インフレの起き方 | 秋山のブログ

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「ポスト・ケインズ派経済学」においてインフレーションの基本的性格に関する主流派とポスト・ケインズ派の違いについての記載があった。主流派がP63『生産物市場における超過需要が原因となって生じるディマンドプル型のインフレーションを想定』しているのに対して、ポスト・ケインズ派はコストプッシュ型を想定しているとする。超過需要が価格を押し上げる力として働くことは確かであろうが、モノを生産し価格が決定される過程を需給曲線の均衡で表すことは現実とは一致せず、モデルとして有用性は乏しい。ポスト・ケインズ派は価格の決定を主にマークアップで考えるので、コストの上昇を重視することになるのだが、ここでいただけないのは、賃金の上昇を敵視した考えがあることだ。知識技術の進歩により人類は日々一人当たりの生産量を増大させているのだが、それを適切に賃金の上昇に繋げなければ成長は起きないのである。そして人々を豊かにするというのが経済学の目的であれば、賃金と同様に上がるインフレには問題は全くない。例として日本の高度成長期を見れば、賃金の上昇率の方が物価の上昇率よりも高くて、人々はどんどん豊かになっていったのだ。

 

インフレで問題にすべきは、独占寡占に関してである。原料費が上がっても、競争が激しい昨今の日本の産業においては、価格に転嫁できずに苦労している。一方途上国の極端な物不足を見れば、競争状態にないことは明らかだろう。

独占寡占による価格の上昇で、利益を得るのは投資家である。一部の経済学者は、投資家の利益が上がることが成長に繋がると主張するがそれは誤りだ。利益率が上がればより投資されるからというのがその理由であるが、投資によってよりモノが多く作られれば需要は勝手についてくるという考えはセイの誤謬であって、投資は需要(があるという予測)がなければおこなわれないし、逆に需要があればおこなわれるのだ。投資するための貨幣の供給に関しては、勘違いしやすいところであるが投資家は必須ではなく、銀行の信用創造や中央銀行からの供給で賄うことも可能である。

 

物価を考える時は、売る側だけでなく、買う側も考えなくてはならない(むしろ後者が重要だろう)。人々が買うための貨幣を持っていなければ、これもまた価格は上がりようがない(価格の上昇だけでなく、より多く買うようになるためにも収入は増加しなくてはならない)。それを理解していれば、ハイパーインフレなど簡単には起きないことも分かるだろう。過去のハイパーインフレをみれば、必ずそれが起こりうるだけの量の貨幣の供給がおこなわれている。よく見かける貨幣の信任が下がったからなどという主張は、物価が上がったことを相対的に言い直しただけの話に過ぎず、ハイパーインフレの説明として全く意味がない。

 

インフレ期待によって物価が上昇するという考えは意味が無い。もちろん物価の上昇を予想していれば、競争状態でも価格を決めるのは人の意志なので、そこまでの価格の上昇は認められやすいという意味で影響があるだろうが、現実的に計測できない概念を主要因とするのはナンセンスである。インフレ期待によって人々が買い急ぐからという機序は、全くのファンタジーであろう。

 

貨幣の量によって物価が決まるのではなく、物価等の変化によって貨幣量が決まる。

マネタリストは、中央銀行によってベースマネーの量が外生的に(恣意的に)決められると、準備率に応じて総貨幣量が決まると考えたが、実際は準備率に応じた最大限の貨幣が産出されるわけではなく、経済活動に対応する貸し出しによって貨幣が生み出されるのである。ベースマネーの量と準備率が貨幣量増大の足枷になることはありえるが、現代社会においてそれらが貨幣の量を決めているわけでは全くない。

生産される量が増えたり、モノの価格が上がった場合、その経済活動を支えるための銀行からの借り入れも増大するだろう。すなわちこれが貨幣の量と物価との相関のカラクリである。そして貨幣の量が物価より先行するのは、商品化より借り入れが先行するためであり、率が一致するのではなく相関なのは、物価の上昇だけでなく個数の増加もあるからである。

ここで注意すべきは、増えて意義があるのは、実体経済の貨幣の循環を形成する貨幣であって、例えば証券を買うために借り入れられた貨幣は関係がない。とにかくマネーサプライを増やせば物価が上がるということではないのである。

 

利子率の高さも物価上昇に本来は繋がるはずだ。払うべき利子も当然コストなので、価格に転嫁されることになる。ところが、利子率を上げることによってインフレが抑えられたりもする。どういうことか理由を説明すれば、利子が上がった分全て価格に転嫁できるわけではないため、その分賃金が減らされたり、労働者が解雇されたりすることになり、その結果、(消費性向の高い)労働者の収入の減少による有効需要の減少がおこり、それが価格の下降圧力となるのである。さらには、失業率の上昇はさらなる賃金下降にも繋がるだろう。利子率が上がったことによる事業抑制も失業率を上げるだろう。

そう考えると、インフレを抑制するために利率を上げるという政策がいかに愚かであるか分かるだろう。出口戦略などと言っている輩は、すべからく景気と物価に関して何も分かっていないのだ。

 

インフレがどのように起こるかということに関して、やや雑多な話になったが、おそらくこれらが考えるべきことであるだろう。インフレを考える時重要なのは、売買によって貨幣が循環していくイメージと、マークアップ原理による価格の決定である。