秀作ファンタジーといえるでしょう。世界から拒絶された研究員と小説家の二人が織りなす物語は決してラブストーリーではなく、片方が片方の人生を盗むような非対称な関係なので、美しい森と緑のイメージの中で歪(ヒズ)んだ幻想を産み出していき秀逸です。役者も見事で、アラサーのムン・グニョンは化粧っけのない質素ながら芯の強い女性を演じで好演ですし、キム・テフンは追い詰められ次第に神経を冒されていく作家を演じて真骨頂といえるでしょう。

 

終盤、警察の介入など俗っぽい展開もありますし、SFを期待すると、多少、形而上的な部分が勝って裏切られるかもしれませんが、神秘的なファンタジーとして十分な評価に値する作品だと思います。

 

ちなみに、劇中ムン・グニョンがワルツを踊るシーンがあって、十代の彼女の最高傑作「ダンサーの純情」を思い出せたりします。

 

尚、劇中登場する趣深い芙蓉(プヨン)駅は、韓国西海岸中部、セマングム干潟で有名な金堤(キムジェ)市に実在するKORAIL湖南(ホナム)線の駅ですが、wikiによれば現在は旅客列車は停車しないとのことです。