他者の「自我」の尊重 〔R・シュタイナー〕 | 瑞霊に倣いて

瑞霊に倣いて

  
  『霊界物語』が一組あれば、これを 種 にしてミロクの世は実現できる。 
                            (出口王仁三郎)  

 “……シュタイナーという人は聞かれなければ何も答えなかった人でした。例えば、ロシア革命のとき、シュタイナーの弟子のロシア人が「私はこれから祖国へ帰って革命のために働きたいと思います」と言ったら、シュタイナーはとても悲しそうな顔をしましたが、「そうですか」としか言いませんでした。その決意にその人の自我がかかっていたので、シュタイナーは何も言えなかったのです。そのとき、もし行ったほうがいいか悪いか、と聞けば、自分はこう思う、と答えたはずです。自我、あるいは意識魂の決断に関しては、シュタイナーは全面的にそれを人の運命として受け容れます。常識的に考えると、悪いと分かっていて黙っているのはいけないことに思えますが、しかし、どんなカルマがその人にそうさせているのか分かりません。意識魂からの内的必然性をもって生じたものに対しては、ともかく一度はそれを受け容れて、そのあとであらためて何か態度を示すのです。それがシュタイナーの神秘学から出てくる基本的な人間関係の態度です。

 

(高橋巌「シュタイナー教育入門」(角川選書)より)

 

*シュタイナーは、マルクス主義やロシア革命、唯物論についてはかなり批判しており、著書や講演の中で度々そのことについて言及しています。なのでこの弟子がそのことを知らなかったはずはありません。おそらくそれでも尚、革命への幻想を捨てきれなかったのだと思います。

 

*もちろん、知らずに危険な場所に行こうとしている人にはその危険を知らせるべきですし、何らかの危機的な状況で助けを求めている人に対して、無条件に手を差し伸べるべきなのは言うまでもないことです。また、会社や地域の自治体など社会的な組織の中では、その組織の一員として上からの指示・命令には義務として従わねばなりません。しかし、個人的な事柄において、誰かが十分状況を理解した上で、自らの意思で決定し行なおうとしていることに対しては、それが社会に対して害をもたらすものでない限り、他人が横から口を出すべきではありません。例えば、給料の大部分を自分の趣味に使ってしまう人がいたとして、当人の家族であれば運命共同体ですので文句を言っても問題ありませんし、言うべきでしょうが、赤の他人が意見を求められてもいないのにあれこれ言うことはできません。たとえギャンブルのような低俗なものであったとしても、その人の「自我」は尊重されねばなりません。

 

*十七世紀のインド占星術の書「プラシュナ・マールガ」には、質問されてもいないのにその人の運命について語ってはならないとあります。エドガー・ケイシーについても、彼のリーディングにはケイシー自身の身内の者以外は、本人あるいは近しい者からの依頼あるいは同意がない限り行なってはならないというきまりがあり、いくら善意からであろうとも、勝手に他人のリーディングをとることはできませんでした。

 

*以前、ママ友に洗脳された母親が五歳の息子を餓死させるという事件がありました。「新潮」で母親がそのママ友に折伏されS学会に入信してからマインドコントロールが始まったということが報じられたとたんにこの事件に関する報道がいっせいに消えてしまったのは不気味でしたが、もし家族でもない者が、意見を求めてもいないのにあれこれと指図してきて、自分の生活にまで介入してきたならば、すぐにその人物から離れるべきです。たいていは「あなたに幸せになってもらいたいのよ」とか「きついようだけどあなたことを思って言っているのよ」などと言って善意を押しつけてきますが、本当にその人のことを思っているのなら、相手の人格に多少なりとも敬意を持っているのなら、一方的にあれこれ指図してくることなどありません。少なくとも相手に選択の余地を残します。たとえ実際に何らかの物質的な利益をもたらしてくれたとしても、相手の「自我」をないがしろにしていることには変わりなく、善意の底に必ず悪意があり、傲慢さがあります。

 

*ただ、インドにおいて霊的な師(グル)は、イニシエーションを授けた弟子に対し、あれこれと指図するものですが、これはグルは弟子のカルマを負うからであり、グル自身がしたことのないこと、できないことを弟子に強要することもありません。聖パードレ・ピオ(ピオ神父)も「私の霊的子供たちのすべてが天国に入るまで、私は決して天国には入らない。門の前で待っている」と言っておられますが、グルと弟子は霊的な絆で結ばれており、もし弟子が何か罪を犯したなら、グルはすべての責任を負う覚悟を持っています。

 

 

 

 

 

 

 

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