行動経済学の逆襲 | 秋山のブログ

秋山のブログ

ブログの説明を入力します。

今回取り上げるのは、今年のノーベル経済学賞受賞者のリチャード・セイラー氏の書籍である。ノーベル経済学賞に関しては、今まで散々に書いてきたが、日経BPの記事で氏が相田みつをの大ファンだという話を読んで興味を持った。そして比較的新しい書籍であるこの本を選んだのだが、大正解だったようである。(氏自身も著書の中で、経済学賞が正規のノーベル賞でないことを書いている)

 

 

この本の素晴らしい点は、二つある。一つは主流派経済学の誤りを見事に説明しているところである。経済学以外で科学的思考法を身につけてから、経済学を学んだ人間であれば、氏と全く同じように考えるだろう。逆に、経済学部に進む人間には、まずこの本を読んでもらいたいとも思う。

そしてもう一つは、行動経済学の成果に関する記述である。工夫された研究が実に面白い。導かれた結果は刺激的である。そして何よりも実用的だ。誰かに薀蓄をたれて自慢したいような話もある。例えば、自動車販売の低金利セールが大成功した理由なんて酒の肴にはもってこいだろう。私の家の近くのスキー場がいかに残念なことをやっているかも話せるだろう。(この文章は氏のユーモアあふれる表現に影響されている)

 

経済学における、最近のわずかに希望を感じる変化、エビデンスの重視や、実験の重視は、行動経済学の躍進によるものだ(先日取り上げた学会長は氏その人だった)。主流派経済学が持っている間違った思想(最適化+均衡、コースの定理、価格が正しいことや効率的市場仮説等)に対して、行動経済学が実際のデータを示して間違っていることを指摘する記述がたくさん載っているが、主流派は自分達の主張を守る理由を考えて出してくる。しかしそれを証明するデータを出してくることはない(逆にさらにその言い訳を否定するデータを氏が出すことがしばしばだ)。氏が主流派経済学者といかに戦ってきたかがそこにある。

 

最後にマイナス部分も書いておこう。

この書籍から分かる、氏の残念な点は、氏も貯蓄率の誤謬(経済主体同士の相互作用に対する失念)に気付いている様子がないところだろう。また、人間の心理を経済学に取り入れる他にも、しなくてはいけない修正は存在する。スティグリッツが指摘する市場の不完全性もそうだが、人間心理を取り入れれば、現在の主流派経済学がそのままで正しくなるわけではないだろう。